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第3章 南海冒険編
19.船頭失くして船どこ進む
小舟から降りてきた海賊は一方的に要求を伝えて海に去っていった。
その要求をまとめると以下の3つになる。
1.ブルートスの町を獅子王国に無抵抗で引き渡すこと。
2.警備隊、傭兵は武装解除をすること。
3.13歳未満の美少年を10人、奴隷として引き渡すこと。
明日の正午までにこれらの要求を受け入れない場合、再び港に鉄の雨が降ることになるだろう。
嘘か真か、明日は倍の船団で攻めてくるそうだ。
「・・・最後の条件は何の冗談だよ」
「おそらく、獅子王船団の指揮を執っているのはあのバルトロ・ブラッドペインなのだろうな。あの男は男娼好きで知られている。特に、幼い少年を好んでいるとか」
「・・・ショタコンってやつか。気色悪りいなあ」
俺は唾とともに罵声を地面に吐き捨てて、鳥肌の立った腕を手の平で撫でる。
警備隊の隊長ランディも忌々しそうな表情で拳を握り締めている。
「それよりもこの要求を上に報告しなくていいのかよ。アンタがこの町の最高責任者ってわけじゃあないよな」
「うむ・・・王国から派遣された代官がいる。急いで指示を仰がなくては」
ランディは救助活動に励んでいる部下をそのままにして、町の中央に向けて駆けていく。
特に目的があるわけではないが、俺もその横へと並ぶ。
「俺も付いて行って構わないか? この町の領主とやらに興味がある」
「そうだな・・・」
ランディは地面を蹴る足を止めることなく、しばし考えこむ。
「ずいぶんと落ち着いている様子だが、君は熟練の傭兵か何かか?」
「・・・まあ、似たようなもんだ。戦場はそれなりに慣れちゃいる」
「そうか・・・いや、こちらこそ同行をお願いしたい。私は町の警備やならず者の捕縛には慣れているが、戦場に立った経験がないのだ。ぜひとも意見を伺いたい」
「承知した。報酬は高くつくけどな」
「うむ、代官殿に掛け合うと約束する」
俺達はそのまま並んで町を駆けていく。
港から離れるにつれて建物の被害は軽くなっているが、ケガ人を運ぶ者や物資をまとめて逃げる者などで大通りは溢れかえっている。
つい先ほどまでは人のエネルギーともいうべき活気で満ちていた町は、今は災害現場のような悲惨な有様に変わっていた。
10分ほど走っていくと、町の中央にある総督府へとたどり着いた。
門は開け放たれており、建物の中に入るとなぜか人の姿がなかった。
「人がいない・・・どうなっているのだ?」
「避難しているわけじゃあないよな。こんな所までは砲弾も届かないし」
ランディが眉をひそめて周囲を見回す。俺もまったく同じ感想である。
海賊・・・いや、獅子王国という敵国の侵略があったのだ、領主がいる総督府は守りが固められていて、兵士や文官が慌ただしく出入りしているのを予想していた。
しかし、実際に総督府の内部は人気がなく閑散としており、警備の兵士も仕えている文官も、使用人の姿さえなかった。
「そーとくふなら留守っぽいぜ?」
「誰だ!?」
総督府の奥から一人の男が現れた。ランディが腰の剣に手をかけて鋭く問い詰める。
「お前は・・・」
「やー、おにいさん。また会ったなー」
そこに立っていたのは、少し前に会った易者である。
占い師の男は両手をヒラヒラと振って、敵意がないことを警備隊長へとアピールする。
「怪しげな男だが・・・知り合いか?」
「知り合い・・・だな。それ以上でも以下でもないが」
「ひどいなー。俺様ちゃん達はようやく巡り合ったソウルメイトじゃないのさ。いわば兄弟みたいなものだろー?」
「占い師と客だろうが。いや、占ってもらった覚えもないから、本当に他人だな」
なぜか『兄弟』という言葉に引っかかるものを感じたが、俺は目の前の男の名前さえも知らない。他人以外の何物でもないだろう。
「総督府の人だったら、さっき揃って逃げちまったぜ? 兵士も使用人も・・・代官もな」
「なっ・・・」
ランディが驚いて目を剥き、呆然と立ちすくむ。
最高責任者が町と民を見捨てて真っ先に逃げ出したと聞けば、当然の反応だろう。
「おいおい。いくらなんでも見切りが早すぎるだろ。領主が領地を見捨てるなんてことがあるのかよ」
領主にとって領地というのはもう一つの肉体のようなものだ。
簡単に切り離せるようなものではないし、切り離せば地位も名誉も、生きていくための収入源だって失われる。
別に真面目な後継ぎではない俺だって、マクスウェル領を捨てるくらいなら領地とともに死ぬことを選ぶだろう。
「だから『領主』じゃなくて『代官』なんだよ」
俺の疑問に易者が答える。大げさに両手を広げて、やれやれと首を振る。
「そもそも、サファイア王国に『領主』という役職はないんだよ。この国の領土は全て国王のもの。町を任されているのは王国から派遣された代官だ」
代官は王家から町や村を任され、その見返りとして領民から税収を搾り取る。
代官の任期は5年ほどで、任期を終えた代官は中央に戻って別の役職に就くか、あるいは他の領地へと派遣されることになる。
代官と領民の関係は希薄なため、領民を率いて王家に反乱を起こされるということはほとんどない。
その代わりに代官のほうも領地に対する執着が薄く、戦争などの有事の際には命がけで戦うことなく逃げ出してしまう者も多いようだ。
「いくら自分の領地じゃないからって、国から任された土地を見捨てたら処分があるんじゃないのか?」
「この町の代官は財務卿の甥っ子らしいからなー。身内の権力でもみ消すんじゃね?」
どこの国にも、能力じゃなくて血筋で役職に就く奴はいるようだ。
交易都市の管理はさぞや儲かっただろうに、利益への見返りを払うことなく代官は消えてしまったようである。
海賊がそこまで計算したうえで襲撃をしたというのなら、なかなかの策士である。
「なるほどな・・・・・・ところで、えらく事情に詳しいようだけど、アンタはこの国の出身なのかよ」
「いやあ? おにいさんと同じ外国人だよ。占い師ってのは情報通じゃなきゃあ務まらないからニャー」
「情報は命ってわけか・・・それで、その占い師は総督府でいったい何してたんだ?」
「ニャー、俺達も町から逃げたいんだけど懐が寂しくてなー? 金目のものでも落ちてないかなーって思ったんだよ。金は領主が持って行ったみたいだけどな」
占い師ではなく火事場泥棒だった。
かなり聞き捨てならないことを言っているのだが、それを取り締まる警備隊長はいまだショックから立ち直れずに固まっている。
「海には外敵。船頭は消えて船の底は穴だらけ。どうしろっていうんだろうな」
その要求をまとめると以下の3つになる。
1.ブルートスの町を獅子王国に無抵抗で引き渡すこと。
2.警備隊、傭兵は武装解除をすること。
3.13歳未満の美少年を10人、奴隷として引き渡すこと。
明日の正午までにこれらの要求を受け入れない場合、再び港に鉄の雨が降ることになるだろう。
嘘か真か、明日は倍の船団で攻めてくるそうだ。
「・・・最後の条件は何の冗談だよ」
「おそらく、獅子王船団の指揮を執っているのはあのバルトロ・ブラッドペインなのだろうな。あの男は男娼好きで知られている。特に、幼い少年を好んでいるとか」
「・・・ショタコンってやつか。気色悪りいなあ」
俺は唾とともに罵声を地面に吐き捨てて、鳥肌の立った腕を手の平で撫でる。
警備隊の隊長ランディも忌々しそうな表情で拳を握り締めている。
「それよりもこの要求を上に報告しなくていいのかよ。アンタがこの町の最高責任者ってわけじゃあないよな」
「うむ・・・王国から派遣された代官がいる。急いで指示を仰がなくては」
ランディは救助活動に励んでいる部下をそのままにして、町の中央に向けて駆けていく。
特に目的があるわけではないが、俺もその横へと並ぶ。
「俺も付いて行って構わないか? この町の領主とやらに興味がある」
「そうだな・・・」
ランディは地面を蹴る足を止めることなく、しばし考えこむ。
「ずいぶんと落ち着いている様子だが、君は熟練の傭兵か何かか?」
「・・・まあ、似たようなもんだ。戦場はそれなりに慣れちゃいる」
「そうか・・・いや、こちらこそ同行をお願いしたい。私は町の警備やならず者の捕縛には慣れているが、戦場に立った経験がないのだ。ぜひとも意見を伺いたい」
「承知した。報酬は高くつくけどな」
「うむ、代官殿に掛け合うと約束する」
俺達はそのまま並んで町を駆けていく。
港から離れるにつれて建物の被害は軽くなっているが、ケガ人を運ぶ者や物資をまとめて逃げる者などで大通りは溢れかえっている。
つい先ほどまでは人のエネルギーともいうべき活気で満ちていた町は、今は災害現場のような悲惨な有様に変わっていた。
10分ほど走っていくと、町の中央にある総督府へとたどり着いた。
門は開け放たれており、建物の中に入るとなぜか人の姿がなかった。
「人がいない・・・どうなっているのだ?」
「避難しているわけじゃあないよな。こんな所までは砲弾も届かないし」
ランディが眉をひそめて周囲を見回す。俺もまったく同じ感想である。
海賊・・・いや、獅子王国という敵国の侵略があったのだ、領主がいる総督府は守りが固められていて、兵士や文官が慌ただしく出入りしているのを予想していた。
しかし、実際に総督府の内部は人気がなく閑散としており、警備の兵士も仕えている文官も、使用人の姿さえなかった。
「そーとくふなら留守っぽいぜ?」
「誰だ!?」
総督府の奥から一人の男が現れた。ランディが腰の剣に手をかけて鋭く問い詰める。
「お前は・・・」
「やー、おにいさん。また会ったなー」
そこに立っていたのは、少し前に会った易者である。
占い師の男は両手をヒラヒラと振って、敵意がないことを警備隊長へとアピールする。
「怪しげな男だが・・・知り合いか?」
「知り合い・・・だな。それ以上でも以下でもないが」
「ひどいなー。俺様ちゃん達はようやく巡り合ったソウルメイトじゃないのさ。いわば兄弟みたいなものだろー?」
「占い師と客だろうが。いや、占ってもらった覚えもないから、本当に他人だな」
なぜか『兄弟』という言葉に引っかかるものを感じたが、俺は目の前の男の名前さえも知らない。他人以外の何物でもないだろう。
「総督府の人だったら、さっき揃って逃げちまったぜ? 兵士も使用人も・・・代官もな」
「なっ・・・」
ランディが驚いて目を剥き、呆然と立ちすくむ。
最高責任者が町と民を見捨てて真っ先に逃げ出したと聞けば、当然の反応だろう。
「おいおい。いくらなんでも見切りが早すぎるだろ。領主が領地を見捨てるなんてことがあるのかよ」
領主にとって領地というのはもう一つの肉体のようなものだ。
簡単に切り離せるようなものではないし、切り離せば地位も名誉も、生きていくための収入源だって失われる。
別に真面目な後継ぎではない俺だって、マクスウェル領を捨てるくらいなら領地とともに死ぬことを選ぶだろう。
「だから『領主』じゃなくて『代官』なんだよ」
俺の疑問に易者が答える。大げさに両手を広げて、やれやれと首を振る。
「そもそも、サファイア王国に『領主』という役職はないんだよ。この国の領土は全て国王のもの。町を任されているのは王国から派遣された代官だ」
代官は王家から町や村を任され、その見返りとして領民から税収を搾り取る。
代官の任期は5年ほどで、任期を終えた代官は中央に戻って別の役職に就くか、あるいは他の領地へと派遣されることになる。
代官と領民の関係は希薄なため、領民を率いて王家に反乱を起こされるということはほとんどない。
その代わりに代官のほうも領地に対する執着が薄く、戦争などの有事の際には命がけで戦うことなく逃げ出してしまう者も多いようだ。
「いくら自分の領地じゃないからって、国から任された土地を見捨てたら処分があるんじゃないのか?」
「この町の代官は財務卿の甥っ子らしいからなー。身内の権力でもみ消すんじゃね?」
どこの国にも、能力じゃなくて血筋で役職に就く奴はいるようだ。
交易都市の管理はさぞや儲かっただろうに、利益への見返りを払うことなく代官は消えてしまったようである。
海賊がそこまで計算したうえで襲撃をしたというのなら、なかなかの策士である。
「なるほどな・・・・・・ところで、えらく事情に詳しいようだけど、アンタはこの国の出身なのかよ」
「いやあ? おにいさんと同じ外国人だよ。占い師ってのは情報通じゃなきゃあ務まらないからニャー」
「情報は命ってわけか・・・それで、その占い師は総督府でいったい何してたんだ?」
「ニャー、俺達も町から逃げたいんだけど懐が寂しくてなー? 金目のものでも落ちてないかなーって思ったんだよ。金は領主が持って行ったみたいだけどな」
占い師ではなく火事場泥棒だった。
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