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第2章 帝国騒乱 編
9.金色の皇女は苦悩する
side ルクセリア・バアル
(私はどうすれば良いのでしょうか?)
私の名前はルクセリア・バアル。バアル帝国皇帝の第四子にして第一皇女。現在の皇族の中で唯一の皇女です。
皇族という最も尊い血筋に生まれ、私は何不自由なく生活してきました。
しかし、そんな私の人生が幸福なものであったかと聞かれると、はっきりそうだとは断言できません。
「ルクセリア。お前だけは幸せになってくれ」
それは、皇帝である父の口癖でした。
私は戦争に駆り出された兄達と違い、人生の大部分を宮廷で過ごしてきました。そのため、父と過ごす時間も兄妹で一番長くありました。
「覇王の一族であるバアル皇族の男子として生まれた以上、息子達が戦乱の中で生きていくのは仕方がないことだ。余とて、多くの敵国と戦い、ときに自分の親兄弟とすら戦ってきた。だが・・・お前はそうではない」
皇族として、皇帝としてしか生きられなかった父。
親として息子達と接することができなかった父は、他の兄弟達に与える分の愛情まで私に注いでくれました。それはもちろん、幸福なことでした。しかし、同時に父の愛情を重く思うときもありました。
「お前だけは、どうか、血塗られることのない人生を歩んでくれ。どうか、頼む。普通の女の子として、一人の女として、幸せになっておくれ。
お前まで帝国の繁栄のために犠牲にしてしまえば、余は本当に父ではなくただの血まみれの覇王なってしまう」
父と話した最後の会話。それがどれだけ達成困難なことであるのか、父は気づいているのでしょうか。
皇族の息女として生まれ、本来であれば政略結婚に使われていたであろう私が、本当に女として幸せになることができると、父は思っていたのでしょうか。
(そう、たとえ私が普通の女としての幸せを望んだとしても、それはきっと叶うことはないでしょう。どれだけ戦場から離したとしても、政治から離したとしても、私は皇帝のたった一人の娘なのだから)
その予想は、すぐに当たることになりました。
皇女である私に、第一皇子であるラーズ・バアルから縁談が持ち込まれてきました。
縁談の相手は敵国ランペルージ王国の大貴族、マクスウェル辺境伯家の跡継ぎであるディンギル・マクスウェル様でした。
「随分と急な話ですね。宮廷の御前会議は通しているのでしょうか?」
「い、いや、それはまだだが・・・」
私が訊ねると、兄ラーズ・バアルはしどろもどろになって言葉を濁しました。
(通しているわけがありませんね。私を敵国に嫁がせるなんて、少なくともあの男が許すわけがない)
私はラーズ兄様にばれないようにこっそりと溜息をついて、兄の行動の意図を考えました。
(私がマクスウェル家に嫁げば、かの東方国境守護の大貴族が帝国と縁戚関係になる。そうなれば、味方に引き入れて東方国境を突破することも簡単ですね。ラーズ兄様の帝国第1軍団は無傷で国境を突破して、ランペルージ王国の王都へと攻め込むことができる。ラーズ兄様は父の遺言を達成して、次期皇帝になれるというわけですか)
それはあまりにも一方的で、身勝手な要求だった。自分が皇帝という地位に就くために、妹を敵国へと嫁がせようとしているのだから。
(私が敵国であるランペルージ王国でどのような扱いを受けるか・・・考えられないのでしょうね、今のラーズ兄様には)
ラーズ・バアルという人間は、決して悪人ではない。情に厚く、身分が下の者にも気安く接する、懐が深い男としても知られています。直情的で怒りっぽいという部分はあったものの、その欠点も含めて兄を慕っていた人間が大勢いました。
(私だってラーズ兄様のことが好きだった。でも、変わってしまった。あの敗戦から)
そんな人々に慕われていた兄も、5年前に他でもないマクスウェル家に敗れて以来、周囲を顧みない人間へと変わってしまいました。
股肱の臣とも呼べる家臣を失い、必要以上に皇帝の椅子にこだわるようになりました。
その背景にあるのが「家臣の死を無駄にしたくはない」という兄らしい思いであるのが痛々しいですが、その思いがかえって家臣を苦しめることになっています。
2年前には無理をして南の海から軍船でランペルージ王国に侵攻をしたラーズ兄様は、ランペルージ王国に到達すらできず、南海の覇者である大海賊ドラコ・オマリに撃退されてしまいました。
これらの敗戦を経て、もはや第1軍団にはまともにランペルージ王国と戦う力は残っていません。それこそ、政略結婚でもしてマクスウェル家を取り込みでもしない限り、ラーズ兄様が皇帝になることは不可能でしょう。
「恐れながら、ラーズ殿下。殿下はいったい如何なる権限を持って姫様の婚姻を決めておられるのですか?」
どうすれば良いかわからず考え込んでしまった私に、横から助け船が入りました。
「ぐっ、サラザール騎士団長・・・!」
話に割って入ってきた男を睨みつけて、ラーズ兄様がうなるようにその名前を呼んだ。
その男性の名前は、ラジャン・サラザール。皇帝である父の腹心の部下であり、帝国近衛騎士団の団長をしている騎士だった。
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本日、18時よりもう1話投稿します。
(私はどうすれば良いのでしょうか?)
私の名前はルクセリア・バアル。バアル帝国皇帝の第四子にして第一皇女。現在の皇族の中で唯一の皇女です。
皇族という最も尊い血筋に生まれ、私は何不自由なく生活してきました。
しかし、そんな私の人生が幸福なものであったかと聞かれると、はっきりそうだとは断言できません。
「ルクセリア。お前だけは幸せになってくれ」
それは、皇帝である父の口癖でした。
私は戦争に駆り出された兄達と違い、人生の大部分を宮廷で過ごしてきました。そのため、父と過ごす時間も兄妹で一番長くありました。
「覇王の一族であるバアル皇族の男子として生まれた以上、息子達が戦乱の中で生きていくのは仕方がないことだ。余とて、多くの敵国と戦い、ときに自分の親兄弟とすら戦ってきた。だが・・・お前はそうではない」
皇族として、皇帝としてしか生きられなかった父。
親として息子達と接することができなかった父は、他の兄弟達に与える分の愛情まで私に注いでくれました。それはもちろん、幸福なことでした。しかし、同時に父の愛情を重く思うときもありました。
「お前だけは、どうか、血塗られることのない人生を歩んでくれ。どうか、頼む。普通の女の子として、一人の女として、幸せになっておくれ。
お前まで帝国の繁栄のために犠牲にしてしまえば、余は本当に父ではなくただの血まみれの覇王なってしまう」
父と話した最後の会話。それがどれだけ達成困難なことであるのか、父は気づいているのでしょうか。
皇族の息女として生まれ、本来であれば政略結婚に使われていたであろう私が、本当に女として幸せになることができると、父は思っていたのでしょうか。
(そう、たとえ私が普通の女としての幸せを望んだとしても、それはきっと叶うことはないでしょう。どれだけ戦場から離したとしても、政治から離したとしても、私は皇帝のたった一人の娘なのだから)
その予想は、すぐに当たることになりました。
皇女である私に、第一皇子であるラーズ・バアルから縁談が持ち込まれてきました。
縁談の相手は敵国ランペルージ王国の大貴族、マクスウェル辺境伯家の跡継ぎであるディンギル・マクスウェル様でした。
「随分と急な話ですね。宮廷の御前会議は通しているのでしょうか?」
「い、いや、それはまだだが・・・」
私が訊ねると、兄ラーズ・バアルはしどろもどろになって言葉を濁しました。
(通しているわけがありませんね。私を敵国に嫁がせるなんて、少なくともあの男が許すわけがない)
私はラーズ兄様にばれないようにこっそりと溜息をついて、兄の行動の意図を考えました。
(私がマクスウェル家に嫁げば、かの東方国境守護の大貴族が帝国と縁戚関係になる。そうなれば、味方に引き入れて東方国境を突破することも簡単ですね。ラーズ兄様の帝国第1軍団は無傷で国境を突破して、ランペルージ王国の王都へと攻め込むことができる。ラーズ兄様は父の遺言を達成して、次期皇帝になれるというわけですか)
それはあまりにも一方的で、身勝手な要求だった。自分が皇帝という地位に就くために、妹を敵国へと嫁がせようとしているのだから。
(私が敵国であるランペルージ王国でどのような扱いを受けるか・・・考えられないのでしょうね、今のラーズ兄様には)
ラーズ・バアルという人間は、決して悪人ではない。情に厚く、身分が下の者にも気安く接する、懐が深い男としても知られています。直情的で怒りっぽいという部分はあったものの、その欠点も含めて兄を慕っていた人間が大勢いました。
(私だってラーズ兄様のことが好きだった。でも、変わってしまった。あの敗戦から)
そんな人々に慕われていた兄も、5年前に他でもないマクスウェル家に敗れて以来、周囲を顧みない人間へと変わってしまいました。
股肱の臣とも呼べる家臣を失い、必要以上に皇帝の椅子にこだわるようになりました。
その背景にあるのが「家臣の死を無駄にしたくはない」という兄らしい思いであるのが痛々しいですが、その思いがかえって家臣を苦しめることになっています。
2年前には無理をして南の海から軍船でランペルージ王国に侵攻をしたラーズ兄様は、ランペルージ王国に到達すらできず、南海の覇者である大海賊ドラコ・オマリに撃退されてしまいました。
これらの敗戦を経て、もはや第1軍団にはまともにランペルージ王国と戦う力は残っていません。それこそ、政略結婚でもしてマクスウェル家を取り込みでもしない限り、ラーズ兄様が皇帝になることは不可能でしょう。
「恐れながら、ラーズ殿下。殿下はいったい如何なる権限を持って姫様の婚姻を決めておられるのですか?」
どうすれば良いかわからず考え込んでしまった私に、横から助け船が入りました。
「ぐっ、サラザール騎士団長・・・!」
話に割って入ってきた男を睨みつけて、ラーズ兄様がうなるようにその名前を呼んだ。
その男性の名前は、ラジャン・サラザール。皇帝である父の腹心の部下であり、帝国近衛騎士団の団長をしている騎士だった。
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本日、18時よりもう1話投稿します。
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