27 / 317
第2章 帝国騒乱 編
11.隠された素顔
バアル帝国第一皇女、ルクセリア・バアル。
宮廷の奥に隠されてほとんど公の場に顔を出さない彼女について、俺が知っていることはほとんどない。
知っていることといえば年齢が18歳であること。美しい金髪を持った絶世の美女であるという噂くらいのものだ。
宮廷に出入りしている商人からは「一目見たら二度と忘れない天使のような方だ!」という証言を帝国に潜伏する【鋼牙】の諜報員が得ている。
「天使のような絶世の美女か。それは楽しみだな」
「ディン、頼むから。本当に頼むからルクセリア皇女におかしなことをしてくれるなよ! 外交問題になるからな!」
マクスウェル辺境伯家の応接室にて。俺はソファに腰掛けてルクセリア皇女が来るのを待っていた。
隣には辺境伯である父親がいて、何度も何度も、耳にタコができるほど同じ話を繰り返している。
ルクセリア皇女は1週間ほど前にマクスウェル辺境伯領に到着したらしく、俺が王都から戻ってくるのを領都アヴァロンにある宿に滞在して待っているらしい。
一足先に親父には挨拶を済ませたとのことだが、俺が会うのはこれが初めてである。
「頼むぞ! 本当に、おかしなことはするなよ!」
「わかってるって! まったく、おかしなことって何だよ!」
「抱きついて顔をなめまわすとか、服を破って裸にするとか、その場で押し倒して子を孕ませるとかだ!」
「親父は俺を何だと思ってんだ!? 自分の息子を発情した山猫と勘違いしてないか!?」
「お前だったらやりかねないだろうが! いいか! 本当に外交問題だからな!」
親父の俺に対する評価がここまで低いとは思わなかった。
さすがの俺でも性犯罪は・・・うん、たぶんしていない。新入りのメイドをベッドに引きずり込むとか、そういう可愛いイタズラくらいのものだ。
あれは最終的に合意になったから、よし。うん、問題ない問題ない。
「いや、外交問題を避けるべきなのはもちろんわかるけどな。しかし、帝国とは長年の敵国なんだから、これ以上、関係がこじれることなんてないだろうが。何をそんなに気にしてるんだよ」
「敵国だからといって、あちらから攻撃を仕掛けてくるのと、こちらが原因を作るのとではまるで違う! お前には言うまでもないことだろうが、我々がこれまで帝国を撃退してこられたのは、帝国が周りに敵だらけで全軍を動かしてこなかったからだ!
しかし、ルクセリア皇女に手を出せば、全軍とはいかないまでもこれまで以上の規模で攻めてくるぞ!」
「ふーん、まあそうだろうな」
皇族が無礼を受けたとなれば、報復をしなければ国の威信に関わってしまう。それは次期皇帝を選ぶ継承戦よりも重要なことかもしれない。
それに、亡き皇帝がルクセリア皇女を溺愛していたというのは有名な話である。
もしも俺が彼女に狼藉を働くようなことがあれば、皇帝の遺臣である近衛騎士団が動く可能性もある。
(帝国第1軍団に近衛騎士団、まとめて相手をするのはたしかに面倒だな。さすがに無策で勝つ自信はないぞ)
「ま、なるようになるだろ。どうせ第1軍団も近衛騎士団も、帝国と戦い続けていたら最後には戦うんだから」
「なるようにならなかったらどうするのだ! まったく、お前はいつもこう・・・」
「説教は勘弁してくれよ、親父。そんなことより、ルクセリア皇女は本当に噂通りの美女なのかい? 親父はもう会ったんだろ?」
「む、それは、まあ、会ったが・・・」
親父はやや言葉を濁すようにする。しばらく思案するように手の平であごを撫でつけて、
「・・・まあ、グレイスの次くらいには美人だと思うがな」
「いや、それは基準にならねえよ。しかし、まあ・・・」
いったいあのクソババアのどこがそんなに良いのかは激しく不明だが、「グレイスの次に美人」というのは妻を愛してやまない親父にとっては最高の賛辞である。
(なるほど、それほどの女か。だからこんなに口を酸っぱくして注意しているわけだな。俺が気狂いしかねない程度には美人なわけだな。やばいな、場合によっては帝国を滅ぼしてでも欲しくなるかもしれない)
「楽しみだな。うん、楽しみだ」
「・・・本当に頼むぞ。信じてるからな」
「失礼します。旦那様、坊ちゃま」
ドアをノックして、家令が入室してくる。
「お客様がお見えです。こちらにお通ししてもよろしいでしょうか?」
「・・・わかった、通してくれ」
親父が家令に命じる。しばらくして、応接室に3人の女性が入ってきた。
一人目は鎧を身にまとった女騎士。おそらくは皇女の護衛だろう。一目見ただけだが、それなりの使い手であることが感じとれる。
二人目は簡素なドレスを着てメガネをかけた女性。身の回りの世話をする侍女か、知的に見えるから文官かもしれない。
そして――最後の一人が問題だった。
「お招きいただき光栄でございます。マクスウェル辺境伯様。そして、お初にお目にかかります。ディンギル・マクスウェル様」
高級そうな薄紅色のドレスを着たその女性は、頭をすっぽりと覆うように白いヴェールを被っていた。
顔はほとんど見ることはできず、噂通りの美女かどうかを確認できなかった。
「帝国第一皇女、ルクセリア・バアルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
宮廷の奥に隠されてほとんど公の場に顔を出さない彼女について、俺が知っていることはほとんどない。
知っていることといえば年齢が18歳であること。美しい金髪を持った絶世の美女であるという噂くらいのものだ。
宮廷に出入りしている商人からは「一目見たら二度と忘れない天使のような方だ!」という証言を帝国に潜伏する【鋼牙】の諜報員が得ている。
「天使のような絶世の美女か。それは楽しみだな」
「ディン、頼むから。本当に頼むからルクセリア皇女におかしなことをしてくれるなよ! 外交問題になるからな!」
マクスウェル辺境伯家の応接室にて。俺はソファに腰掛けてルクセリア皇女が来るのを待っていた。
隣には辺境伯である父親がいて、何度も何度も、耳にタコができるほど同じ話を繰り返している。
ルクセリア皇女は1週間ほど前にマクスウェル辺境伯領に到着したらしく、俺が王都から戻ってくるのを領都アヴァロンにある宿に滞在して待っているらしい。
一足先に親父には挨拶を済ませたとのことだが、俺が会うのはこれが初めてである。
「頼むぞ! 本当に、おかしなことはするなよ!」
「わかってるって! まったく、おかしなことって何だよ!」
「抱きついて顔をなめまわすとか、服を破って裸にするとか、その場で押し倒して子を孕ませるとかだ!」
「親父は俺を何だと思ってんだ!? 自分の息子を発情した山猫と勘違いしてないか!?」
「お前だったらやりかねないだろうが! いいか! 本当に外交問題だからな!」
親父の俺に対する評価がここまで低いとは思わなかった。
さすがの俺でも性犯罪は・・・うん、たぶんしていない。新入りのメイドをベッドに引きずり込むとか、そういう可愛いイタズラくらいのものだ。
あれは最終的に合意になったから、よし。うん、問題ない問題ない。
「いや、外交問題を避けるべきなのはもちろんわかるけどな。しかし、帝国とは長年の敵国なんだから、これ以上、関係がこじれることなんてないだろうが。何をそんなに気にしてるんだよ」
「敵国だからといって、あちらから攻撃を仕掛けてくるのと、こちらが原因を作るのとではまるで違う! お前には言うまでもないことだろうが、我々がこれまで帝国を撃退してこられたのは、帝国が周りに敵だらけで全軍を動かしてこなかったからだ!
しかし、ルクセリア皇女に手を出せば、全軍とはいかないまでもこれまで以上の規模で攻めてくるぞ!」
「ふーん、まあそうだろうな」
皇族が無礼を受けたとなれば、報復をしなければ国の威信に関わってしまう。それは次期皇帝を選ぶ継承戦よりも重要なことかもしれない。
それに、亡き皇帝がルクセリア皇女を溺愛していたというのは有名な話である。
もしも俺が彼女に狼藉を働くようなことがあれば、皇帝の遺臣である近衛騎士団が動く可能性もある。
(帝国第1軍団に近衛騎士団、まとめて相手をするのはたしかに面倒だな。さすがに無策で勝つ自信はないぞ)
「ま、なるようになるだろ。どうせ第1軍団も近衛騎士団も、帝国と戦い続けていたら最後には戦うんだから」
「なるようにならなかったらどうするのだ! まったく、お前はいつもこう・・・」
「説教は勘弁してくれよ、親父。そんなことより、ルクセリア皇女は本当に噂通りの美女なのかい? 親父はもう会ったんだろ?」
「む、それは、まあ、会ったが・・・」
親父はやや言葉を濁すようにする。しばらく思案するように手の平であごを撫でつけて、
「・・・まあ、グレイスの次くらいには美人だと思うがな」
「いや、それは基準にならねえよ。しかし、まあ・・・」
いったいあのクソババアのどこがそんなに良いのかは激しく不明だが、「グレイスの次に美人」というのは妻を愛してやまない親父にとっては最高の賛辞である。
(なるほど、それほどの女か。だからこんなに口を酸っぱくして注意しているわけだな。俺が気狂いしかねない程度には美人なわけだな。やばいな、場合によっては帝国を滅ぼしてでも欲しくなるかもしれない)
「楽しみだな。うん、楽しみだ」
「・・・本当に頼むぞ。信じてるからな」
「失礼します。旦那様、坊ちゃま」
ドアをノックして、家令が入室してくる。
「お客様がお見えです。こちらにお通ししてもよろしいでしょうか?」
「・・・わかった、通してくれ」
親父が家令に命じる。しばらくして、応接室に3人の女性が入ってきた。
一人目は鎧を身にまとった女騎士。おそらくは皇女の護衛だろう。一目見ただけだが、それなりの使い手であることが感じとれる。
二人目は簡素なドレスを着てメガネをかけた女性。身の回りの世話をする侍女か、知的に見えるから文官かもしれない。
そして――最後の一人が問題だった。
「お招きいただき光栄でございます。マクスウェル辺境伯様。そして、お初にお目にかかります。ディンギル・マクスウェル様」
高級そうな薄紅色のドレスを着たその女性は、頭をすっぽりと覆うように白いヴェールを被っていた。
顔はほとんど見ることはできず、噂通りの美女かどうかを確認できなかった。
「帝国第一皇女、ルクセリア・バアルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!