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第2章 帝国騒乱 編
32.疑心の鬼と帝国の暴走
「ぐっ・・・!」
「殿下ッ!?」
刺客となった使者が振り下ろした白刃を、ラーズは己の二の腕で受け止めた。
ラーズ・バアルという男は指導者としては浅慮で粗が目立つ男だが、武人としては間違いなく一流である。幼い頃から「猛将」ベイオーク・ザガンから師事を受けた皇子は、目の前に迫った死を最小限のダメージで回避した。
「殿下から離れろ!」
「うっ・・・!?」
ラーズの腕から血が飛び散るのを見て、護衛の騎士が刺客の胴体へと体当たりをする。第2軍団の鎧をまとった刺客は短剣を握りしめたまま天幕の端へと押し飛ばされた。
「殿下を守れ!」
護衛の騎士、側近達がラーズと使者の間に入る。剣を抜いて、刺客となった男へと斬りかかる。
「く、おのれ・・・!」
使者は短剣1本で必死に抵抗したが、多勢に無勢である。最後には胸を深々と刺されて地面に倒れ臥した。
「あ・・・ぐ・・・あ・・・」
「・・・やったか?」
息も絶え絶えになった刺客を見下ろして、騎士がつぶやく。刺客の呼吸が徐々に浅くなっていき、最後の言葉を発する。
「・・・申し、わけ・・・せん・・・ハル、ファス・・・さま・・・」
「なっ!?」
突然、刺客から名前を呼ばれ、ハルファスが驚愕の声を上げる。若き知将は呆然と立ちすくんだまま、自分に集まった騎士達の視線にたじろいだ。
「・・・ハルファス卿、これはどういうことですか?」
「し、知らない! 私は何も知らない! これは・・・そう! マクスウェル家が仕掛けた陰謀に違いない!」
味方同士で争わせるために刺客を放った。それは決して的外れな推察ではなかったが、その言葉を信じる者はこの場にはいなかった。
ただでさえハルファスはグリードとの内通を疑われており、おまけに兵士の命を軽視する発言により反感を抱かれている。
たとえハルファスの言葉が正しかったとしても、大きく成長した疑心の鬼がそれを受け入れることを拒んでいる。
騎士達はじりじりとハルファスとの距離を詰めて、いつでも取り押さえることができるように準備する。
「待て。この刺客が口にしたことが正しいとは限らぬ」
「で、殿下!」
ラーズが口にした言葉によって騎士達の動きが止まる。ハルファスは希望に目を輝かせて、主君の顔を見る。
しかし、ラーズの顔に張り付いていたのは騎士達と同じく、ハルファスを疑い非難する表情だった。
「しかし、お前が疑わしいのは事実だ。ハルファス、お前を一時的に拘束させてもらう!」
「そ、そんな!」
悲鳴を上げるハルファスの両腕を騎士達が拘束する。
「悪いが、お前の天幕と荷物も調べさせてもらう。私を裏切っていないのなら問題あるまい?」
「なっ!」
ハルファスの顔がさっと青ざめる。
目の前の刺客については全く心当たりがないが、グリードと内通しているのは事実である。ハルファスの荷物の中には、グリードとの間で交わした文書なども入っている。
(まずい・・・こんなことなら、きちんと始末しておけば・・・!)
「で、殿下! 私は無実です! これは全て、私を落とし入れて殿下とグリード殿下を争わせるための策略です! どうか、どうかご再考を・・・!」
「見苦しいぞ、ハルファス卿!」
「ぐっ!」
騎士の一人がハルファスの腹を殴る。積年の恨みでも込められたかのような拳が、若き知将の抗弁を遮る。
「お、おのれ・・・!」
「ハルファス卿。先ほどのことですが、どうして貴方はラーズ殿下が襲われたときに助けに入らなかったのですか?」
「なっ・・・」
一人の騎士がハルファスの前へと進み出て、詰問する。
先ほどラーズが刺客に斬りかかられたとき、ここにいる全ての騎士がラーズを助けるために割って入った。
しかし、唯一ハルファスだけはその場で立ちすくみ、ラーズを助けようとしなかった。
「それは・・・」
ハルファスは何と弁明して良いかもわからず、言葉を噛んだ。
ラーズが刺客に襲われた際、ハルファスはそれがグリードの差し金であると判断した。刺客を止めに入ることはグリードの意に反することになるため、止めに入ることも忘れてその場で硬直してしまったのだ。
「貴殿が疑わしいことは変わらぬ! 大人しく付いてこい!」
「やめろ! 離せ! 殿下、殿下、どうかお助けを――!」
「・・・・・・」
悲鳴を上げて引きずり出されていくハルファスを、ラーズは無言で見送った。
その後、ハルファスの荷物の中からグリードからの指示書と思われる文書が発見され、ハルファスの裏切りは確かなものになった。
天幕の外で音を鳴らし騎士達の注意を引いた、もう一人の刺客もすぐに発見された。追い詰められた刺客は自害して、ラーズ・バアルの暗殺は未然に防がれた。
そして――
「敵は北壁にあり! グリード・バアルを討ち取るぞ!」
『はっ!』
帝国軍による、壮大な同士討ちの火蓋が切って落とされた。それが何者の意図であるかを気がつかないまま、帝国軍の暴走が始まる。
これにより、ブリテン要塞での戦いは一気に決着へと向かっていくことになった。
「殿下ッ!?」
刺客となった使者が振り下ろした白刃を、ラーズは己の二の腕で受け止めた。
ラーズ・バアルという男は指導者としては浅慮で粗が目立つ男だが、武人としては間違いなく一流である。幼い頃から「猛将」ベイオーク・ザガンから師事を受けた皇子は、目の前に迫った死を最小限のダメージで回避した。
「殿下から離れろ!」
「うっ・・・!?」
ラーズの腕から血が飛び散るのを見て、護衛の騎士が刺客の胴体へと体当たりをする。第2軍団の鎧をまとった刺客は短剣を握りしめたまま天幕の端へと押し飛ばされた。
「殿下を守れ!」
護衛の騎士、側近達がラーズと使者の間に入る。剣を抜いて、刺客となった男へと斬りかかる。
「く、おのれ・・・!」
使者は短剣1本で必死に抵抗したが、多勢に無勢である。最後には胸を深々と刺されて地面に倒れ臥した。
「あ・・・ぐ・・・あ・・・」
「・・・やったか?」
息も絶え絶えになった刺客を見下ろして、騎士がつぶやく。刺客の呼吸が徐々に浅くなっていき、最後の言葉を発する。
「・・・申し、わけ・・・せん・・・ハル、ファス・・・さま・・・」
「なっ!?」
突然、刺客から名前を呼ばれ、ハルファスが驚愕の声を上げる。若き知将は呆然と立ちすくんだまま、自分に集まった騎士達の視線にたじろいだ。
「・・・ハルファス卿、これはどういうことですか?」
「し、知らない! 私は何も知らない! これは・・・そう! マクスウェル家が仕掛けた陰謀に違いない!」
味方同士で争わせるために刺客を放った。それは決して的外れな推察ではなかったが、その言葉を信じる者はこの場にはいなかった。
ただでさえハルファスはグリードとの内通を疑われており、おまけに兵士の命を軽視する発言により反感を抱かれている。
たとえハルファスの言葉が正しかったとしても、大きく成長した疑心の鬼がそれを受け入れることを拒んでいる。
騎士達はじりじりとハルファスとの距離を詰めて、いつでも取り押さえることができるように準備する。
「待て。この刺客が口にしたことが正しいとは限らぬ」
「で、殿下!」
ラーズが口にした言葉によって騎士達の動きが止まる。ハルファスは希望に目を輝かせて、主君の顔を見る。
しかし、ラーズの顔に張り付いていたのは騎士達と同じく、ハルファスを疑い非難する表情だった。
「しかし、お前が疑わしいのは事実だ。ハルファス、お前を一時的に拘束させてもらう!」
「そ、そんな!」
悲鳴を上げるハルファスの両腕を騎士達が拘束する。
「悪いが、お前の天幕と荷物も調べさせてもらう。私を裏切っていないのなら問題あるまい?」
「なっ!」
ハルファスの顔がさっと青ざめる。
目の前の刺客については全く心当たりがないが、グリードと内通しているのは事実である。ハルファスの荷物の中には、グリードとの間で交わした文書なども入っている。
(まずい・・・こんなことなら、きちんと始末しておけば・・・!)
「で、殿下! 私は無実です! これは全て、私を落とし入れて殿下とグリード殿下を争わせるための策略です! どうか、どうかご再考を・・・!」
「見苦しいぞ、ハルファス卿!」
「ぐっ!」
騎士の一人がハルファスの腹を殴る。積年の恨みでも込められたかのような拳が、若き知将の抗弁を遮る。
「お、おのれ・・・!」
「ハルファス卿。先ほどのことですが、どうして貴方はラーズ殿下が襲われたときに助けに入らなかったのですか?」
「なっ・・・」
一人の騎士がハルファスの前へと進み出て、詰問する。
先ほどラーズが刺客に斬りかかられたとき、ここにいる全ての騎士がラーズを助けるために割って入った。
しかし、唯一ハルファスだけはその場で立ちすくみ、ラーズを助けようとしなかった。
「それは・・・」
ハルファスは何と弁明して良いかもわからず、言葉を噛んだ。
ラーズが刺客に襲われた際、ハルファスはそれがグリードの差し金であると判断した。刺客を止めに入ることはグリードの意に反することになるため、止めに入ることも忘れてその場で硬直してしまったのだ。
「貴殿が疑わしいことは変わらぬ! 大人しく付いてこい!」
「やめろ! 離せ! 殿下、殿下、どうかお助けを――!」
「・・・・・・」
悲鳴を上げて引きずり出されていくハルファスを、ラーズは無言で見送った。
その後、ハルファスの荷物の中からグリードからの指示書と思われる文書が発見され、ハルファスの裏切りは確かなものになった。
天幕の外で音を鳴らし騎士達の注意を引いた、もう一人の刺客もすぐに発見された。追い詰められた刺客は自害して、ラーズ・バアルの暗殺は未然に防がれた。
そして――
「敵は北壁にあり! グリード・バアルを討ち取るぞ!」
『はっ!』
帝国軍による、壮大な同士討ちの火蓋が切って落とされた。それが何者の意図であるかを気がつかないまま、帝国軍の暴走が始まる。
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