俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
114 / 317
第3章 南海冒険編

13.暗雲の報告

 街の大通りにある喫茶店の屋外テーブルで、俺とサクヤは顔を合わせて座った。
 通りを行く人々は物珍しそうにメイド姿の少女に目を向けてくるが、サクヤはそれを気にした様子もなく堂々と背筋を伸ばして座っている。

 愛想のいいウェイトレスがすぐに注文を取りに来てくれて、俺達の前にカットレモンをのせた果実水が並べられる。

「わざわざ面倒をかけたな。サクヤ」

「いいえ、構いません。ディンギル様のほうこそお疲れ様です」

 メイド服を着た少女・サクヤは俺が果実水を飲むのをしっかりと待って、ようやくグラスに口をつけた。
 井戸から汲んだばかり水で作られた果実水は程良く冷えていて、南国の太陽に熱された身体へと爽やかな酸味が染みわたっていく。
 サクヤがグラスの半分ほどを空けて一息ついたのを見計らい、俺は口を開いた。

「それで、マクスウェル家の様子はどうだった?」

 グレイスに捕まることになった俺はあえてサクヤとは別行動をとり、代わりにいくつかの調べ事を頼んでいた。そのうちの一つが、マクスウェル家の現状である。
 バアル帝国での騒動以来、故郷にはまだ帰っていない。
 戦後処理を含めて、東方辺境がどうなったのかは気になるところである。

「マクスウェル領にいる仲間に文を送って連絡を取りましたが、特に異常はないようです。戦後処理も順調に進んでいて、ディンギル様がいなくともやっていけそうです」

「・・・そうか。それは、よかったのか?」

 俺はやや複雑な気持ちで相槌を打つ。
 マクスウェル領が無事なのはもちろん喜ばしいことだが、自分抜きでも問題なくやっているというのは不必要な物として扱われているようで面白くなかった。

「まあ・・・親父も健在だし、優秀な部下と寄り子を持ったと思っておこう」

「ご当主様にもディンギル様が母君に誘拐・・・いえ、拉致・・・でなくて連行・・・でいいですね、もう。連行されたのを報告しましたが、『お母さんの言うことをよく聞くように』との伝言を預かっています」

「あの親父はやっぱり頭がおかしいな。どんな馴れ初めをしたら、あのクソババアをそんなに信頼できるんだよ。魂でも吸い取られてんじゃねえのか?」

 愚痴を吐き捨てて、口直しをするように果実水を一気飲みする。
 近くのウェイトレスに声をかけてお代わりを注文しつつ、続きの報告を聞く。

「次は南洋諸国の状況ですが・・・どうやら南の海では色々と不穏な事態が生じているようです」

「不穏、ねえ。あのクソババアが住処にしている時点で十分、不穏なんだけどな」

 運ばれてきた果実水のお代わりを一口、のどに流し込んで、俺は肩をすくめた。

「それなんですが、母君・・・グレイス様が率いている白鬼海賊団のほかに、別の海賊団が南海に台頭してきているようです」

「ほう? どんな海賊だ?」

「獅子王船団。獅子王国という海洋侵略国家の支援を受ける海賊一味です」

「獅子王・・・」

 俺はしばし記憶を探り、指先でこめかみを押す。

「聞いたことはあるけど・・・たしか、ずいぶんと昔にクソババアに負けて潰された海賊じゃなかったか?」

「はい、20年ほど前に白鬼海賊団との抗争により当時の首領が戦死。一味も壊滅状態となったようですが、首領の弟が跡を継いで細々と生き残っていたようです」

「その死にぞこないの幽霊海賊がいまさら復活したのか?」

 あの母親は敵に情けなどかけないだろう。獅子王船団は徹底的に潰されたはずである。
 それがよくもまあ、これまで生き残ってこれたものだ。

「そんなに新しい首領ってのは優秀なのか?」

「現・首領についての情報は入っていません。しかし、獅子王船団はここ数年で白鬼海賊団に属していない海賊を引き入れて、メキメキと力をつけています。最近では、いくつかの島国が彼らによって攻め滅ぼされてしまったとか」

「ふーん、なるほどな・・・話が読めてきたぞ」

 おそらく、俺が倒した蛇骨海賊団は獅子王船団傘下の海賊なのだろう。
 あのクソババアは俺のことを敵対勢力との抗争に利用するために、南の海まで引きずってきたのだ。

「ところで、ディンギル様。私のほうも聞きたいことがあるのですが?」

「ん、どうかしたか?」

「あちらの女性はいったい、ディンギル様の何なのでしょうか?」

 サクヤの視線の先には、子供達を引き連れて大通りの屋台を巡っているスーの姿があった。
 自由行動をさせている奴隷少女のそばには、引率として付いているゴードの部下の姿もあった。

「あいつは・・・・・・俺の奴隷だよ。期間限定だけどな」

「へえ・・・」

 サクヤは目を半眼にして、口をへの字に曲げた。
 何とも言えない微妙な表情を浮かべたメイドに、俺は首を傾げた。

「いまさらヤキモチか? 俺に何人、女がいると思ってんだよ」

「もちろん、ディンギル様の浮気性は理解しております。それでも知らないうちに女性を囲っているのは、ちょっとだけ腹が立ちます」

 わかったような、わからないような理屈である。

 責めるようなサクヤの視線に耐えかねて、俺は目を逸らしてスーのほうへと向けた。
 初めての港町にはしゃぎ回るスーは、俺があげたお小遣いでイカの丸焼きを買っている。
 口に入りきらないサイズのイカをネズミのようにチビチビと齧るスーの愛らしい姿に、俺はほんのりと心が和むのを感じた。

「・・・ところで、あの方はいつまでディンギル様に付いてくるのですか?」

「一応、あの娘を故郷に送り届けるまでの約束だ。ガーネット王国に行くまでだよ」

「ガーネット王国?」

 サクヤが目を見開いた。
 感情の乏しい顔つきに驚きの色が混じる。

「・・・ディンギル様、残念ながら、彼女をガーネット王国に送り届けるのは不可能です」

「・・・どういう意味だ?」

 真剣味のある目つきに変わったサクヤに、嫌な予感に襲われた。
 俺はグラスをテーブルにおいて、先を促した。

「ガーネット王国はすでに滅亡しています。先ほど話した、獅子王船団によって」
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!