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第3章 南海冒険編
58.邪神の呪い
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「千年前、私は邪神から逃げ出した人々が隠れ住まうアトランティスに生まれた。外の世界を知らずに育った私にとって、この海底の町が世界の全てだった」
考え込んでいる俺をよそに、ドレークは語り続ける。
「平和に暮らしていた私達だったが、ある日、アトランティスが邪神に見つかっちまった」
「・・・・・・」
「呪いの力を持つ邪神によってほとんどの住民が命を落とした。ある者は灰になり、ある者はムシケラに姿を変えられ、ある者は生きながらにして腐り堕ちた。私は妹とわずかな仲間と共にアトランティスから逃げ出して、邪神への復讐を決意した」
「それで・・・」
俺は重い口を開いた。
「その復讐は、成し遂げられたのか?」
「それは今の世界を見ればわかるだろう? この世界に邪神がいるかよ」
「そうか・・・愚問だったな」
俺は頷いて、長く溜息をついた。
ドレークの言葉を信じるのであれば、目の前に立っている男は世界を救った救世主だ。
本来ならば敬意と憧憬を向けるべき相手と敵対し、剣を向けなければいけない状況はなんとも虚しいものである。
「もっとも、私達は世界を救った代償に邪神『アンラ・マンユ』によって不死の呪いをかけられちまい、永遠の生という地獄に閉じ込められた」
「それで不死身になったのか・・・この剣、【無敵鉄鋼】を使えば死ぬことが出来たんじゃないのか? 元々はアンタの持ち物だったんだろ?」
俺は腰に差した剣を撫でながら尋ねた。
ドレークはゆっくりと首を振り、唇を歪ませる。
「そう簡単にはいかねえんだよ。アンラ・マンユにかけられた呪いは二つ。一つは『不老不死の呪い』、もう一つは『自死ができなくなる呪い』だ」
「自死・・・自殺のことか?」
ドレークは忌々しそうに頷く。
頭上を見上げて、聖堂の天井に描かれた宗教画の悪魔が描かれた部分を睨みつける。
「神をも殺すその剣があれば、不死者であっても殺すことができる。しかし、もう一つの呪いが己を殺すことを拒絶する。俺は自分以外に【無敵鉄鋼】を使うことができる人間を千年も探し続けたが、結局、見つけることができなかった」
「・・・・・・」
「もはや死ぬことはできないと諦めていた。ならば世界の全てを壊しちまおう。そんなことを考えていた矢先・・・お前が現れた」
ドレークは天井から視線を降ろして、俺をまっすぐに見据えて笑った。
牙を剥くように笑うその表情はグレイスによく似ていて、そして、俺もよくする顔であった。
「まさかグレイスの息子が【無敵鉄鋼】に選ばれるとは思わなかった! 恐るべき因果、運命の神の悪戯だ! こんなチャンスは一万年生きても二度と巡り合わねえ! 千載一遇の機会、逃すわけにはいかない!」
「そうかよ、だったらそろそろ決着をつけるか」
俺は腰の剣を抜いて剣先をドレークに突きつける。
全ての魔法の力を打ち消して神をも殺すことができる剣が、千年生きた怪物へと向けられる。
ドレークの話を聞いて思うところがないわけではない。もっと別の機会に出会っていれば――そんな甘い考えが頭をよぎったりもした。
しかし、俺は剣士であり、ドレークもまた剣士だ。
こうしてお互い、剣を持って向き合った以上。あとは剣戟の中で語るほかなかった。
「私は自ら死ぬことが出来ないが・・・ここまで追いつめられれば、もはや逃げ場所は残っちゃいない。もはや、逃走は選ばない。全力で抵抗させてもらうから、そっちも全力で殺しにきやがれ!」
「そうさせてもらうさ・・・いくぞ!」
すでに身に着けていた腕輪が銀の光を放つ。
銀光が鎧のように身体を覆い尽くし、全身に力がみなぎっていく。
「さあ、来い! 狂おしいほどに愛しい我が死神よ!」
剣を構えたドレークへと、俺は肉体の限界を超えたスピードで斬りかかった。
厳かな聖堂の中、二つの剣がぶつかり合って火花が散った。
考え込んでいる俺をよそに、ドレークは語り続ける。
「平和に暮らしていた私達だったが、ある日、アトランティスが邪神に見つかっちまった」
「・・・・・・」
「呪いの力を持つ邪神によってほとんどの住民が命を落とした。ある者は灰になり、ある者はムシケラに姿を変えられ、ある者は生きながらにして腐り堕ちた。私は妹とわずかな仲間と共にアトランティスから逃げ出して、邪神への復讐を決意した」
「それで・・・」
俺は重い口を開いた。
「その復讐は、成し遂げられたのか?」
「それは今の世界を見ればわかるだろう? この世界に邪神がいるかよ」
「そうか・・・愚問だったな」
俺は頷いて、長く溜息をついた。
ドレークの言葉を信じるのであれば、目の前に立っている男は世界を救った救世主だ。
本来ならば敬意と憧憬を向けるべき相手と敵対し、剣を向けなければいけない状況はなんとも虚しいものである。
「もっとも、私達は世界を救った代償に邪神『アンラ・マンユ』によって不死の呪いをかけられちまい、永遠の生という地獄に閉じ込められた」
「それで不死身になったのか・・・この剣、【無敵鉄鋼】を使えば死ぬことが出来たんじゃないのか? 元々はアンタの持ち物だったんだろ?」
俺は腰に差した剣を撫でながら尋ねた。
ドレークはゆっくりと首を振り、唇を歪ませる。
「そう簡単にはいかねえんだよ。アンラ・マンユにかけられた呪いは二つ。一つは『不老不死の呪い』、もう一つは『自死ができなくなる呪い』だ」
「自死・・・自殺のことか?」
ドレークは忌々しそうに頷く。
頭上を見上げて、聖堂の天井に描かれた宗教画の悪魔が描かれた部分を睨みつける。
「神をも殺すその剣があれば、不死者であっても殺すことができる。しかし、もう一つの呪いが己を殺すことを拒絶する。俺は自分以外に【無敵鉄鋼】を使うことができる人間を千年も探し続けたが、結局、見つけることができなかった」
「・・・・・・」
「もはや死ぬことはできないと諦めていた。ならば世界の全てを壊しちまおう。そんなことを考えていた矢先・・・お前が現れた」
ドレークは天井から視線を降ろして、俺をまっすぐに見据えて笑った。
牙を剥くように笑うその表情はグレイスによく似ていて、そして、俺もよくする顔であった。
「まさかグレイスの息子が【無敵鉄鋼】に選ばれるとは思わなかった! 恐るべき因果、運命の神の悪戯だ! こんなチャンスは一万年生きても二度と巡り合わねえ! 千載一遇の機会、逃すわけにはいかない!」
「そうかよ、だったらそろそろ決着をつけるか」
俺は腰の剣を抜いて剣先をドレークに突きつける。
全ての魔法の力を打ち消して神をも殺すことができる剣が、千年生きた怪物へと向けられる。
ドレークの話を聞いて思うところがないわけではない。もっと別の機会に出会っていれば――そんな甘い考えが頭をよぎったりもした。
しかし、俺は剣士であり、ドレークもまた剣士だ。
こうしてお互い、剣を持って向き合った以上。あとは剣戟の中で語るほかなかった。
「私は自ら死ぬことが出来ないが・・・ここまで追いつめられれば、もはや逃げ場所は残っちゃいない。もはや、逃走は選ばない。全力で抵抗させてもらうから、そっちも全力で殺しにきやがれ!」
「そうさせてもらうさ・・・いくぞ!」
すでに身に着けていた腕輪が銀の光を放つ。
銀光が鎧のように身体を覆い尽くし、全身に力がみなぎっていく。
「さあ、来い! 狂おしいほどに愛しい我が死神よ!」
剣を構えたドレークへと、俺は肉体の限界を超えたスピードで斬りかかった。
厳かな聖堂の中、二つの剣がぶつかり合って火花が散った。
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