147 / 317
第3章 南海冒険編
46.討ち入り直前、林の五人
そして、明くる日の夜。
俺達はドレークが暮らしている宮殿近くの林へと足を踏み入れた。
ぶ厚い雲に覆われた夜空には月明かりも星の瞬きも見ることはできず、夜襲にはうってつけの天気であった。
「それはいいんだが・・・何でお前らまでついて来たんだ?」
事前に宰相ラウロスから指定されていた集合場所にたどり着いた俺とサクヤ。
その背後には、戦闘要員でもないのについて来たスーとロウ、さらにシャオマオの姿があった。
「あ、私は宮殿の案内をしようと思いまして」
控えめに手を挙げて主張したのはスーである。
青みがかった黒髪を背中にまとめて結んだ彼女は、サクヤとお揃いのメイド服の上に黒いコートを羽織っている。
「修道院に入る前、父と一緒に何度か宮殿に入ったことがあります。道案内くらいはできると思いますよ」
「なるほど、それは助かるんだが・・・お前らは何しに来たんだよ」
俺がジロリと視線を向けると、ロウは飄々とした態度で両手を広げる。
「金目の物があるかと思ってついてきました! 反省はしていません!」
「よし、帰れ。もしくはここで斬り捨ててやる。林だから埋める場所には困らんだろ」
俺が剣の柄に手をかけると、シャオマオが割って入ってきた。
「違うゾ。スロウスは馬鹿で夢遊病で変態だカラ、フラフラと迷い込んできただけだゾ! 決して、宮殿の宝物庫に用があるワケじゃないゾ!」
「うん、ほぼ自白してるねー。っていうか、俺様ちゃん、めちゃくちゃ言われてんじゃん!」
「・・・もう勝手にしろ。さて、そろそろ約束の時間なんだが」
事前の話し合いでは、この林で他の殺し屋と合流して宮殿に忍び込むことになっていた。
俺が林の中を見まわすと、太い木の背後から執事服を着た老人が現れた。
「お待ちしておりました。ディンギル様」
「ああ、他の連中はどうした?」
あの密会に現れた殺し屋の中には、依頼を断って出ていく者もいた。
しかし、ジャック・ザ・ボマーを名乗る男を始め、俺の他にも何人かが依頼を受けていたはずなのだが。
「えー・・・そのことなんですが・・・」
「どうした、アクシデントでもあったのかよ?」
老人は言いづらそうに口ごもる。
俺が眼力を強めて睨むようにすると、申し訳なさそうに口を開いた。
「他の皆様は、先に宮殿に入られました」
「はあ? まだ集合時間には早いだろ?」
俺がいぶかしげに聞くと、老人は困ったように溜息をつく。
「少し前にディンギル様以外の方々がそろったのですが、急にジャック様が『ドレークを討ち取った奴が報酬を総取りしよう』などと提案をいたしまして・・・」
「・・・話が読めてきましたね。どうやら我々は出し抜かれたようです」
サクヤが不快そうに唇を尖らせた。
老人は慌てて手を振って、言い訳を口にする。
「もちろん、私は止めたのですが・・・他の皆様もジャック様に賛同してしまいまして、争うようにして宮殿に入ってしまいまして・・・」
「ああ、アンタのせいじゃないから心配するな。裏社会の連中に約束がどうのとか主張したって無駄なことだからな」
俺は鬱陶しそうに首を振りつつ、宮殿がある方角へと目を向ける。
「別に報酬はいらないんだが・・・さて、どうするかね」
「もちろん、ディンギル様の報酬は他の方々とは別とさせていただきます。ここで依頼を断っていただいても、前金を返せとは申しません」
「そんなことはどうでもいいんだけどな・・・まあ、あいつ等がどうなろうと自己責任ってことにしておくか」
不思議なことに、ドレークという男が他の殺し屋に斃されてしまったとは思えなかった。
返り討ちにされているジャック達の姿が思い浮かび、俺はやれやれと肩をすくめた。
「俺達のやることは変わらない。さっさと宮殿に入るとしよう」
「門番には手を回していますから問題なく通ることができます。ドレークは玉座の間にいるはずです」
「玉座? 寝室じゃなくてか」
俺が尋ねると、老人は頷いた。
「なぜかあの男は一日中、玉座の間にいるのですよ。暗殺者を警戒しているのか、横になっているのを見たことがありません」
「へえ、そいつは暗殺のターゲットとしては一番、面倒臭いタイプだな。俺は隠密行動が苦手だからどっちでもいいんだが」
「そうですか。それでは案内を・・・」
「あ、それは私がやりますから、いいですよ」
スーがにっこりと笑って、老人の言葉を遮った。
「玉座の間でしたら何度か入ったことがあります! やっとご主人様のお役に立てますね!」
「貴女は・・・!」
老人が目を見開き、なぜか食い入るようにしてスーの顔を見つめる。
「人の女をまじまじ見てんじゃねえよ。男の視線で汚れたらどうしてくれる」
「で、ディンギル様の女、ですか・・・?」
俺がスーの前に割って入ると、老人は顔をひきつらせた。
その反応を不審に感じて振り返るが、スーもきょとんとした顔で小首を傾けている。
「ええと、どこかでお会いしましたっけ? 見覚えがあるような、ないような・・・?」
「い、いえ・・・そんなはずは、ええと・・・」
老人はあたふたと慌てたような反応を見せた後、気を取り直したようにコホンと咳払いをした。
「そ、そういうことでしたら案内は要りませんね。どうぞ皆様、お気をつけて」
「ああ」
俺は短く答えて、一行を率いて宮殿へと足を向ける。
老人が俺達の背中を。特にスーのことを見つめている気配がしたが、振り返ることなく宮殿の裏口へと小走りで駆けて行った。
俺達はドレークが暮らしている宮殿近くの林へと足を踏み入れた。
ぶ厚い雲に覆われた夜空には月明かりも星の瞬きも見ることはできず、夜襲にはうってつけの天気であった。
「それはいいんだが・・・何でお前らまでついて来たんだ?」
事前に宰相ラウロスから指定されていた集合場所にたどり着いた俺とサクヤ。
その背後には、戦闘要員でもないのについて来たスーとロウ、さらにシャオマオの姿があった。
「あ、私は宮殿の案内をしようと思いまして」
控えめに手を挙げて主張したのはスーである。
青みがかった黒髪を背中にまとめて結んだ彼女は、サクヤとお揃いのメイド服の上に黒いコートを羽織っている。
「修道院に入る前、父と一緒に何度か宮殿に入ったことがあります。道案内くらいはできると思いますよ」
「なるほど、それは助かるんだが・・・お前らは何しに来たんだよ」
俺がジロリと視線を向けると、ロウは飄々とした態度で両手を広げる。
「金目の物があるかと思ってついてきました! 反省はしていません!」
「よし、帰れ。もしくはここで斬り捨ててやる。林だから埋める場所には困らんだろ」
俺が剣の柄に手をかけると、シャオマオが割って入ってきた。
「違うゾ。スロウスは馬鹿で夢遊病で変態だカラ、フラフラと迷い込んできただけだゾ! 決して、宮殿の宝物庫に用があるワケじゃないゾ!」
「うん、ほぼ自白してるねー。っていうか、俺様ちゃん、めちゃくちゃ言われてんじゃん!」
「・・・もう勝手にしろ。さて、そろそろ約束の時間なんだが」
事前の話し合いでは、この林で他の殺し屋と合流して宮殿に忍び込むことになっていた。
俺が林の中を見まわすと、太い木の背後から執事服を着た老人が現れた。
「お待ちしておりました。ディンギル様」
「ああ、他の連中はどうした?」
あの密会に現れた殺し屋の中には、依頼を断って出ていく者もいた。
しかし、ジャック・ザ・ボマーを名乗る男を始め、俺の他にも何人かが依頼を受けていたはずなのだが。
「えー・・・そのことなんですが・・・」
「どうした、アクシデントでもあったのかよ?」
老人は言いづらそうに口ごもる。
俺が眼力を強めて睨むようにすると、申し訳なさそうに口を開いた。
「他の皆様は、先に宮殿に入られました」
「はあ? まだ集合時間には早いだろ?」
俺がいぶかしげに聞くと、老人は困ったように溜息をつく。
「少し前にディンギル様以外の方々がそろったのですが、急にジャック様が『ドレークを討ち取った奴が報酬を総取りしよう』などと提案をいたしまして・・・」
「・・・話が読めてきましたね。どうやら我々は出し抜かれたようです」
サクヤが不快そうに唇を尖らせた。
老人は慌てて手を振って、言い訳を口にする。
「もちろん、私は止めたのですが・・・他の皆様もジャック様に賛同してしまいまして、争うようにして宮殿に入ってしまいまして・・・」
「ああ、アンタのせいじゃないから心配するな。裏社会の連中に約束がどうのとか主張したって無駄なことだからな」
俺は鬱陶しそうに首を振りつつ、宮殿がある方角へと目を向ける。
「別に報酬はいらないんだが・・・さて、どうするかね」
「もちろん、ディンギル様の報酬は他の方々とは別とさせていただきます。ここで依頼を断っていただいても、前金を返せとは申しません」
「そんなことはどうでもいいんだけどな・・・まあ、あいつ等がどうなろうと自己責任ってことにしておくか」
不思議なことに、ドレークという男が他の殺し屋に斃されてしまったとは思えなかった。
返り討ちにされているジャック達の姿が思い浮かび、俺はやれやれと肩をすくめた。
「俺達のやることは変わらない。さっさと宮殿に入るとしよう」
「門番には手を回していますから問題なく通ることができます。ドレークは玉座の間にいるはずです」
「玉座? 寝室じゃなくてか」
俺が尋ねると、老人は頷いた。
「なぜかあの男は一日中、玉座の間にいるのですよ。暗殺者を警戒しているのか、横になっているのを見たことがありません」
「へえ、そいつは暗殺のターゲットとしては一番、面倒臭いタイプだな。俺は隠密行動が苦手だからどっちでもいいんだが」
「そうですか。それでは案内を・・・」
「あ、それは私がやりますから、いいですよ」
スーがにっこりと笑って、老人の言葉を遮った。
「玉座の間でしたら何度か入ったことがあります! やっとご主人様のお役に立てますね!」
「貴女は・・・!」
老人が目を見開き、なぜか食い入るようにしてスーの顔を見つめる。
「人の女をまじまじ見てんじゃねえよ。男の視線で汚れたらどうしてくれる」
「で、ディンギル様の女、ですか・・・?」
俺がスーの前に割って入ると、老人は顔をひきつらせた。
その反応を不審に感じて振り返るが、スーもきょとんとした顔で小首を傾けている。
「ええと、どこかでお会いしましたっけ? 見覚えがあるような、ないような・・・?」
「い、いえ・・・そんなはずは、ええと・・・」
老人はあたふたと慌てたような反応を見せた後、気を取り直したようにコホンと咳払いをした。
「そ、そういうことでしたら案内は要りませんね。どうぞ皆様、お気をつけて」
「ああ」
俺は短く答えて、一行を率いて宮殿へと足を向ける。
老人が俺達の背中を。特にスーのことを見つめている気配がしたが、振り返ることなく宮殿の裏口へと小走りで駆けて行った。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!