俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

40.神の塔


side スロウス・バアル

「んー、降伏まであと1日ってところだなー。サラザール騎士団長がいなけりゃこんなもんだな」

「帝都、ずいぶんとモロいな」

 帝国第3軍団と煌王朝の軍勢がバアル帝国の帝都を包囲している。それを後陣から眺めながら、俺はシャオマオとのんびり茶を飲んでいた。
 すでに帝都を包囲してから3日が経過している。近衛騎士団は主戦力を欠いた状態でろくに抵抗することはできず、なすがままに俺達の包囲を受け入れている。帝都を防衛する兵士達の士気は低く、この様子だとすぐに降伏してくるだろう。

「それにしてモ、驚いたゾ。お前、皇帝になんて、なりたかったんだナ?」

 シャオマオが以外そうに訊いてきた。
 これまで俺は帝国の東方にこもったまま、次期皇帝の継承戦にはほとんど参加してこなかった。それが今更になって帝都に攻め込み、帝位を簒奪しようとしているのだから無理もないだろう。

「いやー? 俺様ちゃんは皇帝になんてなりたくないぜ」

 俺は側近の少女の疑問に率直に答えた。

「皇帝になんてなりたくはないけどな。ラーズ兄貴とグリード兄貴、どっちが皇帝になったとしても俺様ちゃんの未来は真っ暗だからな。俺様ちゃんがこれからも楽しく酒を飲んで女の子と遊んで生活するためには、皇帝になって邪魔者に消えてもらわなきゃ困るんだよなー」

「だから、簒奪カ? 思い切ったナ」

「兄貴共が隙を見せなきゃ、そんなことするつもりなかったけどな。第1軍団と第2軍団だけならまだしも、近衛騎士団まで動かしちまったんだから帝都を盗ってくれって言ってるようなもんだろ?」

 それは素直な感想であった。どれだけマクスウェル家を滅ぼしたかったのかは知らないが、最低でも近衛騎士団は帝都に置いておくべきだった。
 近衛騎士団は守りの要、帝国の最後の砦といってもいい戦力だ。それを動かすという事は帝国に後がないと言っているようなものである。彼らが帝都を空けて、どれだけ民衆に不安が広がったかを宮廷の人間は誰も知らないだろう。

(その不安に付け込んだ俺が言うのも、おかしな話だけどな)

「ガハハハッ! 中央の権力者なんてそんなもんだ! 連中はいつだって知ったような顔して馬鹿な真似をするもんだぜ!」

 会話に入ってきたのは、煌王朝の将軍であり俺の酒飲み友達でもあるラゴウだった。煌王朝西方軍の将軍である彼は酒の入った盃を片手に大口を開けて笑っている。

「奴らはてめえらの尻に火がつくまで自分達に戦火が降りかかってくるかもしれないなんて考えられねえんだよ。だから後先考えずに無茶なことを言いだしてくる。それでそのツケを支払うのは俺達、現場の人間と来たもんだ!」

「そうだなー。遠征軍がマクスウェルに勝てたかどうかは知らないけど、あっちの兵士も災難だよな」

「違いねえ! それよりも、スロウス。俺との約束はわかってるだろうな!」

「もちろんだぜ、ラゴウちゃん。俺様ちゃんは約束を守る男だぜ」

 この戦争に煌王朝西方軍を参加させる条件として、俺とラゴウはある密約を結んでいた。
 それはラゴウが煌王朝の中央政府に反逆して西方地域を独立させるのを、バアル帝国が支援することである。
 このラゴウという将軍はもともと中央で働いていた将軍だったが、くだらない権力争いに敗れて西方軍へと左遷されてきた。そのことを恨みに思っており、隙あらば煌王朝西方地域を独立させようとしていた。

(俺としても都合がいい話だな。ラゴウが王になって王朝の西方地域が独立してしまえば、その国は帝国と王朝との緩衝地域になる。王朝と帝国が直接、ぶつかることを防げるからな)

 スロウスが皇帝になるにあたって最大の懸念の一つが、帝国の弱体化による周辺諸国の侵略である。
 北方遊牧民はグリードが築いた長城によって防ぐことができるし、ランペルージ王国は若い国王の即位により混乱中。残る煌王朝が分裂して内乱を起こしてくれるのなら、こんなに良いことはなかった。

「持つべきものは友達だな。俺様ちゃんってば幸せ者だぜ」

 しみじみと、俺は友情のありがたみを再確認した。ラゴウは「ガハハハッ」と笑って酒を飲み、シャオマオは呆れた様子で茶をすすっている。
 戦場には似合わない穏やかな時間がしばし流れたが、突然、そんな俺達に尋常ではない地面の揺れが襲いかかってきた。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ、ゴゴゴゴゴゴゴッ!

「うおっ!」

「スロウス!」

「な、なんだあ!?」

 帝都周辺はめったに地震は起こらない地域である。ありえない揺れに周囲を見渡すと、帝都の方角にありえない現象が起こっていた。

「なんだ・・・あれは・・・」

「塔、ナノカ、あれ?」

 帝都の城壁の奥――ちょうど宮廷があるだろう方角に巨大な塔が立っていた。地面の揺れとともに天を衝くように伸びていく塔を見て、俺達は揃って言葉を失う。
    やがて揺れが収まったときには、塔は城壁の3倍近い高さにまで伸びていた。

「・・・『バベルの塔タワー・オブ・バベル』、【雷帝神槌ゼウス】だって?」

 俺はその塔の名前を呆然とつぶやいた。
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