56 / 317
第2章 帝国騒乱 編
40.神の塔
side スロウス・バアル
「んー、降伏まであと1日ってところだなー。サラザール騎士団長がいなけりゃこんなもんだな」
「帝都、ずいぶんとモロいな」
帝国第3軍団と煌王朝の軍勢がバアル帝国の帝都を包囲している。それを後陣から眺めながら、俺はシャオマオとのんびり茶を飲んでいた。
すでに帝都を包囲してから3日が経過している。近衛騎士団は主戦力を欠いた状態でろくに抵抗することはできず、なすがままに俺達の包囲を受け入れている。帝都を防衛する兵士達の士気は低く、この様子だとすぐに降伏してくるだろう。
「それにしてモ、驚いたゾ。お前、皇帝になんて、なりたかったんだナ?」
シャオマオが以外そうに訊いてきた。
これまで俺は帝国の東方にこもったまま、次期皇帝の継承戦にはほとんど参加してこなかった。それが今更になって帝都に攻め込み、帝位を簒奪しようとしているのだから無理もないだろう。
「いやー? 俺様ちゃんは皇帝になんてなりたくないぜ」
俺は側近の少女の疑問に率直に答えた。
「皇帝になんてなりたくはないけどな。ラーズ兄貴とグリード兄貴、どっちが皇帝になったとしても俺様ちゃんの未来は真っ暗だからな。俺様ちゃんがこれからも楽しく酒を飲んで女の子と遊んで生活するためには、皇帝になって邪魔者に消えてもらわなきゃ困るんだよなー」
「だから、簒奪カ? 思い切ったナ」
「兄貴共が隙を見せなきゃ、そんなことするつもりなかったけどな。第1軍団と第2軍団だけならまだしも、近衛騎士団まで動かしちまったんだから帝都を盗ってくれって言ってるようなもんだろ?」
それは素直な感想であった。どれだけマクスウェル家を滅ぼしたかったのかは知らないが、最低でも近衛騎士団は帝都に置いておくべきだった。
近衛騎士団は守りの要、帝国の最後の砦といってもいい戦力だ。それを動かすという事は帝国に後がないと言っているようなものである。彼らが帝都を空けて、どれだけ民衆に不安が広がったかを宮廷の人間は誰も知らないだろう。
(その不安に付け込んだ俺が言うのも、おかしな話だけどな)
「ガハハハッ! 中央の権力者なんてそんなもんだ! 連中はいつだって知ったような顔して馬鹿な真似をするもんだぜ!」
会話に入ってきたのは、煌王朝の将軍であり俺の酒飲み友達でもあるラゴウだった。煌王朝西方軍の将軍である彼は酒の入った盃を片手に大口を開けて笑っている。
「奴らはてめえらの尻に火がつくまで自分達に戦火が降りかかってくるかもしれないなんて考えられねえんだよ。だから後先考えずに無茶なことを言いだしてくる。それでそのツケを支払うのは俺達、現場の人間と来たもんだ!」
「そうだなー。遠征軍がマクスウェルに勝てたかどうかは知らないけど、あっちの兵士も災難だよな」
「違いねえ! それよりも、スロウス。俺との約束はわかってるだろうな!」
「もちろんだぜ、ラゴウちゃん。俺様ちゃんは約束を守る男だぜ」
この戦争に煌王朝西方軍を参加させる条件として、俺とラゴウはある密約を結んでいた。
それはラゴウが煌王朝の中央政府に反逆して西方地域を独立させるのを、バアル帝国が支援することである。
このラゴウという将軍はもともと中央で働いていた将軍だったが、くだらない権力争いに敗れて西方軍へと左遷されてきた。そのことを恨みに思っており、隙あらば煌王朝西方地域を独立させようとしていた。
(俺としても都合がいい話だな。ラゴウが王になって王朝の西方地域が独立してしまえば、その国は帝国と王朝との緩衝地域になる。王朝と帝国が直接、ぶつかることを防げるからな)
スロウスが皇帝になるにあたって最大の懸念の一つが、帝国の弱体化による周辺諸国の侵略である。
北方遊牧民はグリードが築いた長城によって防ぐことができるし、ランペルージ王国は若い国王の即位により混乱中。残る煌王朝が分裂して内乱を起こしてくれるのなら、こんなに良いことはなかった。
「持つべきものは友達だな。俺様ちゃんってば幸せ者だぜ」
しみじみと、俺は友情のありがたみを再確認した。ラゴウは「ガハハハッ」と笑って酒を飲み、シャオマオは呆れた様子で茶をすすっている。
戦場には似合わない穏やかな時間がしばし流れたが、突然、そんな俺達に尋常ではない地面の揺れが襲いかかってきた。
ゴゴゴゴゴゴゴッ、ゴゴゴゴゴゴゴッ!
「うおっ!」
「スロウス!」
「な、なんだあ!?」
帝都周辺はめったに地震は起こらない地域である。ありえない揺れに周囲を見渡すと、帝都の方角にありえない現象が起こっていた。
「なんだ・・・あれは・・・」
「塔、ナノカ、あれ?」
帝都の城壁の奥――ちょうど宮廷があるだろう方角に巨大な塔が立っていた。地面の揺れとともに天を衝くように伸びていく塔を見て、俺達は揃って言葉を失う。
やがて揺れが収まったときには、塔は城壁の3倍近い高さにまで伸びていた。
「・・・『バベルの塔』、【雷帝神槌】だって?」
俺はその塔の名前を呆然とつぶやいた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!