俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
159 / 317
第3章 南海冒険編

58.邪神の呪い

しおりを挟む
「千年前、私は邪神から逃げ出した人々が隠れ住まうアトランティスに生まれた。外の世界を知らずに育った私にとって、この海底の町が世界の全てだった」

 考え込んでいる俺をよそに、ドレークは語り続ける。

「平和に暮らしていた私達だったが、ある日、アトランティスが邪神に見つかっちまった」

「・・・・・・」

「呪いの力を持つ邪神によってほとんどの住民が命を落とした。ある者は灰になり、ある者はムシケラに姿を変えられ、ある者は生きながらにして腐り堕ちた。私は妹とわずかな仲間と共にアトランティスから逃げ出して、邪神への復讐を決意した」

「それで・・・」

 俺は重い口を開いた。

「その復讐は、成し遂げられたのか?」

「それは今の世界を見ればわかるだろう?    この世界に邪神がいるかよ」

「そうか・・・愚問だったな」

 俺は頷いて、長く溜息をついた。
 ドレークの言葉を信じるのであれば、目の前に立っている男は世界を救った救世主だ。
 本来ならば敬意と憧憬を向けるべき相手と敵対し、剣を向けなければいけない状況はなんとも虚しいものである。

「もっとも、私達は世界を救った代償に邪神『アンラ・マンユ』によって不死の呪いをかけられちまい、永遠の生という地獄に閉じ込められた」

「それで不死身になったのか・・・この剣、【無敵鉄鋼】を使えば死ぬことが出来たんじゃないのか? 元々はアンタの持ち物だったんだろ?」

 俺は腰に差した剣を撫でながら尋ねた。
 ドレークはゆっくりと首を振り、唇を歪ませる。

「そう簡単にはいかねえんだよ。アンラ・マンユにかけられた呪いは二つ。一つは『不老不死の呪い』、もう一つは『自死ができなくなる呪い』だ」

「自死・・・自殺のことか?」

 ドレークは忌々しそうに頷く。
 頭上を見上げて、聖堂の天井に描かれた宗教画の悪魔が描かれた部分を睨みつける。

「神をも殺すその剣があれば、不死者であっても殺すことができる。しかし、もう一つの呪いが己を殺すことを拒絶する。俺は自分以外に【無敵鉄鋼】を使うことができる人間を千年も探し続けたが、結局、見つけることができなかった」

「・・・・・・」

「もはや死ぬことはできないと諦めていた。ならば世界の全てを壊しちまおう。そんなことを考えていた矢先・・・お前が現れた」

 ドレークは天井から視線を降ろして、俺をまっすぐに見据えて笑った。
 牙を剥くように笑うその表情はグレイスによく似ていて、そして、俺もよくする顔であった。

「まさかグレイスの息子が【無敵鉄鋼】に選ばれるとは思わなかった! 恐るべき因果、運命の神の悪戯だ! こんなチャンスは一万年生きても二度と巡り合わねえ! 千載一遇の機会、逃すわけにはいかない!」

「そうかよ、だったらそろそろ決着をつけるか」

 俺は腰の剣を抜いて剣先をドレークに突きつける。
    全ての魔法の力を打ち消して神をも殺すことができる剣が、千年生きた怪物へと向けられる。

 ドレークの話を聞いて思うところがないわけではない。もっと別の機会に出会っていれば――そんな甘い考えが頭をよぎったりもした。

 しかし、俺は剣士であり、ドレークもまた剣士だ。
 こうしてお互い、剣を持って向き合った以上。あとは剣戟の中で語るほかなかった。

「私は自ら死ぬことが出来ないが・・・ここまで追いつめられれば、もはや逃げ場所は残っちゃいない。もはや、逃走は選ばない。全力で抵抗させてもらうから、そっちも全力で殺しにきやがれ!」

「そうさせてもらうさ・・・いくぞ!」

 すでに身に着けていた腕輪が銀の光を放つ。
 銀光が鎧のように身体を覆い尽くし、全身に力がみなぎっていく。

「さあ、来い! 狂おしいほどに愛しい我が死神よ!」

 剣を構えたドレークへと、俺は肉体の限界を超えたスピードで斬りかかった。

 厳かな聖堂の中、二つの剣がぶつかり合って火花が散った。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。