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第2章 帝国騒乱 編
44.雷の独裁者
side グリード・バアル
「お願いします! これ以上、作物が枯れたら民が飢えてしまいます!」
「税収も大幅に減ってしまいますし、どうか・・・」
「・・・それがどうしたというのですか? 民など多少減ったところで大した違いはないでしょう?」
【雷帝神槌】――バベルの塔の頂上にて、私は無能な部下達の報告を受けていた。報告といっても、そのほとんどは領主や民からの陳情である。
目の前に跪いている二人の役人もそうだ。彼らの意見をまとめると「【雷帝神槌】を使うな」、ただそれだけである。
(馬鹿ばかりですね。いまさら神の力を手放せと言うのですから)
初代皇帝から受け継いだ魔具【雷帝神槌】の副作用により、帝都周辺の樹木や作物が枯れるようになった。そのことについて私に責任を問う声が帝国でも高まっていたが、私は皇帝が持つにふさわしいこの力を手放すつもりはなかった。
(この力は神に選ばれた私が持ってこそ価値がある。帝国の皇帝・・・いえ、世界の王者となる男にふさわしい武器です)
全てを支配し、逆らう者に天罰を降す神の力。これをどうして今さら捨てることができるだろうか。
「南にあるナーブの村では小規模ながら反乱も起こっております。どうかご再考を!」
「そうです! このままでは反乱が帝国中に広がって・・・」
「逆らう者は皆殺しにすればいいでしょう? ・・・ナーブの村ですね」
私は口元に笑みを浮かべて【雷帝神槌】を起動させた。唐突に私の前に窓のような四角い板が現れる。板には帝都周辺の地図が描かれており、その中から『ナーブの村』を探して指で押す。
塔の頂点から雷が放たれた。目にも止まらぬ速さの雷光が南の空に向かって飛んでいく。
雷の行く先を見ることは出来ないが、何処に落ちたのかははっきりとわかる。たった今、私に楯突こうとした反逆者の村が帝国から消えた。
「これでナーブの村の反逆は治まりましたよ。他に用がないのなら下がりなさい」
「なっ!? そんな!」
「殿下っ! そのような無体な!」
「【守護石兵】」
『了解シマシタ』
私が命じると、役人の背後に立っていた石像が動き出した。石の巨人は役人に向けて斧を振りかぶり、容赦なく叩きつけた。
「がっ・・・」
「ひいっ!?」
重厚な石斧により役人の一人が真っ二つに切り裂かれる。真っ赤な血が噴き出してもう一人の役人の顔へとかかった。生き残った役人は尻もちをつきながら、恐怖の眼差しで石の巨人を見上げている。
この石の巨人は【守護石兵】と呼ばれる魔具で、このバベルの塔を守護するために設置された警備兵である。塔の外に出すことができないというデメリットはあるものの、兵士10人分以上の力を持つ頼もしい護衛だった。
「間違えないでください。私はもはや『殿下』ではありません。『皇帝陛下』と呼びなさい」
「もっ、申しわけ、ございません・・・皇帝陛下・・・」
「よろしい。三度は言いませんよ。用が済んだなら下がりなさい」
「・・・失礼しました」
役人は転がるようにして部屋から出て行き、塔の階段を降りていく。
逃げていく役人の背中を見送り、私は塔の頂上へと移した玉座に背中をかける。
「まったく、みんな馬鹿ばかりで困りますね」
「まったくでございます。グリード陛下」
揉み手をしながら答えたのは私の側近であるサイム・フルカスという老人である。
「グリード陛下の神の力によって帝国は一つにまとまりつつあります。さすがは建国帝の後継者。見事な手腕でございます」
「ふっ、そうでしょう」
私は当然だとばかりに頷く。
広大な帝国を統治するのに必要なのは、逆らう気が起こらないほど圧倒的な力である。そして、力は見せつけなければ意味がない。
私に反旗を翻そうとしている者達も、この調子で粛清を続けていけばすぐに忠実な人形へと変わるだろう。
それよりも――
「フルカスよ。例の件は進んでいますか?」
「い、いえ、申し訳ありません。やはり前回の敗戦での被害が大きく、思うように兵が集まりません」
「マクスウェルごときに敗戦したことは我ら帝国の歴史的汚点です。早く拭わなければ、帝国の栄光に影を落とすことになるでしょう。大至急、出兵の準備をしなさい」
残念なことであるが、遥か西方にあるマクスウェル辺境伯領は【雷帝神槌】の射程範囲外である。そこを攻めるとなれば、この魔具の力ではなく軍隊を用いらなければならない。
「一刻も早くマクスウェルを滅ぼしてルクセリアを取り戻すのです。偉大なる皇帝の傍には最も美しい妃が必要ですからね」
「もちろんでございます。しかし、大軍を集めるとなると兵糧も必要ですし・・・」
フルカスが言葉を濁らせて白い髭を撫でる。私は目を細めて老人を睨みつけて、容赦なく命じる。
「兵は国中の若い男を強制徴兵しなさい。兵糧は村々から差し出させて、残りは現地で略奪すれば済むでしょう。マクスウェルを滅ぼさなければ食事がとれないとなれば、兵も死に物狂いで働くでしょう」
「なるほど、それはようございます。すぐに手配いたします」
帝国中の若い男を兵士として集めれば軍の規模は20万を超えるだろう。それだけの規模の軍勢に攻められれば、マクスウェル領ごときすぐに灰燼と化すだろう。
「くっくっく、私を虚仮にしたことを後悔してもらいましょうか。ディンギル・マクスウェル。楽に死ねるとは思わないことですね。貴方にはこの世で最も残酷な処刑法を用意してあげましょう」
私は塔の上から西の空を睨みつけて、憎き仇敵をどのように処刑してやるか思いを馳せた。
「お願いします! これ以上、作物が枯れたら民が飢えてしまいます!」
「税収も大幅に減ってしまいますし、どうか・・・」
「・・・それがどうしたというのですか? 民など多少減ったところで大した違いはないでしょう?」
【雷帝神槌】――バベルの塔の頂上にて、私は無能な部下達の報告を受けていた。報告といっても、そのほとんどは領主や民からの陳情である。
目の前に跪いている二人の役人もそうだ。彼らの意見をまとめると「【雷帝神槌】を使うな」、ただそれだけである。
(馬鹿ばかりですね。いまさら神の力を手放せと言うのですから)
初代皇帝から受け継いだ魔具【雷帝神槌】の副作用により、帝都周辺の樹木や作物が枯れるようになった。そのことについて私に責任を問う声が帝国でも高まっていたが、私は皇帝が持つにふさわしいこの力を手放すつもりはなかった。
(この力は神に選ばれた私が持ってこそ価値がある。帝国の皇帝・・・いえ、世界の王者となる男にふさわしい武器です)
全てを支配し、逆らう者に天罰を降す神の力。これをどうして今さら捨てることができるだろうか。
「南にあるナーブの村では小規模ながら反乱も起こっております。どうかご再考を!」
「そうです! このままでは反乱が帝国中に広がって・・・」
「逆らう者は皆殺しにすればいいでしょう? ・・・ナーブの村ですね」
私は口元に笑みを浮かべて【雷帝神槌】を起動させた。唐突に私の前に窓のような四角い板が現れる。板には帝都周辺の地図が描かれており、その中から『ナーブの村』を探して指で押す。
塔の頂点から雷が放たれた。目にも止まらぬ速さの雷光が南の空に向かって飛んでいく。
雷の行く先を見ることは出来ないが、何処に落ちたのかははっきりとわかる。たった今、私に楯突こうとした反逆者の村が帝国から消えた。
「これでナーブの村の反逆は治まりましたよ。他に用がないのなら下がりなさい」
「なっ!? そんな!」
「殿下っ! そのような無体な!」
「【守護石兵】」
『了解シマシタ』
私が命じると、役人の背後に立っていた石像が動き出した。石の巨人は役人に向けて斧を振りかぶり、容赦なく叩きつけた。
「がっ・・・」
「ひいっ!?」
重厚な石斧により役人の一人が真っ二つに切り裂かれる。真っ赤な血が噴き出してもう一人の役人の顔へとかかった。生き残った役人は尻もちをつきながら、恐怖の眼差しで石の巨人を見上げている。
この石の巨人は【守護石兵】と呼ばれる魔具で、このバベルの塔を守護するために設置された警備兵である。塔の外に出すことができないというデメリットはあるものの、兵士10人分以上の力を持つ頼もしい護衛だった。
「間違えないでください。私はもはや『殿下』ではありません。『皇帝陛下』と呼びなさい」
「もっ、申しわけ、ございません・・・皇帝陛下・・・」
「よろしい。三度は言いませんよ。用が済んだなら下がりなさい」
「・・・失礼しました」
役人は転がるようにして部屋から出て行き、塔の階段を降りていく。
逃げていく役人の背中を見送り、私は塔の頂上へと移した玉座に背中をかける。
「まったく、みんな馬鹿ばかりで困りますね」
「まったくでございます。グリード陛下」
揉み手をしながら答えたのは私の側近であるサイム・フルカスという老人である。
「グリード陛下の神の力によって帝国は一つにまとまりつつあります。さすがは建国帝の後継者。見事な手腕でございます」
「ふっ、そうでしょう」
私は当然だとばかりに頷く。
広大な帝国を統治するのに必要なのは、逆らう気が起こらないほど圧倒的な力である。そして、力は見せつけなければ意味がない。
私に反旗を翻そうとしている者達も、この調子で粛清を続けていけばすぐに忠実な人形へと変わるだろう。
それよりも――
「フルカスよ。例の件は進んでいますか?」
「い、いえ、申し訳ありません。やはり前回の敗戦での被害が大きく、思うように兵が集まりません」
「マクスウェルごときに敗戦したことは我ら帝国の歴史的汚点です。早く拭わなければ、帝国の栄光に影を落とすことになるでしょう。大至急、出兵の準備をしなさい」
残念なことであるが、遥か西方にあるマクスウェル辺境伯領は【雷帝神槌】の射程範囲外である。そこを攻めるとなれば、この魔具の力ではなく軍隊を用いらなければならない。
「一刻も早くマクスウェルを滅ぼしてルクセリアを取り戻すのです。偉大なる皇帝の傍には最も美しい妃が必要ですからね」
「もちろんでございます。しかし、大軍を集めるとなると兵糧も必要ですし・・・」
フルカスが言葉を濁らせて白い髭を撫でる。私は目を細めて老人を睨みつけて、容赦なく命じる。
「兵は国中の若い男を強制徴兵しなさい。兵糧は村々から差し出させて、残りは現地で略奪すれば済むでしょう。マクスウェルを滅ぼさなければ食事がとれないとなれば、兵も死に物狂いで働くでしょう」
「なるほど、それはようございます。すぐに手配いたします」
帝国中の若い男を兵士として集めれば軍の規模は20万を超えるだろう。それだけの規模の軍勢に攻められれば、マクスウェル領ごときすぐに灰燼と化すだろう。
「くっくっく、私を虚仮にしたことを後悔してもらいましょうか。ディンギル・マクスウェル。楽に死ねるとは思わないことですね。貴方にはこの世で最も残酷な処刑法を用意してあげましょう」
私は塔の上から西の空を睨みつけて、憎き仇敵をどのように処刑してやるか思いを馳せた。
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