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第3章 南海冒険編
10.神秘の奴隷
一通りスーの遺跡探検に付き合わされた俺は、白鬼海賊団がホームにしている建物へと足を向けた。
この遺跡には四角い巨大な建物が20ほど立っており、そこに生活している人間は五千人ほどである。
海賊団というよりも、もはや一つの都市国家と呼ぶにふさわしい規模だ。
俺が生まれる以前はもっと小規模で略奪のみを収入源にしていたらしいのだが、とある機会にまとまった資金を手にしてからは、海運や傭兵、未開の海の探索などより広い事業に手を出している。
俺とスーが建物に入ると、グレイスが唇を釣り上げて笑いながら出迎える。
「おう、遅かったなあ。どこで道草食ってたあ?」
「なに、世間知らずのお嬢さんのエスコートをしていてね」
「あううっ・・・」
俺の言葉にスーが顔を赤くする。どうやら年甲斐もなくはしゃいでしまったことを恥じているようだ。
ちなみに、グレイスと一緒に奴隷になっていた子供達は漁村のほうに預けてきた。
漁村には同じ年頃の子供が多くいる。船の牢屋などよりもよほど過ごしやすいはずだ。
「おふくろ、船を貸してくれ。ちょっとガーネット王国まで行ってくる」
俺は単刀直入に言った。基本的に脳筋の母親には駆け引きの類は通用しない。主張があるのなら余計な遠回りはせずに口にしたほうが効果的だ。
「その女のためかあ? ずいぶんと献身的だなあ」
「そういう約束だからな。守れる約束は守ることにしてるんだよ」
俺が肩をすくめて答える。グレイスはにいいっ、と唇を三日月形にする。
「いいぞお、行って来いよ。気をつけてなあ」
「ああ?」
意外な了承である。てっきり断られるだろうと思っていたのだが。
バアル帝国の港で拉致された俺であったが、いまだ自分が何のために連れてこられたのか理由を知らなかった。
まさか蛇骨海賊団ごときのために呼ばれたわけではあるまいし、次の仕事を押し付けられるだろうと予想していた。
「あっさりと許可が下りたな。いったい、何を企んでるんだよ」
「がははははっ、母親を疑うなよお! 私はお前を生んだ女だぞお?」
「だから心配なんだよ・・・」
俺は口をへの字に曲げて、うんざりと長い息を吐いた。
いくら問い詰めたところでこの女は絶対に口を割らないだろう。何を企んでいたとしても、今はそこに乗るしかない。
「まあいいや。蛇骨海賊団の船をもらうぞ。そもそも俺が奪ったものだし構わないよな?」
「おお、ただしサファイア王国には寄っていけよお?」
「サクヤと待ち合わせをしているから寄るつもりだけど・・・」
俺は疑念の視線をグレイスに向ける。
いったい、サファイア王国に何があるというのだろうか。
「女の隠し事を詮索するなよお。女は秘密があるほうが面白いだろ?」
「・・・お前に言われると腹立つな。それじゃあ明日にでも出発するから、もう二度と会わないことを祈ってるぜ」
おちょくるような表情をしたグレイスを睨みつけて、俺は建物から出て行こうとする。
しかし、横からスーが手を伸ばしてきて俺の服の裾をつかむ。
「ん? どうした?」
「えっと・・・ご主人様。出発するなら今日中にしたほうが良いと思います」
スーが上目遣いで俺を見て、困ったような表情で言ってきた。
「おいおい、それはいくら何でも急すぎるだろう。早く故郷に戻りたい気持ちは理解できるけど・・・」
「いえ、そうではなくて・・・たぶん、数日中に嵐が来ますから。今日中に出れば嵐に遭わずにサファイア王国までたどり着けると思います」
スーの言葉に俺は眉を寄せた。どうしてそんなことがわかるのだろうか?
「さっき海鳥がそう言ってました。大きな風と雨が迫ってると。今のうちにお腹いっぱい食べて隠れようって」
「お前、鳥の言葉がわかるのか?」
「はい、何となくですけど」
スーは真面目な表情をしており、嘘や冗談を言っているようには見えなかった。
俺の配下である【鋼牙】の中にも未来を言い当てたりする巫女がいる。
魔法文明が衰退したこの世界でもごくまれに超常の力を持つ者がいるのは知っているが、ひょっとしてスーもその一人なのだろうか?
「青っぽい黒髪に、金の瞳ねえ。やっぱり特別な一族なのかな?」
俺はちらりとグレイスの顔を見ると、いくつになるかもわからない母親が唇を尖らせて口笛を吹く真似をしていた。
どうやらとぼけているようだ。いい年をした母親の子供っぽい仕草には若干、イラッとさせられる。
「まあ、いい。そういうことなら今日のうちに出発しよう。善は急げということだな」
俺はゴードに頼んで何人か船乗りを貸してもらい、その日のうちに子供達を連れて生まれ故郷を後にした。
12年ぶりの生まれ故郷への滞在はわずか数時間であった。
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