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第2章 帝国騒乱 編
12.明かされた素顔
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「本日はお招きいただき、ありがとうございます。マクスウェル辺境伯様」
ヴェールを顔にかけたまま、ルクセリアが丁寧に頭を下げた。顔を見ることはできないが、俺と同い年の皇女が緊張している雰囲気が伝わってくる。
(ルクセリア・バアル・・・だよな。何というか、これは色々と興ざめだな)
楽しみにしていた絶世の美女が顔を隠している。その姿に、俺はげんなりと肩を落とした。
「ああ、こちらこそ遠い所からお越しいただいて光栄だよ。息子が長らく留守にしていて、申し訳ないね」
親父が気さくな様子で答える。緊張しているルクセリアを気遣っているのだろう。
「ご子息様も、初めまして」
「こちらこそ、初めまして。ご尊顔を拝謁・・・は出来てはいないけど、会えて嬉しいよ」
「ああ・・・申し訳ありません。外出するときはいつもヴェールを付けているのですよ。ご不快に思われるようでしたら取らせていただきますけど・・・」
「そうだな、ぜひ・・・」
「いや、結構! そのまま話を進めていただきたい!」
ヴェールを取ってもらおうとする俺であったが、親父が俺とルクセリアとの間に割って入ってきた。
「あ、親父てめえ・・・!」
「そのままで結構! ディンもそれでいいな!」
「ちっ・・・」
俺は顔をしかめつつ、親父の言葉に従った。
ルクセリアは俺と親父の顔を交互に見つつ、「それではこのままで」と話を先に進める。
「それでは・・・単刀直入にお話に入らせていただきたのですが、本日、私が辺境伯様にお願いに参りましたのは、近々、行われるであろう帝国と王国との戦いで、ぜひともマクスウェル家には帝国にお味方していただきたく、お願いに参りました」
「へえ、つまりマクスウェル家に王国を裏切れと、そう頼みに来たわけか」
俺が確認すると、ルクセリアは緊張した様子で頷いた。
「失礼ながら、ディンギル様は先日、王太子であったサリヴァン・ランペルージ様に婚約者を奪われたと聞いています。噂では、その後に暗殺をされかけたとも・・・」
「なかなか耳がいいじゃないか。でも、しょせんは噂だぜ?」
俺がやんわりと否定すると、ルクセリアも「そうですね」と同意する。
「もちろん、全てが真実とは思っていません。しかし、マクスウェル家がランペルージ王家と不仲にあることは間違いないと思っております
もしも帝国にお味方いただけるのであれば、マクスウェル家の領地の加増、20年間の帝国への税の免除、公爵の地位をお約束いたします」
「なるほど、悪くない条件だな」
俺は素直に認めて、頷いた。はっきり言って、このままランペルージ王家の下に付いているよりもよっぽど好条件だ。
領地の加増に関しては自分で奪ってやれば済むことだが、税の免除はありがたい。今だって、別に何をしてくれるわけでもないランペルージ王家に税を納めなければいけないことに、納得していないのだ。
俺はちらりと横目で親父の顔を見る。
「・・・・・・」
親父はそっと目を閉じて、俺から視線をそらした。どうやら、俺に決めろと言っているらしい。
(マクスウェル家の命運を握る決断を俺に任せてくれるわけか。責任重大だな)
俺はしばしの間、口を閉じて思案した。
義理を取ってランペルージ王国につくか、利益を取ってバアル帝国につくか。
(このままランペルージ王家の下にいるよりも、帝国についたほうがはるかに得だ。そのときはマクスウェル家の独立を諦めることになるかもしれないが・・・)
それでも、どっちにしろ帝国が健在のうちは王国と事を構えることはできない。それを考えると・・・
「やはり悪くはない条件だ。しかし・・・正直言って、信用できないな」
俺は隠すことなく、率直な感想を言った。ランペルージ王家は信用できないが、それと同じくらい、長年の宿敵であるバアル帝国だって信用は出来ない。
王国を滅ぼした途端に裏切って背中を刺してくる可能性だって、ありえなくはない。
「皇女様はご存じないかもしれないが、俺はさんざん、バアル帝国から暗殺者を送り込まれてるんだよな。いまさら、手を取り合って戦おうなんて虫が良くないか?」
「・・・申し訳ありません。暗殺については、初耳でした」
ルクセリアが頭を下げて謝罪する。白いヴェールが彼女の動きに合わせて揺れた。
「・・・そうですね。お疑いはごもっともだと思います。これで信用していただけるかどうかはわかりませんが、一つ、私のほうから誓いを立てさせていただきます」
「誓い?」
俺が聞き返すと、ルクセリアが自分の顔を覆うヴェールへと手をかけた。
「私、ルクセリア・バアルは、今よりディンギル・マクスウェル様にこの身を捧げさせていただきます。妻とするなり、人質とするなり、ご自由に扱いくださいませ」
そう言って、ルクセリアは頭につけたヴェールをとった。白いヴェールの下から、隠された素顔が露わになる。
「・・・・・・っ!?」
その顔を見て、俺は驚愕のあまり凍りついた。
「どうか、私を受け入れていただきたく思います。旦那様」
そこにいたのは、金色の髪を持った女神のごとき美女であった。
ヴェールを顔にかけたまま、ルクセリアが丁寧に頭を下げた。顔を見ることはできないが、俺と同い年の皇女が緊張している雰囲気が伝わってくる。
(ルクセリア・バアル・・・だよな。何というか、これは色々と興ざめだな)
楽しみにしていた絶世の美女が顔を隠している。その姿に、俺はげんなりと肩を落とした。
「ああ、こちらこそ遠い所からお越しいただいて光栄だよ。息子が長らく留守にしていて、申し訳ないね」
親父が気さくな様子で答える。緊張しているルクセリアを気遣っているのだろう。
「ご子息様も、初めまして」
「こちらこそ、初めまして。ご尊顔を拝謁・・・は出来てはいないけど、会えて嬉しいよ」
「ああ・・・申し訳ありません。外出するときはいつもヴェールを付けているのですよ。ご不快に思われるようでしたら取らせていただきますけど・・・」
「そうだな、ぜひ・・・」
「いや、結構! そのまま話を進めていただきたい!」
ヴェールを取ってもらおうとする俺であったが、親父が俺とルクセリアとの間に割って入ってきた。
「あ、親父てめえ・・・!」
「そのままで結構! ディンもそれでいいな!」
「ちっ・・・」
俺は顔をしかめつつ、親父の言葉に従った。
ルクセリアは俺と親父の顔を交互に見つつ、「それではこのままで」と話を先に進める。
「それでは・・・単刀直入にお話に入らせていただきたのですが、本日、私が辺境伯様にお願いに参りましたのは、近々、行われるであろう帝国と王国との戦いで、ぜひともマクスウェル家には帝国にお味方していただきたく、お願いに参りました」
「へえ、つまりマクスウェル家に王国を裏切れと、そう頼みに来たわけか」
俺が確認すると、ルクセリアは緊張した様子で頷いた。
「失礼ながら、ディンギル様は先日、王太子であったサリヴァン・ランペルージ様に婚約者を奪われたと聞いています。噂では、その後に暗殺をされかけたとも・・・」
「なかなか耳がいいじゃないか。でも、しょせんは噂だぜ?」
俺がやんわりと否定すると、ルクセリアも「そうですね」と同意する。
「もちろん、全てが真実とは思っていません。しかし、マクスウェル家がランペルージ王家と不仲にあることは間違いないと思っております
もしも帝国にお味方いただけるのであれば、マクスウェル家の領地の加増、20年間の帝国への税の免除、公爵の地位をお約束いたします」
「なるほど、悪くない条件だな」
俺は素直に認めて、頷いた。はっきり言って、このままランペルージ王家の下に付いているよりもよっぽど好条件だ。
領地の加増に関しては自分で奪ってやれば済むことだが、税の免除はありがたい。今だって、別に何をしてくれるわけでもないランペルージ王家に税を納めなければいけないことに、納得していないのだ。
俺はちらりと横目で親父の顔を見る。
「・・・・・・」
親父はそっと目を閉じて、俺から視線をそらした。どうやら、俺に決めろと言っているらしい。
(マクスウェル家の命運を握る決断を俺に任せてくれるわけか。責任重大だな)
俺はしばしの間、口を閉じて思案した。
義理を取ってランペルージ王国につくか、利益を取ってバアル帝国につくか。
(このままランペルージ王家の下にいるよりも、帝国についたほうがはるかに得だ。そのときはマクスウェル家の独立を諦めることになるかもしれないが・・・)
それでも、どっちにしろ帝国が健在のうちは王国と事を構えることはできない。それを考えると・・・
「やはり悪くはない条件だ。しかし・・・正直言って、信用できないな」
俺は隠すことなく、率直な感想を言った。ランペルージ王家は信用できないが、それと同じくらい、長年の宿敵であるバアル帝国だって信用は出来ない。
王国を滅ぼした途端に裏切って背中を刺してくる可能性だって、ありえなくはない。
「皇女様はご存じないかもしれないが、俺はさんざん、バアル帝国から暗殺者を送り込まれてるんだよな。いまさら、手を取り合って戦おうなんて虫が良くないか?」
「・・・申し訳ありません。暗殺については、初耳でした」
ルクセリアが頭を下げて謝罪する。白いヴェールが彼女の動きに合わせて揺れた。
「・・・そうですね。お疑いはごもっともだと思います。これで信用していただけるかどうかはわかりませんが、一つ、私のほうから誓いを立てさせていただきます」
「誓い?」
俺が聞き返すと、ルクセリアが自分の顔を覆うヴェールへと手をかけた。
「私、ルクセリア・バアルは、今よりディンギル・マクスウェル様にこの身を捧げさせていただきます。妻とするなり、人質とするなり、ご自由に扱いくださいませ」
そう言って、ルクセリアは頭につけたヴェールをとった。白いヴェールの下から、隠された素顔が露わになる。
「・・・・・・っ!?」
その顔を見て、俺は驚愕のあまり凍りついた。
「どうか、私を受け入れていただきたく思います。旦那様」
そこにいたのは、金色の髪を持った女神のごとき美女であった。
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