俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険

19.冒険の終わりと次の世代へ

side ジャンゴ・サンダーバード

 俺の名はジャンゴ。
 ランペルージ王国南方辺境伯家であるサンダーバード家の長男坊だ。

 この年までは、長男という立場は家を継げてラッキーだと思っていた俺だったが、一人の女性との出会いによって人生観を大きく変えられることになった。
 踊り子である彼女と共に生きるためには、貴族の後継ぎという肩書きは邪魔者でしかなかった。

 それでも何とか彼女を妻にと願った俺に父が突き出した条件は、3年以内に金貨10万枚を稼ぐという無理難題であった。

 金貨10万枚というと小国の国家予算に匹敵する額である。個人で稼ぐには到底不可能な金額だ。

 俺は海洋貿易という方法に希望を見出しながらも、半ば条件達成を諦めていた。
 南洋諸島で商売をしつつ、こちらでの地位を確立して彼女と新天地で暮らそう。
 そんな思いを胸にサファイア王国へとやってきた。

 しかし、予想外の事態によって、俺は父との約束を果たす目途が立ってしまった。

 友人であるディートリッヒ・マクスウェルが目もくらむような財宝を持ってきたのである。





「ふう、こんなもんだな」

 俺はサファイア王国の港町に借りていた店を畳み、ランペルージ王国へと帰国する準備をしていた。

 この南の島で過ごした期間はわずかに2ヵ月。しかし、人が住んでいれば日用品などが自然と増えるものである。
    帰国の準備には思わぬ時間がかかってしまった。

「こんなに早く条件を達成できるとは・・・まったく、ディートリッヒ様様だな!」

 この国に共にやってきた友人の財宝によって、俺は父との約束を果たすことができそうだ。

 財宝をこの国の王族や貴族、周辺諸国へと売り出して、結果として金貨120万枚を得ることに成功した。
    俺の分け前は1割という約束なので、12万枚が俺の懐に入る計算になる。

「それにしても・・・そのディートリッヒはどこに行ったんだ?」

 ディートリッヒは数週間前に財宝を俺に預けたきり、姿を消していた。
 ちょうどその頃に港が崩壊するという事故も起こっているため、巻き込まれてはいないか心配である。

「あいつの兄貴、ディランさんも亡くなったらしいし・・・落ち込んでないといいんだが」

 一瞬、ディートリッヒがこのまま姿を消してしまえば金貨を独り占めできるという考えが頭をよぎるが、いくら何でも危険過ぎるだろう。

    あの剣術バカの財産をネコババなど、命がいくつあっても足りやしない。

「やあ、ジャンゴ。しばらくぶりだな」

「お? 噂をすればだな」

 そんなことを考えていたら背後から声をかけられた。振り返るまでもなくディートリッヒの声である。

「何だよ、生きてたのか? このまま死んでくれたら金貨は俺の物だったってのに」

 悪態をついて振り返った俺は、そのまま固まってしまった。

「お前・・・誰だ?」

「何を言ってるんだ。私だよ、ディートリッヒだ」

 そこに立っていたのは見知らぬ好青年であった。
 優しげなまなざし。柔和な笑みを浮かべた口元。大樹のような穏やかな雰囲気を身に纏ったたたずまい。
 それはどれも、俺の記憶にあるディートリッヒとは別人である。

「え、は、えーと・・・確かに顔はディートリッヒだけど・・・」

 俺は口元をへの字にして、目の前の男を呆然と見やる。

「ふっ、男子三日合わざれば・・・というやつだよ。ジャンゴ。
 私もいずれはマクスウェル家を継ぐ人間だ。それにふさわしい気位というものを身に着けただけだ」

「いや、気位というか人格そのものが変わっているんだが・・・お前、いったい何があった?」

 俺の質問に、ディートリッヒは空を仰いで遠い目をした。

「神はいた・・・楽園ヴァルハラが見えたよ。俺の身体の毒気をすっかり絞りつくされてしまった」

「わかるかっ! お前、本当にどうした!? 悪霊にでも遭遇したか!?」

 海には船乗りの精を吸い尽くす魔物が出るという。
 そうとでも考えなければ説明がつかないような変貌ぶりである。

「ふっ、いつか語る日も来るだろう。今は故郷へと帰ろうじゃないか。早くマクスウェル家に帰らないとな」

「・・・今のお前を国に連れて帰っていいのか激しく疑問なんだが」

「はははは」

「何がおかしいんだよ!? マジで何があったんだああああああ!?」

 爽やかな笑顔を浮かべるディートリッヒ。
 俺の悲鳴のようなツッコミは、突き抜けるような青空へと消えていった。





 それから1年後。
 この南の海で一人の男子が生まれることになる。

 最凶の剣士と最狂の海賊、二人のかけ合わせである赤ん坊は、後に大陸の歴史を大きく動かす歴史的英雄へと成長することになる。

 それはまだ、誰も知らない未来の話であった。



幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険 完
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