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ラップ伝説の始まり

何故か手に入れた土地

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「…ここだ」

そう言われてついた先は、農作物が少々育てられ、川に面しているだけのちっちゃな村だった。
どう見たって資源はゼロに近い。

「お前は国王に追放されたのだ。ここでひっそりと餓死でもしておけ」

数分前までは期待と尊敬の目をしていたのに、打って変わって家畜を扱うような口調になっていた。

「…俺は、一体どこで間違えたんですか?」
「王の期待に沿わなかった。そこが一番の過ちだ」

ああ、そういうことか。要するに、こいつら衛兵も社畜ってことか。

「…大変だな。社畜って」

その呟きに血相を変えた衛兵がいた。

「…貴様、今何を口走った?」
「え?だ、だから。都合良く使われて、要らなくなったら雑用ばかりを押し付けられる。そんな奴らのことを俺の元の世界では社畜って…」
「貴様!本気で行っているのか!?」

見れば、血眼をギラギラと光らせた屈強な男が斧を構えていた。

「本気か?本気か…仕方ない。本気なら今ここで死罪にする!」
「え、えぇっ!」

なんかこいつ自問自答した挙げ句殺そうとしてきてるぞ!
やばい…サランラップなんかじゃあの屈強な斧なんて…。

えいや待て。
確かサランラップって新品のやつだと引っ付いて硬くなるよな?
ってことは何百枚と重ねてやれば大きな盾とかになるんじゃ…?

「う、うおー!間に合えぇ!」

俺は全力でサランラップを出した。その数一秒900枚。サランラップに対する扱いがおかしな程器用だからか、ピンッピンに張られたサランラップが9000枚盾のような分厚さで構えていた。

「来いっ!」
「うおぉ!」

大きく構えたその背中から人の身長程の斧が振りかざされる。
これで無理なら諦めよう…。と思った矢先。
ガキィッ!と金属同士がぶつからなければならない音と共に俺に斧を振りかざした男が数十メートル先の岩にめり込んだ。

「あがっ!っがぁ…」
「…え?何が起こったの?」

サランラップで出来た盾がどんな性能なのかを調べようとじっと見た時だった。

《サランラップの盾 Lv.90000

特有エンチャント カウンター Lv.Max→ダメージ反射率100%
         ダメージ軽減 Lv.Max→ダメージ99%カット

説明 「サランラップ達人」が窮地に追いやられたとき、痛みを反射出来るような盾をつくりたいと願われて産まれた盾
    所有者のサランラップ称号、または期待値のランクによりパワーアップする値が変わる。

最高基礎値アップ率
防御 +80000 HP +20000

最低基礎値アップ率
防御 +60000 HP +9000

共通付与スキル
カウンター Lv.Max
ダメージ軽減 Lv.Max                   》

「うぇっ!?」

見たことない数字にびっくりする。てか…

「あのおっさん、本気で殺しに来てたのかよ…」

ダメージ反射率が100%ってことは、少なくともモロに食らってたらあれぐらい吹っ飛んでたってことだよな…?

「お、おっそろし!」
「お、恐ろしいのはお前の方だ!」

俺が呟いた後、間髪入れずに一人の衛兵がそう言った。

「だ、大隊長!無事ですか!?」
「き、貴様ぁ…爪を隠して…!」
「こ、こいつもしかして…大隊長をこうしてぶっ殺す為にわざとあんな演技したんじゃ…!」

お、おいおい…。俺もサランラップ君がここまで出木杉くんだったと思わなかったんだって…。

「は、はやく!大隊長を担いで王宮へ戻るぞ!」
「お、覚えてろ!この役立たず勇者が!」
 
それだけ吐き捨てたら、衛兵たちはどっか消えてしまった。
全く、腰抜け共が。大隊長さんみたいに正面から向かってこんかい!

「はあ…とりあえず村の人達に挨拶してくるか…」


「まあ~、こんな辺境の地に来るとは…とんだ物好きもいたもんさね~」
「んだんだ。こんの村なんて、ちょっとの畑とちょっとの魚しかないべ?」
「おれ、このにーちゃんすき!もっとあそぼー!」

ふむふむ。第一印象はいい。
と言うかめちゃくちゃいい村じゃねえか。

「あはは…みんな、仲良くしてくださいね」
「ところで…お前さん、中々面白い鉱石を作るじゃないか」

と言ってきたのはこの村の鍛治さん。

「鉱石…?鉱石って…ああ、サランラップの事ですか?」
「そうそう。その…さらんらっぷ?とやらを固めた鉱石。まあ、名前に由来してラップ鉱石とでも言おうか。そのラップ鉱石は中々いい武器や防具が作れそうな鉱石になりそうだ」
「な、なるほど…」

つまり、俺のスキルを使ってラップ鉱石を作って、その鉱石で作った武器がとても強くなりそう、って訳か。

「どうだ?一回だけでもいいから作ってくれねぇか?」
「あ、はい。それは別にいいですけど…」

強い武器を作ったりするならまず鉄が溶ける温度で溶けるぐらいがちょうどいいな。となると、1000度ぐらいか?
あとは…そうだな。再凝固したら一層硬くなるようにしてみっか。
よし!イメージバッチリ!

「んぬぬぬぬぬ…」

俺はまたサランラップを生成し、生成したラップを大きめの鉱石ぐらいの大きさになるように少しずつギュッと固めてく。想像より少し大きくなったが…まあ許容範囲だ。

「さて、また見てみますかね~」

そうしてまた凝視してみる。

《ラップ鉱石・極

説明 サランラップ達人が加工しやすさと強靱さの両方を追求して出来た鉱石。鉄と同じ加工法で作れ、固まればこの世の何よりも硬くなる。また、鍛冶屋の称号のランク、または加工者の期待値によってランダムで一つエンチャントが付与される。称号や期待値が高ければ高いほど確率は高くなる。

最高確率 最低確率
100%    60%  》

「……」

もう、驚かないぞ。
というか驚けないぞ?

「い、一応。作れたぞ。鉄と同じ加工法で武器とかを作ればいいらしい」
「そうかい!あんがとよ、兄ちゃん。お礼と言ったらなんだが、この鉱石で作った武器をあんたにプレゼントしたいからよ、どんな武器がいいか言ってくれねぇか?」
「え?いやいや、そんなのいいですよ」

と、遠慮をする。社畜生活で遠慮は気が遠くなる程やってきたからあんまり苦ではない。

「いやいや。こんないい石もらってお礼なしは鍛冶のなさ蹴ってやつさ。だから、どんな武器がいいか教えてくれねぇか?」
「ん、ん~…」

どうやら本当に作ってくれるようだ。
う~ん、そうなると悩むなぁ~。大太刀はかっこいいし、レイピア?見たいな名前のやつもスリムでかっけぇし。二刀流は玄人って感じがしていいし、一風変わって大鎌、なんてのも…。
悩みに悩んだ結果、俺は

「…じゃあ扇でお願いします」
「扇かい!?はっは~!こりゃ大仕事になるべよ~」

あれ?そんなに時間かかるのか?

「あ~…ありゃあんた地雷踏んだよ」
「え?」
「あいつ、腕は確かなんだが、扇作成に関しては右に出るもんはいないね。まあその代わり時間はかかるけどね」
「…因みにどれぐらい…?」

これで制作に5年とかだったら大人しく自分で武器を作るが…

「まあ多分、鉄と同じなら3時間はかかるかな?」

え?

「3時間?」
「ああ。他の武器とかだと一時間で終わるんだけどね」

どうやら、ここは王様が把握してないだけで、とんでもない超人の集まりなのかもしれない。
この日がこれから始まる奇想天外な日々の幕開けとなった。
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