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第3章 南海冒険編
53.漆黒の彼女
かつては薄汚れたボロを着ていたスーであったが、今は貴族令嬢のような美しいドレスに身を包んでいる。
いや、「ような」というのは正確ではないだろう。
彼女は正真正銘、ガーネット王国の良家に生まれた貴族令嬢なのだから。
「綺麗だ、とか言いたいところなんだが・・・まだその格好には見慣れねえな。メイド服のほうが似合ってたんじゃないか?」
「私もそう思います。ドレスなんて修道院に入ってから着てませんから」
恥ずかしそうに頬を染めながら、スーはドレスの裾を両手でつまんだ。
薄々、そうではないと思っていたのだが・・・スーはこの国の宰相であるサミュエル・ラウロスの娘であった。
ラウロスは修道院に入れた娘がドレークによって殺害されたものだと信じていたようだが、実際はその直前で奴隷商人に売り飛ばされて異国行きの船へと乗せられていた。
彼女が奴隷船に乗せられたのが何者かの陰謀であるのか、不幸な偶然の産物であるのか、修道院の関係者が全滅した今となっては確かめるすべはない。
しかし、ラウロスは死んだと思っていた娘の生存を知って大いに喜び、涙を流して感謝の言葉を繰り返した。
「あ、コーヒーですね。飲まないんですか?」
スーは俺の飲み残しのティーカップを見て首を傾げた。
「あー・・・ちょっと、口に合わなくてな?」
「そうなんですか? じゃあ、飲んじゃいますね」
スーはティーカップを手に取り、コクコクと喉を鳴らして黒い液体を飲んでいく。
「・・・なあ、スー。そのお茶、豆からできてるんだってよ。固い豆から」
「え? そうですね。コーヒーですから」
「・・・・・・知ってるならいいけどな」
なんとなく口をへの字に曲げて、俺は美味しそうに謎のお茶を楽しむスーを見つめた。
ティーカップが空になったタイミングを見計らい、俺はゴホンと咳払いをした。
「それで・・・そろそろ答えは出たのか? この国に残って宰相の娘に戻るのか、俺達についてきてこのまま奴隷を続けるのか」
俺は対面の椅子に腰かけたスーに、ゆっくりとした口調で問いかけた。
戦いを終えたはずの俺達がいまだこの国にとどまり続けているのは、スーが答えを出すのを待っていたからである。
娘の生存を知ったラウロスは、再会した娘の身体を抱きしめ、修道院に入れたことを涙ながらに謝罪した。
そして、再び家に帰ってきて自分の娘に戻って欲しいと願い出てきたのだ。
一度は手放しておいて虫の良い話に聞こえるが・・・これはスーにとって悪い話ではなかった。
スーの帰るべき場所である修道院はすでに廃墟となっているし、父親であるラウロス以外に頼れるものはいない。
この国に送り届けるまで奴隷になるという約束もすでに果たされているため、どう考えても貴族令嬢に戻ることが賢い選択といえるだろう。
「はい・・・そのことなのですが・・・」
スーは真剣な表情で頷いて、重々しく口を開いた。
隣ではティーポットを手に持ったままのサクヤも、スーの言葉をじっと聞いている。
「私は、これから・・・」
「おおっ! 待たせたなあ、お前達い!」
バン、と大きな音が鳴って一人の女が部屋に飛び込んできた。
ちなみに、彼女が入ってきたのは扉でも窓でもなく、部屋の壁を砕き壊して開いた穴である。
「ドレークを取り逃がしたそうだなあ! なあにをやっていやがる、この馬鹿息子があ!」
「がっ、てめえっ・・・! クソババア!」
部屋に飛び込んできたのは我が敬愛すべきクソババア、グレイス・D・O・マクスウェルであった。
グレイスはなぜか未亡人のような漆黒のドレスを着ており、部屋に入るや俺の頭に拳骨を落として乱暴な口調で怒鳴り散らした。
「クソババアじゃないぞお! ママンと呼べよお!」
「気持ち悪いんだよ! てめえがママンなんてキャラか! 全部、戦いが終わった後でいまさら何しに来やがった!」
「終わったああああ!? なあにを寝ぼけたことを言ってやがるうっ!?」
グレイスは尖った八重歯を剥き出しにして、高々と言い放つ。
「ぼさっとしてないでアトランティスに行くぞおおっ! あの男は必ずそこにいるんだからなあああっ!!」
いや、「ような」というのは正確ではないだろう。
彼女は正真正銘、ガーネット王国の良家に生まれた貴族令嬢なのだから。
「綺麗だ、とか言いたいところなんだが・・・まだその格好には見慣れねえな。メイド服のほうが似合ってたんじゃないか?」
「私もそう思います。ドレスなんて修道院に入ってから着てませんから」
恥ずかしそうに頬を染めながら、スーはドレスの裾を両手でつまんだ。
薄々、そうではないと思っていたのだが・・・スーはこの国の宰相であるサミュエル・ラウロスの娘であった。
ラウロスは修道院に入れた娘がドレークによって殺害されたものだと信じていたようだが、実際はその直前で奴隷商人に売り飛ばされて異国行きの船へと乗せられていた。
彼女が奴隷船に乗せられたのが何者かの陰謀であるのか、不幸な偶然の産物であるのか、修道院の関係者が全滅した今となっては確かめるすべはない。
しかし、ラウロスは死んだと思っていた娘の生存を知って大いに喜び、涙を流して感謝の言葉を繰り返した。
「あ、コーヒーですね。飲まないんですか?」
スーは俺の飲み残しのティーカップを見て首を傾げた。
「あー・・・ちょっと、口に合わなくてな?」
「そうなんですか? じゃあ、飲んじゃいますね」
スーはティーカップを手に取り、コクコクと喉を鳴らして黒い液体を飲んでいく。
「・・・なあ、スー。そのお茶、豆からできてるんだってよ。固い豆から」
「え? そうですね。コーヒーですから」
「・・・・・・知ってるならいいけどな」
なんとなく口をへの字に曲げて、俺は美味しそうに謎のお茶を楽しむスーを見つめた。
ティーカップが空になったタイミングを見計らい、俺はゴホンと咳払いをした。
「それで・・・そろそろ答えは出たのか? この国に残って宰相の娘に戻るのか、俺達についてきてこのまま奴隷を続けるのか」
俺は対面の椅子に腰かけたスーに、ゆっくりとした口調で問いかけた。
戦いを終えたはずの俺達がいまだこの国にとどまり続けているのは、スーが答えを出すのを待っていたからである。
娘の生存を知ったラウロスは、再会した娘の身体を抱きしめ、修道院に入れたことを涙ながらに謝罪した。
そして、再び家に帰ってきて自分の娘に戻って欲しいと願い出てきたのだ。
一度は手放しておいて虫の良い話に聞こえるが・・・これはスーにとって悪い話ではなかった。
スーの帰るべき場所である修道院はすでに廃墟となっているし、父親であるラウロス以外に頼れるものはいない。
この国に送り届けるまで奴隷になるという約束もすでに果たされているため、どう考えても貴族令嬢に戻ることが賢い選択といえるだろう。
「はい・・・そのことなのですが・・・」
スーは真剣な表情で頷いて、重々しく口を開いた。
隣ではティーポットを手に持ったままのサクヤも、スーの言葉をじっと聞いている。
「私は、これから・・・」
「おおっ! 待たせたなあ、お前達い!」
バン、と大きな音が鳴って一人の女が部屋に飛び込んできた。
ちなみに、彼女が入ってきたのは扉でも窓でもなく、部屋の壁を砕き壊して開いた穴である。
「ドレークを取り逃がしたそうだなあ! なあにをやっていやがる、この馬鹿息子があ!」
「がっ、てめえっ・・・! クソババア!」
部屋に飛び込んできたのは我が敬愛すべきクソババア、グレイス・D・O・マクスウェルであった。
グレイスはなぜか未亡人のような漆黒のドレスを着ており、部屋に入るや俺の頭に拳骨を落として乱暴な口調で怒鳴り散らした。
「クソババアじゃないぞお! ママンと呼べよお!」
「気持ち悪いんだよ! てめえがママンなんてキャラか! 全部、戦いが終わった後でいまさら何しに来やがった!」
「終わったああああ!? なあにを寝ぼけたことを言ってやがるうっ!?」
グレイスは尖った八重歯を剥き出しにして、高々と言い放つ。
「ぼさっとしてないでアトランティスに行くぞおおっ! あの男は必ずそこにいるんだからなあああっ!!」
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