もしかしたらやりすぎたかもしれない話

睦月

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12.

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 前途多難。なんて言っていたが案外そうでもなく、大きなトラブルも起こらず早3年。

 打ち解けるまでにあった事といえば、アルチュールがなかなか俺のことを愛称で呼んでくれなかった事。
 長い付き合いになるだろうし、俺は俺で結構早いうちにアルチュールの事をアルって呼び捨てにさせてもらってるのもあって是非呼んでほしいのに、これが本当になかなかクレアって呼んでくれない。

 最初の1年かけてようやくクレアノーラ様からクレア様って呼んでもらえるようになったから次はと思っても、意外と頑固なアルは敬称を外してくれない。
 それから2年経った今でもそうなのだから、もしかしたら主従関係がなくなるまで解消されない悩みなのかもしれない……。
 でもまぁ、なるようになるだろうと信じたい。


 毎日の過ごし方といえば、家庭教師から礼法や魔法を習ってーー危ないからといって攻撃魔法は未だ教えてもらえていないーークリストフに構ってもらったり、自室でテディと遊んだり……エトセトラ。

 でもやっぱり一番楽しみなのは、ダリィが作るスイーツをいただける3時のおやつアフタヌーンティー
 昨日のスイーツは一口大のシュークリーム。中には濃厚なカスタードクリームとランダムに様々なフルーツが入っていて、これでにやけない方がおかしいってもんだろう。

 そしてアルと主従関係を結んでからの毎日は魔法の授業の一環として、屋敷にある修練場で主に剣の修行をしているクリストフとアルチュールの怪我を治していたりする。
 とは言ってもお兄様に至ってはいつも傷ひとつない為、主にアルチュールの擦り傷などを治す程度だからちょろいもんだ。
 
 そうして今日も今日とて治癒魔法の実践をした後、クリストフとアルを含めた3人で3時のお茶会を楽しんでいた。

「そういえば、クレアはパーティに着ていくドレスはもう決めた?」

 育ち盛りである2人の為にとダディが作ったボリュームのあるサンドウィッチを片手に、クリストフが聞いてきた。

「……まだ決めれてない」

 クリストフが10歳になった事によって、このクリュッグ家でちょっとしたお祝いと顔合わせを兼ねたダンスパーティが開かれる。
 そこに着ていくドレスがまだ決まっていないのだが、……これが意外と難しい。色々考えているうちにアルはもう決まってしまったらしいから、実質まだなのは俺だけ。

 主役のクリストフと色が被るのはダメかな~と思っていたのだが、クリュッグ家にとっては黒が正装の色。
 そしてティメオはいつも通りクリストフと同じく黒の礼装だから、参加者でもない限りそこまで気にしなくてもいいのだろうけど万が一がある。
 もしも主役のクリストフより俺が目立ってしまってグレたらどうしよう、とかなんとか。
 
 んーでもやっぱり深く考えすぎない方がいいのかも?

「デザインが決まってないとか?」
「ううん、どの色にしようか迷ってて」
「……? てっきり僕は黒を選ぶと思ってたんだけど、もしかしてお揃い嫌だったとか?」

 うんうんと悩んでいたら爆弾を落とされた。

「……? 黒のドレスでもいいの?」
「……違うの?」

 てっきり僕と父様とクレアの3人で揃えると思ってたんだけど、なんて。
 俺の心配とか配慮とか色々返して欲しいと思う。

「黒のドレスにする!」

 もうこれ以上あれこれと悩むのはごめんだからと慌てて返事したのに対し、

「ならそれで決まりだね」

 にっこりと、どこか嬉しそうに笑いながらクリストフが頷いた。


 *  *


「クレア様、……大丈夫ですか?」
「……まだ大丈夫」

 時間は夜。場所は二階にあるパーティ会場の下の庭。よくいる中庭ほどではないけど、ちょっとした季節の花を楽しむことができるそこに俺たちはいた。
 はじめのうちはティメオの側にーー挨拶などはティメオに任せっぱなしでーーいたのだが、途中からそろそろ人酔いしそうな予感がして一息つこうと抜け出してきたというわけだ。

 パーティ会場から漏れ出る光によっていつもと違う雰囲気をかもし出してはいるが、やっぱり緑が多いだけあって空気がおいしい。

「アルは私についてきてよかった?」
「おれはクレア様の護衛なんで全然大丈夫ですっ!」

 うーんと一つ伸びをして尋ねれば、開放感あふれる庭にいるとだけあって俺と少し離れた場所にいたアルがぶんぶんと首を横に振り慌てて答えた。
 今日くらい自由に楽しんでいいと思うんだけどなぁ……。いくら同い年と言えど性別が違えば話すことが少なくつまらないだろうに。

 根っからの真面目でいい奴なんだけど、文句一つ言わず従順に従う様子を見ていればそりゃあ、原作のクレアノーラがアルに何してもいいって勘違いしちゃうよねっていうのがわからなくもない。
 しかも触り心地の良い赤髪だけを見れば熱血系かもしれないけど、色鮮やかな緑色の瞳と顔立ちによって将来爽やか青年路線を狙えそうな美少年。
 危うく何かに目覚めてしまいそうだったが、今では可愛い弟分。それが俺から見るアルの印象だった。

「あとどのくらいで終わるのかな?」

 上を見上げてみても、音楽は未だ鳴り止む様子はない。
 いっその事ティメオとクリストフにもう一度会ってから、疲れたとでも言って早めに寝させてもらおうかな~とか企んでいれば、

「あっ」

 バルコニーにいた人のハンカチだろうか? 何かが風に舞ってこちらに落ちてくるのが見えた。
 届きそうだったから思わず、といった感じでついアルより先に手を伸ばしてしまった。

 よっと小さくジャンプ。まだ子どもな事もあってヒールがないから動きやすい。
 思惑通りに収まったハンカチを手に華麗に着地、ーーといきたかったのだが、残念な事に今世ではあまり運動神経の良くない俺は後ろにバランスを崩してしまった。頭ではわかっているのだが体がついていかない、というやつだ。

「クレア様…!」

 ぐっと景色がスローモーションに見え始める。こけたりする時って、こういう事がたまにある気がする。

 アルが俺に向かって手を伸ばすのを確認しつつ頭の隅で、このままじゃ尻もちついて服を汚しちゃうなーとか。おしり痛いかなーとか考えつつ、もうそろそろ地面とご対面だと覚悟を決めたのに、ーーおかしい。

 パッとアルが俺の腕を掴んだ。なのに体勢が戻らないばかりか、体は沈んでいく。
 横目で地面を通り過ぎたというありえない現象を目にしてしまった後、まるでジェットコースターの頂点から落ちていく様な浮遊感に俺は声にならない悲鳴をあげた。


 



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