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第3章 南海冒険編
2.息子は怒鳴り、母は笑う
しばらく悲鳴が鳴り続いていた蛇骨海賊団の船であったが、やがて悲鳴が止まって沈黙に包まれた。
どうやら殺戮の宴は終わったようである。
屠殺場と化した船へと、一隻の船が近づいてきた。
船の旗に付いているのはシンプルな髑髏のマーク。飾る必要などないとばかりの旗印の船の帆先には、赤いドレスを着た一人の女が仁王立ちしていた。
「がはははっ! どうやら仕事は終わったようだなあ!」
赤いドレスを着て、白い髪を潮風にはためかせた女の名前はグレイス・D・O・マクスウェル。
南の海でもっとも巨大な力を持つ海賊団『白鬼海賊団』の船長であり、ドラコ・オマリの名で知られている大海賊であった。
「すげえ、たった一人で蛇骨を潰しちまいやがった・・・やっぱり婆様とあの人の息子だな」
ほう、とため息をつきながら感嘆したのは白鬼海賊団の副船長であるゴードという名前の大男である。
ゴードは部下に指示を出して、蛇骨海賊団の船へと自分達の船を隣接させる。
「うおお・・・」
船を覗き込んで、ゴードは思わず驚きの声を上げてしまった。
船は人間の血で真っ赤に染まっていた。船のデッキからマストに至るまで、赤く染まっていない部分が見当たらないほどの有様である。
むせかえるような血の匂いに包まれた船は、まるで生者の侵入を拒むかのように死の気配で満たされていた。
そして・・・・・・たった今、幽霊船になったばかりの船に『俺』は立っていた。
「よお・・・久しぶりだな」
やや怯えた様子で蛇骨海賊団の船へと乗り移ってきた白鬼海賊団の面々。
その先頭に立っている女に向けて、俺は手に持ったナイフを投げつけた。
「おお!?」
狙い通りに喉元へと飛ばされたナイフを、まるで投げ渡されたボールを受け止めるようにしてグレイスは掴んだ。
ここまでは予想通り。俺は死んだ海賊が持っていた剣を拾い、即座にグレイスの間合いへと踏み込んだ。
「ふっ!」
「なんだなんだ、危ないだろお!?」
「ちっ・・・仕損じたか」
居合抜きのように放たれた斬撃であったが、グレイスは何事もなかったかのように指先でつまんで止める。
全身に痣を作ったせいでズキズキと身体が痛み、思うように力が入らない。
さすがに、今の状態で目の前の鬼を殺すことは難しそうだ。
「どうしたあ、敵と間違えたのかあ? ほれほれ、よく見てみろ。私だぞお。お前のお母さんだぞお?」
「知ったうえで斬ってんだよ、クソババアめ!」
俺は吐き捨てて、死体から奪い取った剣を船のデッキへと突き刺した。
「なあにを不貞腐れてるんだ? 反抗期かあ? それとも、蛇骨を潰すために罪人に仕立てたことを怒ってるのかあ?」
「その通りだよ、クソババア!」
蛇骨海賊団の戦闘力はそれほ高くはなかった。しかし、妙に目端が利く彼らは巧みに白鬼海賊団の追跡を躱しており、なかなか捉えることができなかった。
蛇骨海賊団を油断させ、おびき寄せるために島流しの罪人を装う。その作戦自体はわからなくもない。
「だけど・・・拷問はやりすぎだろうが!」
俺は全力で蹴りを放つ。軸足に体重をしっかりと残して放たれた蹴撃であったが、グレイスは身体をずらして易々と避ける。
「ふべっ!?」
代わりに蹴りをくらったのは背後にいたゴードである。腹部に思わぬ衝撃を受けた大男の身体が宙に舞ってそのまま海に落下する。
「がはははっ、そんなに怒るなよう! 息子に嫌われるのは母として辛いなあ!」
「だったら嫌われるようなことしてんじゃねえよ! てめえに母親らしいことなんぞされた覚えないわ!」
グレイスは俺の罵倒をどこ吹く風で受け流し、「がはははっ!」と笑い続けている。
いい加減、何を言っても無駄だと悟った俺は床に倒れていた男の身体を引き起こした。
「言われた通り、船長は生かしておいた。尋問でも拷問でも好きにしやがれ!」
蛇骨海賊団の船長である男は身体のあちこちを刃物で切り刻まれているが、かろうじて息があった。
俺は男の身体を蹴り転がすようにしてグレイスの足元へと放る。
「がはははっ! 持つべきものは息子だなあ、よくやったぞ!」
「頭に触るんじゃねえよ! ったく・・・」
頭を撫でてこようとするグレイスの手を躱して、俺は船の船室へと足を向けた。
「こいつらの商品・・・奴隷は俺の好きにしていいんだよな? そういう約束だったよな?」
「もちろんだあ、私達は人間の売り買いはしていないからなあ!」
「そうかよ・・・まったく、いい女がいるといいんだがな」
これだけひどい目に遭ったのだ。女でも抱かなければやっていられない。
せめて容姿端麗な女奴隷が捕まっていることを祈りながら、俺は人心売買の商品が置かれているであろう船室への階段を下りて行った。
どうやら殺戮の宴は終わったようである。
屠殺場と化した船へと、一隻の船が近づいてきた。
船の旗に付いているのはシンプルな髑髏のマーク。飾る必要などないとばかりの旗印の船の帆先には、赤いドレスを着た一人の女が仁王立ちしていた。
「がはははっ! どうやら仕事は終わったようだなあ!」
赤いドレスを着て、白い髪を潮風にはためかせた女の名前はグレイス・D・O・マクスウェル。
南の海でもっとも巨大な力を持つ海賊団『白鬼海賊団』の船長であり、ドラコ・オマリの名で知られている大海賊であった。
「すげえ、たった一人で蛇骨を潰しちまいやがった・・・やっぱり婆様とあの人の息子だな」
ほう、とため息をつきながら感嘆したのは白鬼海賊団の副船長であるゴードという名前の大男である。
ゴードは部下に指示を出して、蛇骨海賊団の船へと自分達の船を隣接させる。
「うおお・・・」
船を覗き込んで、ゴードは思わず驚きの声を上げてしまった。
船は人間の血で真っ赤に染まっていた。船のデッキからマストに至るまで、赤く染まっていない部分が見当たらないほどの有様である。
むせかえるような血の匂いに包まれた船は、まるで生者の侵入を拒むかのように死の気配で満たされていた。
そして・・・・・・たった今、幽霊船になったばかりの船に『俺』は立っていた。
「よお・・・久しぶりだな」
やや怯えた様子で蛇骨海賊団の船へと乗り移ってきた白鬼海賊団の面々。
その先頭に立っている女に向けて、俺は手に持ったナイフを投げつけた。
「おお!?」
狙い通りに喉元へと飛ばされたナイフを、まるで投げ渡されたボールを受け止めるようにしてグレイスは掴んだ。
ここまでは予想通り。俺は死んだ海賊が持っていた剣を拾い、即座にグレイスの間合いへと踏み込んだ。
「ふっ!」
「なんだなんだ、危ないだろお!?」
「ちっ・・・仕損じたか」
居合抜きのように放たれた斬撃であったが、グレイスは何事もなかったかのように指先でつまんで止める。
全身に痣を作ったせいでズキズキと身体が痛み、思うように力が入らない。
さすがに、今の状態で目の前の鬼を殺すことは難しそうだ。
「どうしたあ、敵と間違えたのかあ? ほれほれ、よく見てみろ。私だぞお。お前のお母さんだぞお?」
「知ったうえで斬ってんだよ、クソババアめ!」
俺は吐き捨てて、死体から奪い取った剣を船のデッキへと突き刺した。
「なあにを不貞腐れてるんだ? 反抗期かあ? それとも、蛇骨を潰すために罪人に仕立てたことを怒ってるのかあ?」
「その通りだよ、クソババア!」
蛇骨海賊団の戦闘力はそれほ高くはなかった。しかし、妙に目端が利く彼らは巧みに白鬼海賊団の追跡を躱しており、なかなか捉えることができなかった。
蛇骨海賊団を油断させ、おびき寄せるために島流しの罪人を装う。その作戦自体はわからなくもない。
「だけど・・・拷問はやりすぎだろうが!」
俺は全力で蹴りを放つ。軸足に体重をしっかりと残して放たれた蹴撃であったが、グレイスは身体をずらして易々と避ける。
「ふべっ!?」
代わりに蹴りをくらったのは背後にいたゴードである。腹部に思わぬ衝撃を受けた大男の身体が宙に舞ってそのまま海に落下する。
「がはははっ、そんなに怒るなよう! 息子に嫌われるのは母として辛いなあ!」
「だったら嫌われるようなことしてんじゃねえよ! てめえに母親らしいことなんぞされた覚えないわ!」
グレイスは俺の罵倒をどこ吹く風で受け流し、「がはははっ!」と笑い続けている。
いい加減、何を言っても無駄だと悟った俺は床に倒れていた男の身体を引き起こした。
「言われた通り、船長は生かしておいた。尋問でも拷問でも好きにしやがれ!」
蛇骨海賊団の船長である男は身体のあちこちを刃物で切り刻まれているが、かろうじて息があった。
俺は男の身体を蹴り転がすようにしてグレイスの足元へと放る。
「がはははっ! 持つべきものは息子だなあ、よくやったぞ!」
「頭に触るんじゃねえよ! ったく・・・」
頭を撫でてこようとするグレイスの手を躱して、俺は船の船室へと足を向けた。
「こいつらの商品・・・奴隷は俺の好きにしていいんだよな? そういう約束だったよな?」
「もちろんだあ、私達は人間の売り買いはしていないからなあ!」
「そうかよ・・・まったく、いい女がいるといいんだがな」
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