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第2章 帝国騒乱 編
24.勝利の条件
帝国からの宣戦布告を受けて、俺はマクスウェル家の領軍を率いてブリテン要塞へと入った。
5年ぶりに入城する要塞は、帝国のかつてなく大規模な侵攻に備えて物々しい雰囲気に包まれている。
事前に開かれた軍議により、東方辺境貴族の連合軍七千のうち五千を俺が指揮することが決まっていた。残り二千は親父が指揮して、マクスウェル辺境伯領の領都アヴァロンに詰めている。
「実質的にはこの要塞での戦いが決戦。俺達が敗北した時点でランペルージ王国はお終いだな」
いまだ混乱を脱していない王家に帝国と戦う力はない。他の辺境伯の救援も望めないだろう。これがランペルージ王国とバアル帝国の決戦といってもいい。
「もっとも、帝国もこれだけの戦力を動員して敗北したら、もう立て直すことは出来ないだろうな。王国が滅ぶか帝国が滅ぶか、二者択一の最終決戦だ」
「よっしゃああああああ! 燃えるぜ!」
「まさに歴史的大戦ですね。よもや我々が歴史の転換点に立っているとは・・・」
俺の説明に雄々しく叫んだのは、昔なじみの友人であるラッド・イフリータ。もう一人の男はサーム・シルフィスである。
二人とも5年前の帝国との戦いで俺と共に戦ってくれた戦友であり、同い年の悪友だった。
「この3人が揃うのも久しぶりだな。5年前の戦いを思い出す」
「おうよ! 5年前みたいに帝国をギタギタに叩きのめしてやろうぜ!」
ラッドが拳を鳴らして雄々しく笑う。頼もしい友人の姿に、俺の表情も緩んでしまう。
「こちらは五千。敵はたしか五万と喧伝していましたね」
「ああ、だいぶ数を盛ってるみたいで、実際は三万弱ほどだな」
「なるほど。それでもこちらの5倍以上ですか。厳しい戦いになりそうですね。
一方のサームはあくまでも冷静な態度を崩すことなく、自分が置かれている状況を冷静に分析している。
帝国に潜入した『鋼牙』からの情報により、帝国軍は第1軍団が六千、第2軍団が一万、近衛騎士団が五千、義勇兵が六千ほどだと報告を受けている。国の四方を敵を囲まれた状態でよくもまあ掻き集めたものである。
「無策で勝てる状況ではないと思いますが・・・どうされるおつもりですか、若殿」
「もちろん、策は用意してるさ。これでもかってぐらい卑怯なやつをな」
俺は唇を釣り上げて笑った。
世の中には、正々堂々と戦わなければ勝っても意味がない――などと口にする者がいる。しかし、そういう奴らはきっと心から護りたい物がないのだろう。
本当に護りたいものがあるのなら、どんな手を使ってでも勝つ。どれだけ汚名を着ても、悪に堕ちることになっても、譲れないものがあるのなら手段を選ばずに勝ちに行くべきなのだ。
「若様、お待たせしたのである」
「ああ」
背後から声をかけられ、振り向くと見慣れた暗殺者の姿があった。サクヤの兄のオボロである。
「連れてきてくれたか。オボロ」
「うむ、我ら『鋼牙忍軍』の中から死番となるものを連れてきたのである」
オボロの後ろには、オボロと同じ黒づくめに身を包んだ男が2人立っている。一人は60を過ぎているだろう髭面の男。もう一方は40歳ほどの痩せ身の男だ。
「二人とも悪いな。お前らにはこの戦争で死んでもらうことになる。恨むなとは言わないが、お前らの家族には出来る限りの恩賞を渡すと約束する」
「構わないとも。私は肝の病に侵されて長くはないからな。最後に死に花を咲かせるとしよう」
「自分は女房と子供に先立たれて、自害を考えていたところです。名誉ある死に場所を与えていただけて幸運です」
「そうか・・・ありがとう。お前達の死は無駄にはしない」
俺は心からのお礼の言葉を言って、二人に頭を下げた。二人とも笑って頷いて、与えられた任務を果たすために姿を消した。
「ディンギル様! こちらの荷物も運び終わりました!」
『鋼牙』の密偵と入れ違いに、要塞の警備をしている若い兵士が報告を持ってきた。俺の待ち望んでいた報告だ。
「火薬の詰まった壺、それに水瓶、どちらも十分に用意しています!」
「結構、これであとは必要なものは・・・」
「これかい? 主殿」
兵士の後ろからすたすたと軽い足取りで歩いてきたのは俺の愛人&用心棒のシャナ・サラザールだった。シャナは白い指先一通の手紙をはさんでおり、俺に手渡してくる。
「ルクセリア様からのラブレターだ。貴方のお望み通りに書いてもらった」
「結構、とても結構。これで必要なものは全てそろったな」
俺は会心の笑みを浮かべた。
歴戦の兵士5000と頼りになる戦友。死ぬ覚悟を決めた密偵。大量の火薬と水瓶。そして――勝利の女神のラブレター。
これで帝国軍を打ち倒す準備が整った。
「さあ、勝たせてもらおう。徹底的に潰してやるぞ。帝国軍!」
久しぶりの戦場。それも経験したことがない大戦。これで昂ぶらなければ男じゃない。
俺は業火のように燃え上がる心を必死に押さえつけながら、帝国がある東の空を睨みつけた。
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