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第3章 南海冒険編
54.さらばガーネット王国
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「放せえええええええっ! 放しやがれ、このクソババア!」
「ガハハハハハハハッ! 楽しいなあっ! 息子と楽しいピクニックだあ!」
「これのどこがピクニックだ! さっきから尻が地面に擦れてんだよ!」
俺はグレイスに首根っこをつかまれて、港に向かって強引に引きずられていた。
ズボンの尻部分が地面にこすりつけられて激しい摩擦熱を発生させる。このままではズボンが破れて、今度は尻が焼け焦げてしまう。
俺は必死に両足を動かして、身体をのけぞらせた無理な姿勢で後ろ走りをする。
「ディンギル様!」
「ご主人様~、待ってください~~!」
メイド服を翻して走るサクヤと、ガルムの背中にまたがったスーが追いすがってくる。
さらに、二人の後方には騒ぎを聞きつけた王宮の騎士団までもが続いていた。
「待てえええええっ! この曲者があああああっ!」
「スーレイナ様を返せ! この誘拐犯めが!」
『スーレイナ』とはスーの本名である。
スーという愛称は修道院に入った際に名づけられた洗礼名らしい。
「すげえ大ごとになってないか!? 宰相令嬢を誘拐したことになってるぞ!?」
「うむ、海賊と国家権力は相容れないということだなあ! 救国の英雄に対して冷たいもんだあ!」
「ほとんどテメエのせいだろうが!」
俺はギャアギャアとグレイスに喚きながら、何とか首をつかむ手を振り払う。
そのままクルリと身体を回転させて姿勢を立て直し、グレイスの後ろを駆けだした。
「ああ、ちくしょう! 結局、こうなるのかよ! 本当にクソババアと関わるとロクなことがねえ!」
「ガハハハッ! 恨むのならば自分の運命を恨めよお! あらゆる闘争に巻き込まれるのはその剣を持った者の宿命だ! ドレークの奴だってそうだったからなあ!」
「ああっ!? テメエ、いま何て言いやがった!?」
聞き捨てのならないセリフを吐かれた気がして聞き返すが、グレイスはそれ以上は説明する気がないようだ。
俺の言葉を無視して、漆黒のドレスの裾をなびかせてさらに速度を上げていった。
「チッ・・・後で説明してもらうからな!」
俺は唾とともに吐き捨てるように言って、強く地面を蹴り出した。
港に到着する頃には、俺達を追いかけてくる兵士は100人以上にまで増えていた。
ちょっとした一個中隊を引き連れながら、自分達が乗るべき船を探す。
「おーい。こっちだぞー」
港の奥にある大型船のデッキから、ロウがぶんぶんと手を振っていた。
隣にはシャオマオも乗っていて、棒のついたアメのような菓子をしゃぶっている。
「お前らも乗ってやがったのか! えらく準備がいいじゃねえか!」
「俺様ちゃんを誰だと思ってんのさ。南海一の占い師、ロウ様だぜ? こんなこともあろうかと出港準備を済ましてたぜい」
「でかした! すぐに出港する!」
「おう、船を出すゾ!」
「おおっ!」
シャオマオが奥歯でアメを噛み砕き、かけ声を発する。指示を受けた船乗り達は帆を広げて、碇を海から引き上げる。
俺達が船に飛び乗ると同時に、大型船が港から離れる。
「ああ! スーレイナ様が!」
「船を出せ! 海賊共を逃がすなぎゃあっ!」
「ガハハハッ! お前らごときが、私達を捕まえられると思うなよお!」
グレイスが船に積んであった薪をつかんで港の兵士に投擲する。
たかが木片とはいえ、投げているのは我らが狂母だ。
音速に近い速さで投げられた薪は数人の兵士を吹き飛ばし、見る見るうちに港は阿鼻叫喚の地獄と化した。
「・・・やってることが獅子王船団の奴らと変わらねえな」
「まあ・・・どちらも海賊ですから」
俺の呆れかえった言葉に、サクヤがぽんぽんと俺の背中を叩きながら返した。
「みんな揃ってますねー? 迷子になった子はいませんねー?」
「ガウッ!」
「ギャンッ!」
デッキの中央では、スーが船に乗り込んできた魔物を相手に点呼をとっていた。
ガルムに大猿、怪鳥、大蛇・・・それぞれクロ、シロ、アカ、アオとまるで工夫のない名前を付けられた怪物達だ。
屈強な船乗りがビビった視線を向けてくるのを尻目に、スーは怪物の口に干し肉を放り込んでいる。
「よーし、忘れ物はないなー?」
「オウ、王宮からパクってきた財宝もちゃんとあるゾ!」
「上出来、上出来、大儲けだにゃー!」
船の隅では、ロウとシャオマオが顔を合わせて金勘定をしていた。
二人の手の中には金貨やら宝石やら、一般庶民が一生かけても手にすることが出来ないような財宝が握られている。
「こいつら・・・さては逃げる途中だったな」
わざわざ船を出す準備をしていたのは、財宝を持ち逃げするためだったようだ。
ひょっとしたら、港まで追いかけてきた兵士の中には財宝の持ち逃げに気づいて盗人を捕まえようとしている兵士もいたのかもしれない。
「よーし、行くぞお! 我が生まれ故郷、アトランティスへ!」
グレイスが船のマストの上に立ち、前方を指さして高々と宣言した。
こうして、俺達を乗せた船はガーネット王国を後にし、決戦の地・アトランティスへと向かって行ったのであった。
「ガハハハハハハハッ! 楽しいなあっ! 息子と楽しいピクニックだあ!」
「これのどこがピクニックだ! さっきから尻が地面に擦れてんだよ!」
俺はグレイスに首根っこをつかまれて、港に向かって強引に引きずられていた。
ズボンの尻部分が地面にこすりつけられて激しい摩擦熱を発生させる。このままではズボンが破れて、今度は尻が焼け焦げてしまう。
俺は必死に両足を動かして、身体をのけぞらせた無理な姿勢で後ろ走りをする。
「ディンギル様!」
「ご主人様~、待ってください~~!」
メイド服を翻して走るサクヤと、ガルムの背中にまたがったスーが追いすがってくる。
さらに、二人の後方には騒ぎを聞きつけた王宮の騎士団までもが続いていた。
「待てえええええっ! この曲者があああああっ!」
「スーレイナ様を返せ! この誘拐犯めが!」
『スーレイナ』とはスーの本名である。
スーという愛称は修道院に入った際に名づけられた洗礼名らしい。
「すげえ大ごとになってないか!? 宰相令嬢を誘拐したことになってるぞ!?」
「うむ、海賊と国家権力は相容れないということだなあ! 救国の英雄に対して冷たいもんだあ!」
「ほとんどテメエのせいだろうが!」
俺はギャアギャアとグレイスに喚きながら、何とか首をつかむ手を振り払う。
そのままクルリと身体を回転させて姿勢を立て直し、グレイスの後ろを駆けだした。
「ああ、ちくしょう! 結局、こうなるのかよ! 本当にクソババアと関わるとロクなことがねえ!」
「ガハハハッ! 恨むのならば自分の運命を恨めよお! あらゆる闘争に巻き込まれるのはその剣を持った者の宿命だ! ドレークの奴だってそうだったからなあ!」
「ああっ!? テメエ、いま何て言いやがった!?」
聞き捨てのならないセリフを吐かれた気がして聞き返すが、グレイスはそれ以上は説明する気がないようだ。
俺の言葉を無視して、漆黒のドレスの裾をなびかせてさらに速度を上げていった。
「チッ・・・後で説明してもらうからな!」
俺は唾とともに吐き捨てるように言って、強く地面を蹴り出した。
港に到着する頃には、俺達を追いかけてくる兵士は100人以上にまで増えていた。
ちょっとした一個中隊を引き連れながら、自分達が乗るべき船を探す。
「おーい。こっちだぞー」
港の奥にある大型船のデッキから、ロウがぶんぶんと手を振っていた。
隣にはシャオマオも乗っていて、棒のついたアメのような菓子をしゃぶっている。
「お前らも乗ってやがったのか! えらく準備がいいじゃねえか!」
「俺様ちゃんを誰だと思ってんのさ。南海一の占い師、ロウ様だぜ? こんなこともあろうかと出港準備を済ましてたぜい」
「でかした! すぐに出港する!」
「おう、船を出すゾ!」
「おおっ!」
シャオマオが奥歯でアメを噛み砕き、かけ声を発する。指示を受けた船乗り達は帆を広げて、碇を海から引き上げる。
俺達が船に飛び乗ると同時に、大型船が港から離れる。
「ああ! スーレイナ様が!」
「船を出せ! 海賊共を逃がすなぎゃあっ!」
「ガハハハッ! お前らごときが、私達を捕まえられると思うなよお!」
グレイスが船に積んであった薪をつかんで港の兵士に投擲する。
たかが木片とはいえ、投げているのは我らが狂母だ。
音速に近い速さで投げられた薪は数人の兵士を吹き飛ばし、見る見るうちに港は阿鼻叫喚の地獄と化した。
「・・・やってることが獅子王船団の奴らと変わらねえな」
「まあ・・・どちらも海賊ですから」
俺の呆れかえった言葉に、サクヤがぽんぽんと俺の背中を叩きながら返した。
「みんな揃ってますねー? 迷子になった子はいませんねー?」
「ガウッ!」
「ギャンッ!」
デッキの中央では、スーが船に乗り込んできた魔物を相手に点呼をとっていた。
ガルムに大猿、怪鳥、大蛇・・・それぞれクロ、シロ、アカ、アオとまるで工夫のない名前を付けられた怪物達だ。
屈強な船乗りがビビった視線を向けてくるのを尻目に、スーは怪物の口に干し肉を放り込んでいる。
「よーし、忘れ物はないなー?」
「オウ、王宮からパクってきた財宝もちゃんとあるゾ!」
「上出来、上出来、大儲けだにゃー!」
船の隅では、ロウとシャオマオが顔を合わせて金勘定をしていた。
二人の手の中には金貨やら宝石やら、一般庶民が一生かけても手にすることが出来ないような財宝が握られている。
「こいつら・・・さては逃げる途中だったな」
わざわざ船を出す準備をしていたのは、財宝を持ち逃げするためだったようだ。
ひょっとしたら、港まで追いかけてきた兵士の中には財宝の持ち逃げに気づいて盗人を捕まえようとしている兵士もいたのかもしれない。
「よーし、行くぞお! 我が生まれ故郷、アトランティスへ!」
グレイスが船のマストの上に立ち、前方を指さして高々と宣言した。
こうして、俺達を乗せた船はガーネット王国を後にし、決戦の地・アトランティスへと向かって行ったのであった。
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