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幕間 王都武術大会
2.控え室の花
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王都武術大会。
ランペルージ王国の王都で毎年開かれるそのイベントは、初代国王の時代から続けられているものである。
ランペルージ王国初代国王は武勇によって周辺の領主をまとめあげ、バアル帝国を始めとした外敵を退けて一国を建国した傑物であった。
初代は王国臣民たるもの武をきわめて国を守るべきとの考えを主張し、武を競い合う場として武術大会を創設した。
武術大会は建国から100年以上たった今でも続けられており、特に王都に在籍している貴族の男子は必ずと言っていいほど参加させられる。
それは東方辺境から貴族学校に留学している俺も例外ではない。
面倒ではあったが、ヘタに逃げ出したりすればマクスウェル家と東方辺境が侮られることになる。仕方がなしに大会に参加していた。
「本戦1回戦突破おめでとう。かっこよかったわよ?」
「・・・俺の控え室に、何でお前がいるんだよ」
本戦1回戦の試合を終えて控え室に戻ってきた俺を出迎えたのは、幼馴染の少女エキドナ・サンダーバードであった。
胸と背中を大胆に開いたドレスを身に着けた彼女は、我が物顔で椅子に座り、まるでここがサロンであるかのようにティーカップを傾けている。
エキドナの背後には若い男の執事が控えている。
彫りの深い男前な執事は、おそらくエキドナの愛人の一人だろう。
「試合を終えて戻ってきた幼馴染をねぎらいに来て上げたんじゃない。感謝してもバチは当たらないと思うけど?」
「娼婦みたいな恰好をした奴が勝手に部屋に入っていたら、俺じゃなくてもビビるっての。ハニートラップ専門の暗殺者かと思ったぜ」
「・・・どんな生活してるのよ、あなた」
呆れた目で見てくるエキドナを無視して、俺は鎧を脱いで下の肌着を着替える。
大した運動はしていないが、皮の鎧はなかなかに蒸れる。肌着は汗が染みており肌にくっついて気色の悪い感触がする。
「あらあらあら。こんな所で服を脱ぎだして、ようやく私を押し倒す気になったのかしら?」
「起きたまま寝言を言えるとは器用な奴だな。こんな所って、ここは着替えるための部屋だろうが」
「ふーん、へー、ちょっと見ないうちに良い身体になったじゃないの。私も下着の替えが必要かしら?」
「・・・品のない冗談を言うならマジで出てってくれ。女だけど、部屋から蹴り出すぞ?」
俺が半目になって睨みつけると、エキドナは愉快そうに紅を塗った唇を吊り上げる。
艶のある濡れた瞳をこちらに向けて、悪戯っぽく微笑んだ。
「どうせ婚約者の彼女は応援にも来ていないんでしょう? なんであの子と婚約しているのかしら?」
エキドナが言っているのは、俺の婚約者であるセレナ・ノムスのことである。
血生臭いイベントを嫌うセレナの姿は当然のように観客席にはなく、俺への応援の言葉さえなかった。
「嫌われてるんじゃない? ああいうメルヘンな娘はいつか『運命の恋』とか言い出して他の男と浮気をするわよ」
「まさか。あの気弱なセレナにそんな度胸はないだろうよ」
俺は肩をすくめてエキドナの予想を笑い飛ばし、普段着へと着替えた。
「次の試合は明後日だから、俺はもう帰るよ」
「あら、せっかく応援に来てあげたのに袖にする気かしら? 食事の一つもごちそうしてくれたっていいんじゃないかしら?」
「・・・そっちの執事と行っておけよ。間に俺を入れてるんじゃねえよ」
おそらく肉体関係があるであろう二人と一つの席で食事をとるなど、正直言ってゾッとする。
カップルに挟まれてどんな心境で飯を食えというのだ。
「冷たいわねえ。まあ、いいわ。闘技場の入り口までエスコートしてちょうだい。それくらいはいいでしょう?」
「・・・ま、いいけどな。さっさと行くぞ。こっちは腹減ってんだ」
「はあい」
エキドナが俺の隣に寄り添ってきて、両手を腕へと絡めてくる。
俺の愛人であり専属メイドであるエリザにも匹敵する、たわわな果実が俺の腕に押しつけられて形を変える。
「・・・・・・」
「どうしたのかしら、早く行きましょう」
「ああ・・・」
俺はエキドナを睨みつけるが、ご機嫌な様子の彼女は俺の視線を受け流して扉に向けてグイグイと引っ張っていく。
俺は諦めの境地から溜息をつき、歩きながら背後の執事に頭を下げる。
「なんというか・・・悪いな」
「自分はしょせん、愛人の一人にすぎません。こういうことは慣れておりますのでお気になさらず」
「・・・そうかよ」
ドライな肉体関係を匂わせる執事に肩をすくめて、俺は控え室の扉をくぐって廊下へと出た。
ランペルージ王国の王都で毎年開かれるそのイベントは、初代国王の時代から続けられているものである。
ランペルージ王国初代国王は武勇によって周辺の領主をまとめあげ、バアル帝国を始めとした外敵を退けて一国を建国した傑物であった。
初代は王国臣民たるもの武をきわめて国を守るべきとの考えを主張し、武を競い合う場として武術大会を創設した。
武術大会は建国から100年以上たった今でも続けられており、特に王都に在籍している貴族の男子は必ずと言っていいほど参加させられる。
それは東方辺境から貴族学校に留学している俺も例外ではない。
面倒ではあったが、ヘタに逃げ出したりすればマクスウェル家と東方辺境が侮られることになる。仕方がなしに大会に参加していた。
「本戦1回戦突破おめでとう。かっこよかったわよ?」
「・・・俺の控え室に、何でお前がいるんだよ」
本戦1回戦の試合を終えて控え室に戻ってきた俺を出迎えたのは、幼馴染の少女エキドナ・サンダーバードであった。
胸と背中を大胆に開いたドレスを身に着けた彼女は、我が物顔で椅子に座り、まるでここがサロンであるかのようにティーカップを傾けている。
エキドナの背後には若い男の執事が控えている。
彫りの深い男前な執事は、おそらくエキドナの愛人の一人だろう。
「試合を終えて戻ってきた幼馴染をねぎらいに来て上げたんじゃない。感謝してもバチは当たらないと思うけど?」
「娼婦みたいな恰好をした奴が勝手に部屋に入っていたら、俺じゃなくてもビビるっての。ハニートラップ専門の暗殺者かと思ったぜ」
「・・・どんな生活してるのよ、あなた」
呆れた目で見てくるエキドナを無視して、俺は鎧を脱いで下の肌着を着替える。
大した運動はしていないが、皮の鎧はなかなかに蒸れる。肌着は汗が染みており肌にくっついて気色の悪い感触がする。
「あらあらあら。こんな所で服を脱ぎだして、ようやく私を押し倒す気になったのかしら?」
「起きたまま寝言を言えるとは器用な奴だな。こんな所って、ここは着替えるための部屋だろうが」
「ふーん、へー、ちょっと見ないうちに良い身体になったじゃないの。私も下着の替えが必要かしら?」
「・・・品のない冗談を言うならマジで出てってくれ。女だけど、部屋から蹴り出すぞ?」
俺が半目になって睨みつけると、エキドナは愉快そうに紅を塗った唇を吊り上げる。
艶のある濡れた瞳をこちらに向けて、悪戯っぽく微笑んだ。
「どうせ婚約者の彼女は応援にも来ていないんでしょう? なんであの子と婚約しているのかしら?」
エキドナが言っているのは、俺の婚約者であるセレナ・ノムスのことである。
血生臭いイベントを嫌うセレナの姿は当然のように観客席にはなく、俺への応援の言葉さえなかった。
「嫌われてるんじゃない? ああいうメルヘンな娘はいつか『運命の恋』とか言い出して他の男と浮気をするわよ」
「まさか。あの気弱なセレナにそんな度胸はないだろうよ」
俺は肩をすくめてエキドナの予想を笑い飛ばし、普段着へと着替えた。
「次の試合は明後日だから、俺はもう帰るよ」
「あら、せっかく応援に来てあげたのに袖にする気かしら? 食事の一つもごちそうしてくれたっていいんじゃないかしら?」
「・・・そっちの執事と行っておけよ。間に俺を入れてるんじゃねえよ」
おそらく肉体関係があるであろう二人と一つの席で食事をとるなど、正直言ってゾッとする。
カップルに挟まれてどんな心境で飯を食えというのだ。
「冷たいわねえ。まあ、いいわ。闘技場の入り口までエスコートしてちょうだい。それくらいはいいでしょう?」
「・・・ま、いいけどな。さっさと行くぞ。こっちは腹減ってんだ」
「はあい」
エキドナが俺の隣に寄り添ってきて、両手を腕へと絡めてくる。
俺の愛人であり専属メイドであるエリザにも匹敵する、たわわな果実が俺の腕に押しつけられて形を変える。
「・・・・・・」
「どうしたのかしら、早く行きましょう」
「ああ・・・」
俺はエキドナを睨みつけるが、ご機嫌な様子の彼女は俺の視線を受け流して扉に向けてグイグイと引っ張っていく。
俺は諦めの境地から溜息をつき、歩きながら背後の執事に頭を下げる。
「なんというか・・・悪いな」
「自分はしょせん、愛人の一人にすぎません。こういうことは慣れておりますのでお気になさらず」
「・・・そうかよ」
ドライな肉体関係を匂わせる執事に肩をすくめて、俺は控え室の扉をくぐって廊下へと出た。
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