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第3章 南海冒険編
12.異国の港とメイド服
サファイア王国の玄関口である港町ブルートス。
空からは真夏のカンカンとした陽光が降り注ぎ、海から吹いてくる風はむせかえるような潮の臭いで満ちている。
そんな港は異国からやってきた人の群れで賑わっていて、絶えることなく商船が行き来している。
港町にいるのは商人や船乗りばかりではない。
近くの酒場の店員や食い物屋の売り子なども、かきいれ時だとばかりに客寄せに走っている。
俺は船の縁へと腰かけて、そんな混沌とした賑わいを見せる街並みを見下ろした。
隣にはスーがいて、キラキラとした宝石でも見るような目で街を行きかう人の波を眺めている。
「この街も相変わらずだな。変わってない」
「ご主人様はこちらに来たことがあるのですか?」
「ガキの頃に何度かな。さて、俺から離れるなよ、スー」
「はい、ご主人様!」
俺は離れないように厳重に言い含めて、スーを従えて港へと降り立った。
強い陽光の下に色濃い影が映るように、賑わうこの街にだって悪党と呼ばれる人間は大勢いる。
スーのような世間知らずな娘など、放置していたら一刻もしないうちに拉致されてしまうだろう。
「おい! そこのお前ら!」
「ん?」
そのまま町へと入っていこうとする俺達だったが、ハーフプレートを着た男に呼び止められた。先頭に立つ男の後ろには同じような鎧の男が二人ほどいる。
30代ほどの日焼けした男は一見するとどこかの船の用心棒に見えるが、胸からは身分を示す腕章がぶら下がっている。
どうやら、この街の領主に雇われた衛兵のようである。
「そこの船はお前達の物だな?」
「そうですが、何か?」
「手配中の海賊船とよく似ているんだが・・・話を聞かせてもらおうか」
衛兵が目を細めて、探るような目つきで尋ねてきた。
(あー・・・しまったな)
俺達が乗ってきた船は蛇骨海賊団から奪ったものである。
海賊旗などの目印となるものは外して簡単な偽装は施しているが、目と記憶力の良い者には通用しないようだ。
十年前はここまで警備が厳しくなかったので、油断してしまった。
俺が困っているのを見かねたのか、船から海賊の一人が飛び降りてきて俺と衛兵の間に割って入る。
「まあまあ、お役人さん。どうぞここは穏便に・・・」
背の低い海賊は卑屈な笑みを浮かべて、衛兵の手の中に小さな革袋を握らせる。いわゆる『袖の下』というやつである。
「む・・・」
衛兵は二度、三度、握らされた革袋を握って感触を確かめ・・・そのまま袋を海へと投げ捨てた。
「あ!」
「これまでは賄賂などという方法が通用していたかもしれないが、この俺が警備隊の隊長となった以上、好きにできると思うなよ? 海賊も、違法薬物も、この街にはいっさい入れさせないものと思え!」
衛兵が一喝して、さらに厳しい目で俺達を睨みつけた。
「わかったら、詰め所まで来てもらおうか。たっぷりと話を聞かせてもらう!」
「ちっ・・・」
俺は舌打ちをして、右手で顔を覆う。
目の前の男を斬り捨てるのは簡単だが、その手段をとってしまえばもはや入港は不可能だろう。
俺一人であれば尋問されても問題はないが、一緒に乗ってきた海賊達はいずれも叩けばホコリが出る者ばかり。間違いなく、そのまま拘束されてしまうだろう。
(まいったな・・・こいつを殺って出直すか?)
最悪の場合はこの港での補給を諦めてガーネット王国に行くことになる。
それもやむを得ないかと強硬策に出ようとしたとき。
「すげ~~~~~! 人がいっぱいだ!」
「あれ! あれ見ろよ! 真っ黒な肌の人がいるぜ!」
「きゃはははっ! カモメカモメ!」
船の上から底抜けに明るい声が響いた。奴隷となっていた子供達が、初めて見るであろう巨大な港にはしゃいでいるのだ。
子供達はこれまで牢屋に閉じ込められていた鬱憤を吹き飛ばすかのように、航海の間中、船の中で遊び回っていた。
「子供があんなに・・・・・・ぷっ」
船の上から海鳥に豆を投げている子供の姿を見て、衛兵の隊長が噴き出すように笑った。
「すまない。俺の気のせいだったようだな。このまま入港してくれて構わない」
「・・・そうかい。お仕事お疲れさん」
「ああ、子供が迷子にならないように気をつけろよ。特に裏通りには入らないようにな!」
気さくな調子でこちらの肩を叩いて、衛兵は仲間を引き連れて去っていった。
どうやら窮地を乗り越えたらしい。
「やれやれ、先が思いやられるな」
「まったくですね。ディンギル様の行く所にトラブルありです」
「うぴゃあ!」
俺の背後からかけられた声に、スーが奇妙な悲鳴を上げて飛びあがった。
俺は苦い顔で振り返って、いつの間にか背後に立っていたメイド服の女に抗議をする。
「・・・嫌なことを言うなよ、サクヤ。今のトラブルは不可抗力だろう?」
「不可抗力を狙わずにして呼び寄せる。それをトラブルメーカーというのですよ。ディンギル様」
「そうかよ・・・覚えておこう」
真夏の太陽の下でもきっちりメイド服を着こなした少女。【鋼牙】の暗殺者・サクヤの言葉に、俺は苦々しい顔で答えるのであった。
空からは真夏のカンカンとした陽光が降り注ぎ、海から吹いてくる風はむせかえるような潮の臭いで満ちている。
そんな港は異国からやってきた人の群れで賑わっていて、絶えることなく商船が行き来している。
港町にいるのは商人や船乗りばかりではない。
近くの酒場の店員や食い物屋の売り子なども、かきいれ時だとばかりに客寄せに走っている。
俺は船の縁へと腰かけて、そんな混沌とした賑わいを見せる街並みを見下ろした。
隣にはスーがいて、キラキラとした宝石でも見るような目で街を行きかう人の波を眺めている。
「この街も相変わらずだな。変わってない」
「ご主人様はこちらに来たことがあるのですか?」
「ガキの頃に何度かな。さて、俺から離れるなよ、スー」
「はい、ご主人様!」
俺は離れないように厳重に言い含めて、スーを従えて港へと降り立った。
強い陽光の下に色濃い影が映るように、賑わうこの街にだって悪党と呼ばれる人間は大勢いる。
スーのような世間知らずな娘など、放置していたら一刻もしないうちに拉致されてしまうだろう。
「おい! そこのお前ら!」
「ん?」
そのまま町へと入っていこうとする俺達だったが、ハーフプレートを着た男に呼び止められた。先頭に立つ男の後ろには同じような鎧の男が二人ほどいる。
30代ほどの日焼けした男は一見するとどこかの船の用心棒に見えるが、胸からは身分を示す腕章がぶら下がっている。
どうやら、この街の領主に雇われた衛兵のようである。
「そこの船はお前達の物だな?」
「そうですが、何か?」
「手配中の海賊船とよく似ているんだが・・・話を聞かせてもらおうか」
衛兵が目を細めて、探るような目つきで尋ねてきた。
(あー・・・しまったな)
俺達が乗ってきた船は蛇骨海賊団から奪ったものである。
海賊旗などの目印となるものは外して簡単な偽装は施しているが、目と記憶力の良い者には通用しないようだ。
十年前はここまで警備が厳しくなかったので、油断してしまった。
俺が困っているのを見かねたのか、船から海賊の一人が飛び降りてきて俺と衛兵の間に割って入る。
「まあまあ、お役人さん。どうぞここは穏便に・・・」
背の低い海賊は卑屈な笑みを浮かべて、衛兵の手の中に小さな革袋を握らせる。いわゆる『袖の下』というやつである。
「む・・・」
衛兵は二度、三度、握らされた革袋を握って感触を確かめ・・・そのまま袋を海へと投げ捨てた。
「あ!」
「これまでは賄賂などという方法が通用していたかもしれないが、この俺が警備隊の隊長となった以上、好きにできると思うなよ? 海賊も、違法薬物も、この街にはいっさい入れさせないものと思え!」
衛兵が一喝して、さらに厳しい目で俺達を睨みつけた。
「わかったら、詰め所まで来てもらおうか。たっぷりと話を聞かせてもらう!」
「ちっ・・・」
俺は舌打ちをして、右手で顔を覆う。
目の前の男を斬り捨てるのは簡単だが、その手段をとってしまえばもはや入港は不可能だろう。
俺一人であれば尋問されても問題はないが、一緒に乗ってきた海賊達はいずれも叩けばホコリが出る者ばかり。間違いなく、そのまま拘束されてしまうだろう。
(まいったな・・・こいつを殺って出直すか?)
最悪の場合はこの港での補給を諦めてガーネット王国に行くことになる。
それもやむを得ないかと強硬策に出ようとしたとき。
「すげ~~~~~! 人がいっぱいだ!」
「あれ! あれ見ろよ! 真っ黒な肌の人がいるぜ!」
「きゃはははっ! カモメカモメ!」
船の上から底抜けに明るい声が響いた。奴隷となっていた子供達が、初めて見るであろう巨大な港にはしゃいでいるのだ。
子供達はこれまで牢屋に閉じ込められていた鬱憤を吹き飛ばすかのように、航海の間中、船の中で遊び回っていた。
「子供があんなに・・・・・・ぷっ」
船の上から海鳥に豆を投げている子供の姿を見て、衛兵の隊長が噴き出すように笑った。
「すまない。俺の気のせいだったようだな。このまま入港してくれて構わない」
「・・・そうかい。お仕事お疲れさん」
「ああ、子供が迷子にならないように気をつけろよ。特に裏通りには入らないようにな!」
気さくな調子でこちらの肩を叩いて、衛兵は仲間を引き連れて去っていった。
どうやら窮地を乗り越えたらしい。
「やれやれ、先が思いやられるな」
「まったくですね。ディンギル様の行く所にトラブルありです」
「うぴゃあ!」
俺の背後からかけられた声に、スーが奇妙な悲鳴を上げて飛びあがった。
俺は苦い顔で振り返って、いつの間にか背後に立っていたメイド服の女に抗議をする。
「・・・嫌なことを言うなよ、サクヤ。今のトラブルは不可抗力だろう?」
「不可抗力を狙わずにして呼び寄せる。それをトラブルメーカーというのですよ。ディンギル様」
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