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第2章 帝国騒乱 編
53.最上階への道
「姫様あああああ!」
ルクセリアが姿を消した空間へとエスティアが走り寄る。敬愛する主の消失に頭が真っ白になっている。
床に倒れていた【守護石兵】の一体が起き上がり、エスティアの背中へと拳を振りかぶる。それに気かつくことなく、忠義の女騎士は走っていった。
「後ろだ! エスティア!」
「くうっ!?」
シャナがエスティアの背後に迫るゴーレムへと槍を振りぬいた。閃光のごとき速さで放たれた斬撃が胸元の核を切り裂いて、ゴーレムは今度こそ破壊された。
「うっ・・・すまない、シャナ」
「構わない。油断をするな」
言いながらも、シャナは厳しい目でルクセリアがいた場所を睨みつける。
元・近衛騎士であったシャナにとってもルクセリアは昔なじみの友人である。瞳の奥には目に見えて焦燥が浮かんでいる。
「・・・サイム・フルカス!」
「ぐうっ!?」
俺はグリード・バアルの側近である老人の首を手で締め上げ、顔を寄せる。
いったい俺はどんな表情をしていたのだろう。眼前で俺の顔を凝視するフルカスの顔は激しい恐怖で引き攣っている。
「答えろ! ルクセリアはどこへ行った!?」
「し、知らない! わしは何もやっていない!」
「答えろと言っている!」
「ぐひいっ!?」
手の力を強めて、フルカスの首を絞める。このまま首をへし折ってしまいたくなる衝動を必死に抑えて、老人に尋問を続ける。
「お、おそらく最上階のグリード陛下の部屋に・・・」
「そこへはどうすれば行ける!」
「いつもは転移を使って登っているが、今の私には使うことはできない・・・あとは、階段で行くしか・・・」
プルプルと震える手でフルカスは部屋の隅にある階段を指差した。俺は舌打ちをする。
(これだけの高さの塔だ。どれだけ時間がかかるかわからないぞ。それに、確実にトラップやゴーレムが待ち構えて・・・)
「ディンギル様!」
そこまで思考を巡らせたところで、サクヤが警戒の声を上げた。
さきほどルクセリアを吸い込んだのと同じような魔方陣が床に浮かびあがった。10、20、30・・・と魔方陣は次々と数を増やしていき、そこから新手の【守護石兵】が出現した。
味方の援軍を目にして、フルカスが目を輝かせた。
「おお! グリード陛下からの援軍じゃ! ははははははっ、これで形成ぎゃくて・・・」
「うおっ!」
手近に現れたゴーレムが拳を振り下ろす。俺はとっさに躱したのだが、無防備な老人は石の拳と床の間でサンドイッチとなり床に赤いシミを作った。
「見境なしですね。いかがいたしましょう、ディンギル様」
「・・・さて、どうするかね」
サクヤの問いに俺は唇を歪めた。
目の前に立ちふさがる数十体のゴーレムは、死力を振り絞って戦えば勝てないこともないだろう。
しかし、その間にルクセリアがどんな目に遭わされることか、考えるのも忌々しい。
「主殿、ここは我々が引き受ける! 血路を開くから、先にルクセリア様を助けに行ってくれ!」
「口惜しいが姫様のことは貴様に任せる! 行ってくれ、ディンギル・マクスウェル!」
シャナとエスティアが目の前のゴーレムを叩き伏せて、俺に向かって叫んでくる。二人の目の奥には、決死の覚悟がうかがえる。
シャナとエスティア、二人とも同世代では屈指とも呼べる武人である。彼女たちの剣と槍は俺の目から見ても冴えわたっており、一つの芸術品とすら呼べるだろう。
しかし、これだけの数のゴーレムの相手を相手にさせてしまえば、さすがに命の保証はないだろう。二人がフルカスと同じく、床のシミになるのは時間の問題だ。
「・・・階段、か」
俺はゴーレムの奥にある上層への階段を睨みつけた。
あの階段を昇るのが正しいのか、それともこの場に踏みとどまるのが正しいのか。
(ここで俺がとるべき決断は・・・)
俺は目の前のゴーレムを切り伏せて、一つの決断を下した。
「俺が行くまで無事でいてくれよ・・・ルクセリア!」
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