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第2章 帝国騒乱 編
57.たった一つの正しい道筋
バベルの塔の1階にて、仲間を置いて階段を上るか、仲間と共にゴーレムと戦うか、俺は決断に迫られた。
結果、俺が出した回答は「どちらも選ばない」というものである。
一度、仲間を引き連れて塔から出た俺は、塔の外壁を登って最上階を目指すことにした。
「それは・・・さすがに無茶ではないでしょうか?」
「うむ、正気とは思えないな」
俺が出した代案にサクヤとシャナがそろって呆れた顔をする。エスティアにいたっては口をあんぐりと開いて固まっている。
「おいおい、そんなに呆れるなよ。こう見えてもきちんと考えたんだぜ?」
「でしたら、考えが足りなかったのでしょう。
この塔はランページ王城の数倍以上の高さがあります。仮に登ることができたとしても、最上階まで到達するのに半日以上はかかるのではないでしょうか。それに、いくら最上階まで登っても、塔の内部に入る侵入口があるとは限りませんよ」
サクヤが冷静に問題点を指摘する。
俺だって無茶なことを言っていることは自覚している。しかし、罠とゴーレムであふれかえっている塔の階段を1階1階登っていては、それこそ何日かかるかわからない。
だったら、多少の無理を押し通してでも、罠のない外側から登っていった方が早いのではないだろうか?
そして――
「どこに侵入口があるかなんてわかっている。そこの上を登ればいいんだよ」
「あれは・・・」
俺が指差した先には、一人の少女の遺体があった。
生前はさぞや綺麗な金髪をしていたであろう少女は、まるで踏みつぶされた昆虫のように地面に大きなシミを作っている。
「何があったかは知らんが、あの娘は塔の上から突き落とされたに違いない。ということは、あの娘の真上を登っていけば必ず侵入口があるはずだ」
「それは・・・」
サクヤが押し黙る。おそらく、俺の言葉の正否を考えているのだろう。やがて納得したように小さく頷いた。
「それは、そうかもしれません。しかし、この高さの塔を登ることが危険であることには違いありません。身軽な私だけでしたらあるいは・・・」
「登るのは俺一人で良い。サクヤも、他のみんなもここでお留守番だ」
「む、それは危険なのでは?」
シャナが首を傾げて聞いてくる。俺は頷いて、胸ポケットからとある魔具を取り出した。
「これを使う。こいつで身体能力をブーストすれば最上階までさほど時間はかからないはずだ」
「それは・・・!」
俺が取り出したのは、かつてサリヴァンから奪った魔具【豪腕英傑】である。
ランペルージ王国の至宝であるその魔具を装着すると、身体能力が限界まで引き上げられ、さらに不死ともいえる治癒能力を得ることができる。
「俺はこれを使って塔を登る。悪いがこれ以上議論をしている暇はない。ルクセリアが心配だからな・・・」
「やれやれ・・・それを言われると反論できないな」
「お気をつけください、ディンギル様」
シャナが呆れ返ったように肩をすくめ、サクヤがメイド服の裾をつまんで丁寧に主人を送り出す。
ようやく正気を取り戻したエスティアも、両手で俺の手の平を包み込んで頭を下げてくる。
「ディンギル・マクスウェル・・・いえ、ディンギル様! 姫様をよろしくお願いします!」
「もちろんだ。任せておけ」
行ってくる、と3人の女性に言い残して、俺は腕輪を装着した。俺の腕に嵌められた腕輪が眩いばかりの銀色の光を放った。
「お、おお・・・!?」
以前、サリヴァンが使っていたときとは反応が違う。あの時も腕輪は光っていたが、ここまで強い光を出してはいなかった。
「使用者によって違いが・・・? いや、検証するのは後だな」
俺は地面を蹴って、塔へと飛びついた。
「うおっ!」
「すごい! なんという脚力だ!」
飛び跳ねた俺の身体は、塔の3階部分まで一気に到達した。下からシャナが驚く声が聞こえる。予想外の身体能力に自分でも混乱してしまうくらいだ。
「これは・・・いけそうだ!」
口元を歪めて会心の笑みを浮かべ、俺は飛ぶようにして塔を登っていく。
この身体能力があれば、もはや手を使う必要もない。塔のあちこちにある窪みや装飾部分に足をかけて、垂直の塔を駆け上がるようにして登っていく。
まるで自分が天を舞う竜にでもなったような気分だ。
今だったら万の軍勢を相手にしたって勝てるような気がする。
「おっと、この魔具は寿命を削るんだったな。調子に乗っちゃいけない」
魔具の副作用で老人の姿になったサリヴァンの姿を思い浮かべ、俺は左右に首を振った。
サリヴァンが憑りつかれた気持ちも、今だったらわかる。この全身に溢れるような万能感は癖になる。
「不断の覚悟をもって扱わないと、魔具に憑り殺されそうだな・・・気を付けよう」
言っている間に、塔の最上階が見えてきた。
明かりとりのためか、それともゴミを廃棄するためか、俺の予想通りに最上階には窓が付けられていた。
窓を開いて、塔の内部へと足を踏み入れる。
塔の最上階では驚くべき光景が広がっていた。
「・・・っ! ルクセリア!」
メイドの姿をした何か・・・おそらくゴーレムがルクセリアの首を絞めている。それをなぜか泣きながらグリード・バアルが見つめている。
「ルクセリアから離れろ!」
俺は全身の力を込めて、腰から抜いた剣を投擲した。
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