俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

21.阿呆は酒飲み、踊らない

side スロウス・バアル

 バアル帝国東端の町、ホンコニア。隣国である煌王朝と隣接した要塞都市に俺の居城はあった。
 ホンコニアは亡き皇帝が煌王朝から奪い取った都市という事もあり、町の中は東方の異国情緒ある風景にあふれている。住んでいる人間も帝国人特有の白い肌の人種よりも、東方民族特有の黄色い肌の人種のほうが多い。
 そんな都市の中心にあるひときわ大きな建物が、俺が住む東方総督府である。

 その日、東方総督府では宴が催されていた。
 総督府の高官や都市の有力者が集められ、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎが開かれていた。

 そんな宴の席にありながら、俺は難しい表情で今しがた届けられた書状に視線を落としている。

「ルクセリア皇女救援のために第3軍団も協力されたし・・・か。相も変わらず、兄貴達は見当違いな所で大騒ぎをしているな」

 帝都から届けられた手紙に目を通して、俺はうんざりした様につぶやいた。
 手紙の送り主を見ると、兄の側近であるスノウ・ハルファスの名前が記されている。まがりなりにも皇族である俺に対して書状を送るのが、同じ皇族である兄ではなく一介の騎士の名義になっている。

「俺様ちゃんって舐められるなあ。心から敬意を払えとまでは言わないけど、外聞を取りつくろうくらいのことはしてもらいたいものだな」

「どうするカ? スロウス。お前ノ妹ダロ?」

 俺の副官であるシャオマオが小首を傾げて尋ねてくる。折りたたんだ手紙を彼女に手渡して、俺は皮肉そうに笑った。

「いやー、妹といっても、俺様ちゃんってば王宮でハブられてたからなー。ルクセリアとはほとんど会わせてもらえなかったんだよねー。はっきり言って、妹って感じはしないかな」

 俺は皇族ではあったが、たまたま皇帝のお手付きになった使用人の子供である。王宮では腫物のように扱われており、父にとって最大の宝であるルクセリアからは完全に切り離されていた。
 ルクセリアと顔を合わせた記憶も片手の指で数えられる程度しかない。憎く思っているわけではなかったが、身内だとも思っていなかった。

「スノウ・ハルファス・・・兄の副官で知将アイス・ハルファスの弟。近衛騎士団や第2軍団を抱き込んでおいて、俺にまで救援要請か。貪欲に戦力を集めやがって、そんなにマクスウェルが憎いのかね」

 手紙の送り主であるスノウ・ハルファスはマクスウェル家との戦いで兄を失っていた。今回の救援要請には、騎士としての忠義や義務以上の私怨が見え隠れしていた。

「宴の席だってのに辛気臭い話を持ちこんできやがって。気分が悪いぜ」

 俺は盃に入った酒を一息に飲み干して、ごろんと横になった。隣にいたシャオマオの膝を枕にして、あまり肉がついてない太腿にごろごろと顔を押しつける。

「こういうの、セクハラいうカ? 触るナラ、金はらえヨ」

「払いまーす。だから、もうちょい甘えさせてー。あーあ、俺様ちゃんってば、普段はハブられてるくせにこういうときだけ頼られるんだから。本当に不幸極まるよな―」

「不幸なヤツ。酒飲んで女のフトモモに顔押しつける、しないゾ」

 呆れたようなシャオマオの声を聞きながら、俺は遥か西で起こっている事態について考えをまとめた。

(ルクセリアがマクスウェル家の捕虜になった。ラーズ兄貴を中心に皇女救出のため、第1軍団、第2軍団、近衛騎士団の連合部隊が結成。かつてない大規模な西方遠征が行われるわけだが・・・あの兄貴共が素直に手を取って戦えるかね?)

「ま、俺には関係ないか。それにしても・・・奇しくも、これで親父の出した皇帝になるための条件が満たされたわけか」

 亡き皇帝の宣言によって行われている次期皇帝の継承戦。「敵国を滅ぼした者を次期皇帝にする」という条件には隠れた必勝法が存在した。
 それは「他の皇子を味方につけて、協力して敵国を滅ぼすこと」である。そのことに気がついているのは皇子達の中で自分だけで、ラーズもグリードも気がついていないようだった。

(もっとも、親父が望んでいた展開とはだいぶ違うんだろうなー)

 親父の予想では、次期皇帝の有力候補であるラーズとグリードのいずれかが俺と第3軍団の勢力を取り込み、帝国の最大勢力となることで皇帝に即位することを期待していたのだろう。
 その展開通りに行けば、皇帝の協力者として俺も安定した地位を得ることができ、日陰者の生活を脱出できるはずだったのだが・・・。

(親父も、俺達兄弟の仲がここまでこじれるとは思ってなかったんだろうな。ラーズもグリードも俺と協力するなんて発想は思いつかなかった。兄妹のことを自分が皇帝になる障害としか思っていなかったからな)

 それでも、結果的に皇子達が協力して大連合が築かれたのだから、世の中の流れというのはわからないものだ。

「とりあえず・・・王宮の方には救援は出せないとの書状を送っておいてくれ。隣国に攻め込まれてそれどころではありません、と伝えておいてくれればいい」

「わかったゾ。私が勝手にサインしてイイナ?」

「問題なーし。俺様ちゃんは明日は二日酔いだから働きませーん」

「おいおい、スロウス。俺達がいつこの国に攻め込んだんだよ!」

 俺とシャオマオの会話を盗み聞きしていたのか、第三者の声が割って入った。横やりを入れてきたのは、大柄で色黒な男性である。

「いいじゃねえの。ラゴウちゃん。俺様ちゃんとお前の仲だろ?」

「どんな仲だっての! ったく、都合のいい時だけ友達面かよ!」

 ガハハハ、と笑いながらラゴウと呼ばれた男が酒をあおる。
 宴の上席に座るこの男は煌王朝から招かれた隣国の将軍である。俺が東方の地に赴任してから10年間で得た成果の一つとして、こうして宴席に将軍を招くまで隣国と友好関係を築くことを成功していた。

「また適当に戦う振りだけしてくれよ。そっちにだって軍事費をせしめれるんだから損はないんだろ?」

「ガハハッ! そうだけどな!」

 俺が率いる第3軍団とラゴウが率いる煌王朝西方軍。両軍は数年前から戦う振りだけしており、その軍事費を中央政府に請求して横領していた。
 ラゴウも王朝の中央政府から左遷されてきたという過去があり、同じく日陰者の俺とは妙に気が合うのだ。

 俺はシャオマオの膝から頭を上げて宴席に座り直す。顔見知りの将軍の盃に酒を注いで金儲けの計画を話し合う。ニヤニヤと笑いながら悪巧みをする男二人を、蔑むような眼でシャオマオが見つめていた。

(そういえば・・・この戦いで帝国の連合軍が負けるようなことがあれば、いったいどうなるんだろうな?)

 第1軍団、第2軍団、近衛騎士団。3つの軍団の連合部隊という帝国の最大兵力が万が一、マクスウェルに敗北するようなことがあったとしたら。

(そのときはこの国がひっくり返るような大混乱になるんだろうな。そうなったら、俺様ちゃんにも天下が取れるかも)

 ほぼ有り得ないであろう未来を思い浮かべながら、俺はくっくっ、と含み笑いをするのであった。
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