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第3章 南海冒険編

48.不死身の男と、運命の出会い

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「女を殺すのはベッドの中だけで十分だぜ。痛めつけて楽しむなんてゲスのすることだ」

「ははっ、手厳しいじゃないか」

 たしかに胸の中心を貫いたはずだったが、ドレークは何事もなかったかのようにナイフを引き抜いた。
 出血もすぐに止まり、傷は跡形もなく消えてしまった。

「回復能力がある魔具の効力・・・いや、違うな」

 その傷の治り方は俺がよく知るもの。子供の頃から、嫌というほど見てきたもの酷似していた。

「どうりで親近感があるわけだぜ。あのクソババアと同じ存在が他にもいるとか悪い夢だな」

「ほう、驚かないのか。これを見たら大抵の者は目を丸くするのだがな」

 ドレークは心なしか残念そうに肩をすくめて、ナイフを投げ捨てた。
 死体に突き刺していた剣を引き抜き、切っ先をまっすぐ俺に向ける。

「サクヤ。スー。わかってるな?」

「はい、援護します。背中を気にせず存分に戦ってください」

「邪魔にならないように隠れています・・・ご主人様、どうかお気をつけて」

 サクヤが毒針を両手に持ち、スーはパタパタと足音を立てて柱の陰に隠れる。
 俺は腰から【無敵鉄鋼ジークフリート】を抜いた。腕にはすでに【豪腕英傑ヘラクレス】が嵌められており、銀色の光が激しく明滅している。

「お前の永遠とやらをここで終わらせてやろう。感謝しながら死ね」

「ははっ! やってみろよ、若造め!」

 俺は一足でドレークの間合いへと踏み込み、横なぎに剣を振るった。
 必殺といってよい速度で放たれた斬撃であったが、ドレークは剣の腹で弾き飛ばす。

「良い一撃だ。若いのによく鍛錬しているじゃないか!」

「ふっ!」

 ドレークの称賛を無視して、立て続けに剣を振り続ける。
 上。下。右。左。
 上と見せかけて下。右と見せかけて左。
 十重、二十重とフェイントも交えて斬撃を放つが、ドレークは涼しい顔で防ぎ続けている。

「ニ十歳かそこらでそれだけの高みにたどり着くとは、見事なものだ。ここで摘むのが惜しくなる才能だ」

「そうかい! サクヤ!」

「失礼いたします」

「むっ!?」

 攻撃を続ける俺の背後から、影をすり抜けるようにして毒針が飛ばされた。俺の背中を壁に隠れるように接近していた、サクヤの援護射撃である。

「小賢しい!」

 眼球めがけて放たれた二本の毒針をドレークは軽く首を振る動きだけで回避する。
 最小限の動きでの回避であったが、そこでわずかに隙が生まれた。

「はあっ!」

「ぬおっ!?」

 胴体を真っ二つに切り裂くように剣を振る。
 しかし、ドレークが恐るべき反射速度で防御して、剣先はわずかに腕を切って血の線をつけただけにとどまった。

「やるじゃないか。さっきの雑魚どもよりは楽しませてくれる!」

「ちっ・・・仕留めそこなったか」

「そんなに落ち込むことはない。私でなければ終わっていた・・・む?」

 愉快そうに笑っていたドレークであったが、笑い顔を引っ込めて怪訝そうに顔を歪める。
 ドレークの視線は切り裂かれた腕に向けられていて、前腕に沿うようにつけられた傷口からは血が流れ続けていた。
 先ほどナイフでつけられた傷口と違い、腕に刻まれた傷に治る気配はない。

「腕が治癒しない、だと・・・・・・まさか!?」

 ドレークは驚愕に目を見開いて俺の手に握られた剣を見る。

「堕ちたる神を殺すために鍛えられた呪われた魔剣、【無敵鉄鋼】! まさか、お前はその剣に選ばれたのか!」

 ドレークの顔が驚愕から歓喜、そして狂ったような哄笑へと切り替わる。

「はははは、あははははははハハッ! いいぞ! 最高じゃないか! 千年の時を越えて、敵として我が前に舞い戻ったのか! 私を殺すことが出来る唯一にして至高なる愛剣よ!」

「なにを・・・」

「お前か! お前が俺の運命か! ああ、よくぞ来てくれた! 我が運命、天より落とされし神罰、愛しい愛しい死神よ! お前が来てくれるのを、千年も待ったぞ!」

「・・・・・・っ!」

 剣を手放し、両手で腹を抱えて笑い続けるドレークは隙だらけである。
 しかし、その総身から放たれる凶暴なまでの狂喜と殺気が、踏み込むことを拒んでしまう。

「ああ、困ったなあ! こんなに嬉しいのは何百年ぶりだろうなあ! この気持ち、この愛はどうやったらお前に伝わる!?」

「気持ち悪りいんだよ!」

「ははははっ!」

 必死に恐怖を振り払い、俺は接近してくるドレークに斬撃を放つ。
 わずかに腰が引けた攻撃は、あっさりとドレークの手で受け止められてしまった。

「そんなに焦るじゃねえ! 待ちに待った死神との邂逅だ、もっと楽しませろよお!」

「ぐっ!」

「ディンギル様!」

 ドレークの蹴りが胴体に叩きこまれる。後方に自分から飛んで勢いを殺しつつ、空中で体勢を立て直した。
 着地した俺の隣にサクヤが駆け寄ってきた。軽く腕を振って無事を伝えて、改めて剣を構える。

「相手の気に呑まれちまったか・・・俺としたことが、情けない」

「相手の気配が変わりました。お気をつけください!」

「ああ、わかってる」

 先ほどまでのドレークにはどこか遊んでいるような空気があったが、今はそれが消えている。日焼けした逞しい身体は目に見えてわかるほどの闘気に覆われていた。
 理由は全くわからないが、俺のことを対等な敵と認めたようである。

「さあ、始めようか。ここからは殺すか殺されるかの死合いだ! お前が俺を殺せる器なのか、試させてくれよ!」

「・・・いいだろう。その頃には、お前の首は胴体と永遠にお別れしてるだろうけどな!」

「ははははっ! その意気だ!」

 ドレークは懐に手を入れて、紐のついたロケットを取り出した。
 赤茶けた銅のような金属で作られたロケットの蓋を開けて、床に叩きつける。

「これは【紅瓢封魔キンカクギンカク】という魔具だ。生き物を中に閉じ込めておく、それだけの力しかない玩具だが・・・・・・お前の力を測らせてもらうぞ、我が愛しい運命よ!」

 転がったロケットから赤い煙が噴き出し、中から黒い獣が姿を現わした。
 獅子の倍ほどの巨体の黒犬は、赤い瞳でぎょろりとこちらを見据えて、後ろ足で床を蹴って飛びかかってきた。
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