【完結】あやかし蔵の酒造り

三ツ矢

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再会と酒造りの始まり

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 霜月。空気もひんやりとしてきた頃、山古志と亀の井と香取も入蔵し、洗い付けの儀が催された。酒造時期を迎え、全ての道具を洗浄し、酒造りの安全を神主が祈願した。この時は皆神河酒造の法被を着て、神妙な面持ちで酒蔵に飾られている神棚に向かって柏手を打った。神河酒造の長い冬の始まりだった。
 酛麹米を洗米し、甑に敷いてしまったら今日の醸造作業はお終いだ。今日は蔵人でささやかな酒宴が開かれた。
 麻婆豆腐とエビチリにシュウマイと中華のオードブルが用意されていた。

「それでは本年の酒造の安全を祈願して」

 杜氏がコップを掲げた。

「乾杯」

カンパーイとコップがぶつかって、カチカチと音を立てる。

「元気にしてたか、おい、カメ」

 山古志はぐりぐりと頭を拳で亀の井の頭を撫でた。

「元気に不景気でしたよ。山古志さんもより黒くなってお戻りで」
「おうよ、伊豆の海は良いぞ。魚も旨いし」
「そういえばこの酒、東北行ってきた土産だって?」

 香取が飲みながら聞いた。香取も変わらず元気そうだった。

「セミナーで一緒だった人の蔵に行ってきたんですよ」
「それは女だなぁ。ゴンのくせにやるな」

 何もありませんよとかわして、エビチリを取った。

「それより常盤さんが退職してるなんて」

 亀の井はがっくりですよと、肩を落とした。

「やりたい事が見つかったって。海外を回ってて忙しいみたいです」
「海外かぁ。遠いな」

 亀の井が遠い目をした。

「いいじゃねぇか、どうせ忙しくてデートもできねえんだし」
「だってこの職場、杜氏と香取さんと末廣さんしか結婚してないじゃないですか。このままだと完全に独身、孤独死コースですよ」

 亀の井が頭を抱えた。

「まだこれから良い出会いがありますよ」

 稲里が、亀の井の肩を優しく叩いた。

「君たちもあっという間に年取るんだからね」

 亀の井がジト目で俺と稲里を見た。

「酒と女と歌を愛さぬ者は、一生阿呆で過ごすのだ。ルターがそう言った」

 杜氏がコップの中の酒を愛でながらそう呟いた。

「良い酒を造り、良い恋をしなさい。さて今日はお開きだ」

 久しぶりに二階を三人で使う日が来た。すでに香取と山古志の寝息が聞こえる。明日からまた早起きの日々が始まる。
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