俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
25 / 317
第2章 帝国騒乱 編

9.金色の皇女は苦悩する

side ルクセリア・バアル

(私はどうすれば良いのでしょうか?)

 私の名前はルクセリア・バアル。バアル帝国皇帝の第四子にして第一皇女。現在の皇族の中で唯一の皇女です。

 皇族という最も尊い血筋に生まれ、私は何不自由なく生活してきました。
 しかし、そんな私の人生が幸福なものであったかと聞かれると、はっきりそうだとは断言できません。

「ルクセリア。お前だけは幸せになってくれ」

 それは、皇帝である父の口癖でした。
 私は戦争に駆り出された兄達と違い、人生の大部分を宮廷で過ごしてきました。そのため、父と過ごす時間も兄妹で一番長くありました。

「覇王の一族であるバアル皇族の男子として生まれた以上、息子達が戦乱の中で生きていくのは仕方がないことだ。余とて、多くの敵国と戦い、ときに自分の親兄弟とすら戦ってきた。だが・・・お前はそうではない」

 皇族として、皇帝としてしか生きられなかった父。
 親として息子達と接することができなかった父は、他の兄弟達に与える分の愛情まで私に注いでくれました。それはもちろん、幸福なことでした。しかし、同時に父の愛情を重く思うときもありました。

「お前だけは、どうか、血塗られることのない人生を歩んでくれ。どうか、頼む。普通の女の子として、一人の女として、幸せになっておくれ。
 お前まで帝国の繁栄のために犠牲にしてしまえば、余は本当に父ではなくただの血まみれの覇王なってしまう」

 父と話した最後の会話。それがどれだけ達成困難なことであるのか、父は気づいているのでしょうか。
 皇族の息女として生まれ、本来であれば政略結婚に使われていたであろう私が、本当に女として幸せになることができると、父は思っていたのでしょうか。

(そう、たとえ私が普通の女としての幸せを望んだとしても、それはきっと叶うことはないでしょう。どれだけ戦場から離したとしても、政治から離したとしても、私は皇帝のたった一人の娘なのだから)

 その予想は、すぐに当たることになりました。
 皇女である私に、第一皇子であるラーズ・バアルから縁談が持ち込まれてきました。

 縁談の相手は敵国ランペルージ王国の大貴族、マクスウェル辺境伯家の跡継ぎであるディンギル・マクスウェル様でした。





「随分と急な話ですね。宮廷の御前会議は通しているのでしょうか?」

「い、いや、それはまだだが・・・」

 私が訊ねると、兄ラーズ・バアルはしどろもどろになって言葉を濁しました。

(通しているわけがありませんね。私を敵国に嫁がせるなんて、少なくともあの男が許すわけがない)

 私はラーズ兄様にばれないようにこっそりと溜息をついて、兄の行動の意図を考えました。

(私がマクスウェル家に嫁げば、かの東方国境守護の大貴族が帝国と縁戚関係になる。そうなれば、味方に引き入れて東方国境を突破することも簡単ですね。ラーズ兄様の帝国第1軍団は無傷で国境を突破して、ランペルージ王国の王都へと攻め込むことができる。ラーズ兄様は父の遺言を達成して、次期皇帝になれるというわけですか)

 それはあまりにも一方的で、身勝手な要求だった。自分が皇帝という地位に就くために、妹を敵国へと嫁がせようとしているのだから。

(私が敵国であるランペルージ王国でどのような扱いを受けるか・・・考えられないのでしょうね、今のラーズ兄様には)

 ラーズ・バアルという人間は、決して悪人ではない。情に厚く、身分が下の者にも気安く接する、懐が深い男としても知られています。直情的で怒りっぽいという部分はあったものの、その欠点も含めて兄を慕っていた人間が大勢いました。

(私だってラーズ兄様のことが好きだった。でも、変わってしまった。あの敗戦から)

 そんな人々に慕われていた兄も、5年前に他でもないマクスウェル家に敗れて以来、周囲を顧みない人間へと変わってしまいました。

 股肱ここうの臣とも呼べる家臣を失い、必要以上に皇帝の椅子にこだわるようになりました。
 その背景にあるのが「家臣の死を無駄にしたくはない」という兄らしい思いであるのが痛々しいですが、その思いがかえって家臣を苦しめることになっています。

 2年前には無理をして南の海から軍船でランペルージ王国に侵攻をしたラーズ兄様は、ランペルージ王国に到達すらできず、南海の覇者である大海賊ドラコ・オマリに撃退されてしまいました。

 これらの敗戦を経て、もはや第1軍団にはまともにランペルージ王国と戦う力は残っていません。それこそ、政略結婚でもしてマクスウェル家を取り込みでもしない限り、ラーズ兄様が皇帝になることは不可能でしょう。

「恐れながら、ラーズ殿下。殿下はいったい如何なる権限を持って姫様の婚姻を決めておられるのですか?」

 どうすれば良いかわからず考え込んでしまった私に、横から助け船が入りました。

「ぐっ、サラザール騎士団長・・・!」

 話に割って入ってきた男を睨みつけて、ラーズ兄様がうなるようにその名前を呼んだ。

 その男性の名前は、ラジャン・サラザール。皇帝である父の腹心の部下であり、帝国近衛騎士団の団長をしている騎士だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日、18時よりもう1話投稿します。
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!