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第2章 帝国騒乱 編
26.決戦前夜。兵士達の不安
「いよいよ、明日は戦争だな」
「ああ、俺達、あのマクスウェルに勝てるのかな・・・」
ブリテン要塞の東側にて、ラーズ・バアル率いる第1軍団の兵士達が天幕の中で食事をとっていた。
麦を水で煮て塩で味付けしただけの簡素な戦場食は決して美味とは言えない。それでも、遠征で疲れた身体に温かい食事はありがたく、しみるように胃に流れ込んでいく。
温かい食事を摂って気が抜けてしまったのか、兵士達の口からは不安や不満の言葉が上がるようになっていた。
天幕の中にいる兵士達の中には、5年前の敗戦を経験している者もいる。彼らにとって、マクスウェル兵は人食い鬼にも等しい恐怖の対象である。こうして弱気になってしまうのも無理はなかった。
「弱気なことを言うんじゃねえ! 俺達は名誉ある帝国の兵士だぞ!」
そんな兵士達を一喝したのは、彼らが所属する小隊の隊長だった。年配の隊長はいかつい顔をさらに険しくさせて、弱気な部下を怒鳴りつける。
「勝てるかどうかじゃねえ、俺達の力で帝国を勝たせるんだよ! 我ら第1軍団の手で帝国の頭上に沈まぬ太陽を打ち上げるんだ!」
「隊長・・・」
「すいません、弱気なことを・・・」
直属の上司に叱り飛ばされて、兵士達が口々に謝罪する。強気な隊長の言葉により、兵士達の不安がぬぐいとられる。
しかし、そんな中でいまだに表情を暗くしている兵士がいた。
「でも、隊長・・・あの噂だってあるじゃないですか」
「噂だと?」
「ほら、ハルファス卿がグリード殿下に内通してるっていう・・・」
それは最近になって第1軍団内で流れ始めた噂話だった。
彼らの主君であるラーズ・バアルの側近であるスノウ・ハルファスが、政敵であるグリード・バアルと内通しているという噂である。
ハルファスがグリードの執務室に出入りしているのを見かけた兵士が複数いるため、噂の信憑性は決して低くなかった。
「馬鹿なことを言うんじゃねえ! それは俺達を混乱させるために敵が流したデマに決まってるだろうが!」
一喝する隊長であったが、内心では隊長自身、ハルファスに対する疑いを晴らせずにいた。
スノウ・ハルファスという男は決して無能ではない。
学識が高く、戦術にも詳しいハルファスは、腕っぷし自慢が多い第1軍団の中でも欠かすことができない人材である。それは彼が20歳という若さでラーズの側近となったことからも分かることである。
しかし、若き知将は決して完璧には程遠く、無視することができない欠点も見受けられた。その最たるものは、自分が周りからどのように見られているかを自覚していないことである。
帝国第1軍団は武人であるラーズ・バアルの気質を反映するかのように、武勇を重んじている騎士が多い。そのため、スノウ・ハルファスのような知略、策略を誇るものに対しては風当たりが強い傾向にあった。
スノウ・ハルファスの兄であるアイス・ハルファスも同じような立場だったが、彼の場合は英雄ベイオーク・ザガンという理解者がいたため、孤立することなく立場を保つことができていた。
しかし、そんな理解者がいないハルファスのことを疎んでいる者、妬んでいる者は数多くいた。多くの騎士達が皿の隅をつつくようにして、ハルファスを追い落とすための失点を探していた。
そんな背景があって、ハルファスが内通しているかもしれないという不利な噂話は飛ぶようにして第1軍団内に広がっていた。
(あの頭でっかちな男は信用できん。しかし、ラーズ殿下が信頼して側近としている以上、我々が口出しすることはできん!)
「つまらないことを口にする暇があるなら、明日の戦いに備えてさっさと寝ろ! 明日からは寝られると思うなよ!」
隊長は兵士達の考えを支持しながらも、口から正反対の言葉を吐いた。ただでさえ、油断ならない第2軍団と共に戦わなければならないのだ。第1軍団内部での仲間割れは避けなければいけない。
(もしも噂が真実であるならば、この戦争中に必ず尻尾を出すはずだ! そのときは、我々がラーズ殿下をお守りせねば!)
部下達がいる天幕を出て行きながら、隊長は改めて決意を固めるのであった。
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