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第2章 帝国騒乱 編
35.第1軍団の最後
「ま、マクスウェルだああああああっ!」
「逃げろ、逃げろおおおおおおっ!」
「どけ、どけ、どけえええっ!」
第1軍団と第2軍団が戦っている戦場へと、ラッド・イフリータを先頭とする騎兵部隊が襲いかかる。突然の第三勢力の参戦により、ただでさえ混乱している戦場がさらなる混沌へと落とされる。
「狙う首は二つだ! ラーズ・バアルとグリード・バアル、そいつら以外は適当に潰しとけ!」
『おう!』
友軍から奇襲を受けた第2軍団も、それを倒すために意気揚々と攻め込んだ第1軍団も、帝国の兵士達はそろって戦意を失って騎兵から逃げ惑っている。逃げ惑う兵士達を軽く打ち払いながら、ラッドは戦場を駆け抜けていく。
武将としての判断なのか、あるいは動物的直観か。ラッドの進行方向の先にラーズ・バアルの姿があった。
「くっ、なんという侵攻の速さだ! マクスウェルは我らの行動を呼んでいたというのか!?」
予想外に素早いマクスウェル軍の行動に、ラーズはうなり声をあげた。
帝国軍同士で仲間割れをすればマクスウェル家に利益を与えてしまうことはわかっていた。だからこそ、ラーズは奇襲によって一気にグリード・バアルを討ち取り、そのままの勢いで軍を反転させて戦場から離脱する予定だった。
ブリテン要塞を落とすことは先送りになるが、グリードさえ討ち取ってしまえば、たとえランペルージ王国を滅ぼさずとも皇帝になることができる。そんな考えを持っての即断即決だったのだが、マクスウェル軍はまるでこちらが仲間割れを起こすのを知っていたかのように要塞から出撃してきた。
心の底まで見透かされているような、あるいは、何者かの手の平の上で踊らされているような嫌な悪寒がラーズの背筋を冷たく撫でる。
「やむを得まい! マクスウェル軍も第2軍団もまとめて討ち取るぞ!」
敵が要塞から出てきた状況は、ある意味ではチャンスといえる。この正念場さえくぐり抜けることができれば、マクスウェル家もグリードと一緒に倒すことができる。
「今が最大最後の好機である! ものども、死力を尽くせ!」
「はっ! 我ら第1軍団は死すべきときまでラーズ殿下と共に!」
踏みとどまって戦っている者は第1軍団の総勢の1割にも満たない。しかし、その1割は全員がラーズのために死ぬ覚悟を決めた精鋭である。
剣と槍を構えた兵士達はラーズを庇うようにとり囲み、マクスウェル軍の騎兵と真っ向からぶつかり合った。
帝国第1軍団とマクスウェル軍騎兵部隊。両者の戦いは1時間ほどで決着がついた。
「よっしゃああああああ! 俺達の勝ちだああああああっ!」
『オオオオオオオオッ!』
ラッドが天高く槍を掲げて叫ぶと、配下の騎兵部隊が勝どきを上げる。周囲には第1軍団の騎士達が死屍累々と倒れている。
「馬鹿な・・・私は、俺は勝たなければいけないんだ・・・皇帝にならなければ・・・」
倒れている騎士の中には、帝国第一皇子であるラーズ・バアルの姿もあった。敗軍の将である皇子は瀕死に近い重傷を負っているが、かろうじてまだ息があった。地面に仰向けに倒れ臥したまま、ぶつぶつと呪いの言葉でも唱えるかのように言葉を発している。
「私の、何が間違っていたというのだ・・・私は・・・皇帝になるべき人間ではなかったのか・・・?」
「いや、何が間違ってたとか聞かれても知らねーよ」
息も絶え絶えに呟くラーズに、呆れたようなラッドの声がかけられた。
「何が正しかったとか、どうでもいいじゃねえか。俺達の方がお前らよりも強かった。だから俺達が勝った。それだけじゃ不満かよ?」
「きさま、のような・・・志を持たぬ輩に、何がわかる・・・! 私は、ザガンのためにも、他の散っていった部下達のためにも・・・皇帝にならなければ・・・!」
「はあ、家柄のいい奴は大変だな。俺は田舎貴族で良かったよ」
肩をすくめながら言って、ラッドは槍を地面に投げ捨てて代わりに剣を抜く。
「捕虜にとる必要はないって言われてるんだが、負け犬をいたぶる趣味もねえんだよな・・・どうする? 大人しくしてるなら手当てしてやるぞ?」
「ぐっ・・・!」
ラーズは屈辱に顔を歪めながらラッドを睨みつける。もはや自分が逆転することは叶わない。皇帝になることもできず、何も得ることはできない。
「・・・斬れ」
ラーズは苦悶の表情を浮かべ、その言葉を口にした。
「私は、皆の願いを叶えられなかった・・・皇帝に、なれなかった。ならば・・・皆と同じく、戦場で死ぬのが・・・せめてもの、償いだ」
「ふーん、まあいいけどな」
ラッドは剣をくるりと回して刃先を下に向けて、迷うことなくラーズの胸を刺し貫いた。
「がっ・・・」
「あんたらは負けたけど、最後の戦いで見せた根性はなかなか見物だったと思うぜ? 若殿風に言うなら、お疲れさん、ってとこだな」
剣を抜いて、ラッドなりの賞賛の言葉を投げかける。すでにラーズ・バアルの息はなく、その言葉を聞く者は誰もいなかった。
バアル帝国第一皇子ラーズ・バアルは敵国の大地に散った。
こうして、マクスウェル家の長年の宿敵である帝国第1軍団は壊滅したのであった。
「逃げろ、逃げろおおおおおおっ!」
「どけ、どけ、どけえええっ!」
第1軍団と第2軍団が戦っている戦場へと、ラッド・イフリータを先頭とする騎兵部隊が襲いかかる。突然の第三勢力の参戦により、ただでさえ混乱している戦場がさらなる混沌へと落とされる。
「狙う首は二つだ! ラーズ・バアルとグリード・バアル、そいつら以外は適当に潰しとけ!」
『おう!』
友軍から奇襲を受けた第2軍団も、それを倒すために意気揚々と攻め込んだ第1軍団も、帝国の兵士達はそろって戦意を失って騎兵から逃げ惑っている。逃げ惑う兵士達を軽く打ち払いながら、ラッドは戦場を駆け抜けていく。
武将としての判断なのか、あるいは動物的直観か。ラッドの進行方向の先にラーズ・バアルの姿があった。
「くっ、なんという侵攻の速さだ! マクスウェルは我らの行動を呼んでいたというのか!?」
予想外に素早いマクスウェル軍の行動に、ラーズはうなり声をあげた。
帝国軍同士で仲間割れをすればマクスウェル家に利益を与えてしまうことはわかっていた。だからこそ、ラーズは奇襲によって一気にグリード・バアルを討ち取り、そのままの勢いで軍を反転させて戦場から離脱する予定だった。
ブリテン要塞を落とすことは先送りになるが、グリードさえ討ち取ってしまえば、たとえランペルージ王国を滅ぼさずとも皇帝になることができる。そんな考えを持っての即断即決だったのだが、マクスウェル軍はまるでこちらが仲間割れを起こすのを知っていたかのように要塞から出撃してきた。
心の底まで見透かされているような、あるいは、何者かの手の平の上で踊らされているような嫌な悪寒がラーズの背筋を冷たく撫でる。
「やむを得まい! マクスウェル軍も第2軍団もまとめて討ち取るぞ!」
敵が要塞から出てきた状況は、ある意味ではチャンスといえる。この正念場さえくぐり抜けることができれば、マクスウェル家もグリードと一緒に倒すことができる。
「今が最大最後の好機である! ものども、死力を尽くせ!」
「はっ! 我ら第1軍団は死すべきときまでラーズ殿下と共に!」
踏みとどまって戦っている者は第1軍団の総勢の1割にも満たない。しかし、その1割は全員がラーズのために死ぬ覚悟を決めた精鋭である。
剣と槍を構えた兵士達はラーズを庇うようにとり囲み、マクスウェル軍の騎兵と真っ向からぶつかり合った。
帝国第1軍団とマクスウェル軍騎兵部隊。両者の戦いは1時間ほどで決着がついた。
「よっしゃああああああ! 俺達の勝ちだああああああっ!」
『オオオオオオオオッ!』
ラッドが天高く槍を掲げて叫ぶと、配下の騎兵部隊が勝どきを上げる。周囲には第1軍団の騎士達が死屍累々と倒れている。
「馬鹿な・・・私は、俺は勝たなければいけないんだ・・・皇帝にならなければ・・・」
倒れている騎士の中には、帝国第一皇子であるラーズ・バアルの姿もあった。敗軍の将である皇子は瀕死に近い重傷を負っているが、かろうじてまだ息があった。地面に仰向けに倒れ臥したまま、ぶつぶつと呪いの言葉でも唱えるかのように言葉を発している。
「私の、何が間違っていたというのだ・・・私は・・・皇帝になるべき人間ではなかったのか・・・?」
「いや、何が間違ってたとか聞かれても知らねーよ」
息も絶え絶えに呟くラーズに、呆れたようなラッドの声がかけられた。
「何が正しかったとか、どうでもいいじゃねえか。俺達の方がお前らよりも強かった。だから俺達が勝った。それだけじゃ不満かよ?」
「きさま、のような・・・志を持たぬ輩に、何がわかる・・・! 私は、ザガンのためにも、他の散っていった部下達のためにも・・・皇帝にならなければ・・・!」
「はあ、家柄のいい奴は大変だな。俺は田舎貴族で良かったよ」
肩をすくめながら言って、ラッドは槍を地面に投げ捨てて代わりに剣を抜く。
「捕虜にとる必要はないって言われてるんだが、負け犬をいたぶる趣味もねえんだよな・・・どうする? 大人しくしてるなら手当てしてやるぞ?」
「ぐっ・・・!」
ラーズは屈辱に顔を歪めながらラッドを睨みつける。もはや自分が逆転することは叶わない。皇帝になることもできず、何も得ることはできない。
「・・・斬れ」
ラーズは苦悶の表情を浮かべ、その言葉を口にした。
「私は、皆の願いを叶えられなかった・・・皇帝に、なれなかった。ならば・・・皆と同じく、戦場で死ぬのが・・・せめてもの、償いだ」
「ふーん、まあいいけどな」
ラッドは剣をくるりと回して刃先を下に向けて、迷うことなくラーズの胸を刺し貫いた。
「がっ・・・」
「あんたらは負けたけど、最後の戦いで見せた根性はなかなか見物だったと思うぜ? 若殿風に言うなら、お疲れさん、ってとこだな」
剣を抜いて、ラッドなりの賞賛の言葉を投げかける。すでにラーズ・バアルの息はなく、その言葉を聞く者は誰もいなかった。
バアル帝国第一皇子ラーズ・バアルは敵国の大地に散った。
こうして、マクスウェル家の長年の宿敵である帝国第1軍団は壊滅したのであった。
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