俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

42.皇女様は喪に服す


 ブリテン要塞の戦いから1週間。俺はバアル帝国との戦争の戦後処理に追われていた。

 いかにマクスウェル家の圧勝に終わったとはいえ、兵士や要塞にまったく被害が出なかったわけではない。戦死者への慰労、要塞の補修、捕虜の処理などやらなければならないことは山積みだった。
 次期当主である俺も率先して戦後処理を行い、ようやく一段落ついたところで別荘にいるルクセリアへと会いに来た。

「そうですか、ラーズ兄様が・・・」

「謝罪はしない。しかし、お悔やみ申し上げよう」

「いえ、戦争を起こしたのは帝国側ですから。ディンギル様を恨む理由がありません」

 兄の戦死を聞いたルクセリアは取り乱すこともなく目を伏せた。
 今日のルクセリアは戦死した帝国兵の喪に服しているのか、黒いドレスを身にまとっている。漆黒の布地の上を、金色の髪が闇を裂くようにして流れている。
 部屋の中には俺とルクセリアの二人しかいない。ある程度信用してもらえたのか、お付きの二人は席を外していた。

「兄の亡骸は帝国に返していただけるのでしょうか?」

「意味もなく死体を辱める趣味はない。帝国側との戦後交渉が終わり次第、お返ししよう」

「ありがとうございます。兄も故郷のほうが安らかに眠れると思います」

 ところで、と言葉を切って、ルクセリアは改めて尋ねてくる。

「帝国は今、どうなっているのでしょうか? グリード兄様は生き残っているのですよね?」

「ああ、その辺は密偵に探らせているところだ。いい加減、戦後交渉もやらないといけないからな。あっちがおとなしく応じてくれるといいんだが」

「グリード兄様が生きて指揮を執っているのでしたら・・・おそらく停戦には応じないでしょうね」

 ふう、とルクセリアはため息をついた。

「グリード兄様は武人であったラーズ兄様へのコンプレックスもあって、とてもプライドが高いですから。敵国に負けた現実を受け入れることはできないでしょう。帝国に残っている兵士をかき集めてブリテン要塞に再度、攻め込んでくるかと」

「やっぱりそうなるか。きっちり殺しとくべきだったな」

「・・・・・・」

 妹の前での残酷な言葉に、ルクセリアは何とも言えない表情をする。

「まあ、かかってくるなら返り討ちにしてやるさ。ところで、君はこれからどうするつもりだ?」

「私は・・・」

 ルクセリアはしばし黙って考え込み、やがて口を開いた。

「できれば、ディンギル様さえよろしければですけど、もうしばらくこちらに置いていただきたいのですが・・・」

「それは構わないが・・・」

 この戦争により、ルクセリアが帝国に対する人質にはならないことが明らかになった。本人が帰りたいというのなら、解放しても良かったのだが・・・

「帰ったら、グリード兄様に何をされるかわかりませんから」

「なるほどな。妹にいかがわしいことをしようとする気持ちは、俺には全くわからないんだが」

「ディンギル様のような方が兄でしたら良かったんですが・・・ふふ、いけませんね。無い物ねだりは」

「はは、俺は君が妹でなくて良かったと思うよ。妹相手じゃできないことも多いからな」

「できないこと、ですか? どんな事でしょうか?」

「さてさて、どんな事かな。その時がきたら、きちんと教えてあげよう」

「わかりました。楽しみにしていますね」

 にっこりと微笑むルクセリア。大輪のバラが花開くような笑顔に、いっそのこと、この場できっちりねっとり身体に教えてあげようかと衝動に駆られたが、何とか堪える。

「うっ・・・」

「ディンギル様? どうされましたか?」

 欲望を必死に押さえつけている俺の様子を不審に思ったのか、ルクセリアが俺の顔をのぞき込んできた。少し首を伸ばせば接吻できる位の距離に天使のごとき美貌がある。

(あ、これはダメだな)

 やろう。
 やっちゃおう。
 後で問題が起こったらその時に考えればいいか。

「え?」

「ルクセリア・・・」

「ディンギル様、よろしいでしょうか」

 欲望のままに黒いドレスを着た身体を抱き寄せようとしたところで、第三者の声が割って入った。
 振り向くと、メイド服を着た小柄な少女が立っていた。

「失礼しました。お邪魔でしたね」

「・・・・・・いや、何か用か。サクヤ」

【鋼牙】の暗殺者であり、俺の専属メイドのサクヤである。
 サクヤは肩に鷹を乗せて、小さな両手に折り畳まれた紙を持っている。

「さきほど、帝都に調査に向かった仲間から連絡が入りましたのでご報告します」

「そうか、どうだった?」

「単刀直入に言いますと、雷が落ちました」

「・・・そうか、天気が悪かったんだな」

 なぜ急に天気の話になるのだ。俺は眉をひそめて相づちを打った。

「はい、そして、今も雷が落ち続けています」

「は?」

「おそらく、これからも雷が落ち続けるでしょう。あの男に逆らう者がいなくなるまで。ずっとずっと」

 サクヤの奇妙な報告に、俺とルクセリアは顔を見合わせて首を傾げた。
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