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幕間 王都武術大会
3.西方の黒獅子
腕を組んだ俺とエキドナは、後ろに執事を引き連れて闘技場の廊下を歩いて行った。
初代国王によって建築された闘技場はすでに築100年を超えており、古めかしい建物特有のカビの匂いが鼻につく。
しばらく廊下を歩いていくと、前方に見知った男の姿を認めた。
金色の髪に黒い肌。王都や東方辺境ではあまり見かけないタイプの容姿をした青年である。
「あ」
「む?」
こちらが気付くと同時に、あちらの方も気づいたようだ。
俺の顔を見た途端に男の眉がつり上がり、すぐに表情が不機嫌そうなものへと変わっていった。
「久しぶりだな、ディンギル・マクスウェル」
「同じ学園に通っているのになかなか会わないものですね。バロン先輩」
その男の名前はバロン・スフィンクス。
俺と同じく『四方四家』の後継ぎで、西方辺境伯スフィンクス家の嫡男であった。
バロン先輩は今から試合があるのか、身体に鎧を身に纏い、腰には剣をさげていた。
「先ほどの試合は見させてもらったぞ。相変わらず荒っぽくて、まるでジャッカルのような剣だな」
「未熟で申し訳ないかぎりです」
「褒めているのだ。この調子なら、決勝で私と当たるまでは負けることはなさそうだな」
ふん、と鼻を鳴らしてバロン先輩はまっすぐに睨みつけてくる。
バロン先輩は俺とエキドナと同じく王都にある貴族学校に通っており、1年年上の先輩である。
以前、上級生との合同授業で武術の講義が行われた際、俺とバロン先輩は剣を交えたことがあった。
勝敗はわずかな差で俺の勝ち。
実力はほぼ拮抗しており、実力というよりも運での勝利に近い結果であった。
後輩に敗北したバロン先輩はあからさまに俺をライバル視するようになり、事あるごとに突っかかってきていた。
「ごきげんよう、スフィンクス先輩」
「ああ、サンダーバード嬢もご機嫌麗しく・・・ふむ?」
俺に寄り添っているエキドナが挨拶をする。
バロン先輩はエキドナのほうを見て軽く頭を下げて返してくるが、やけに親しげに腕を組んだ俺達に眉を寄せた。
「君達は・・・そういう関係だったのか?」
「まさか、違いますよ」
汚らわしい物でも見るかのようなバロン先輩の視線を笑い飛ばして、俺は空いている方の手でエキドナの頭を小突く。
「これと俺とは昔なじみの友人というだけです。これは男には誰にでも馴れ馴れしいんですよ」
「むう、女はもっと丁寧に扱いなさいよね!」
『これ』呼ばわりされた幼馴染は頬を膨らませながら、俺の腕をつねってくる。
「そうか・・・」
バロン先輩は納得していないという顔をしていたが、関わり合いになりたくないのか俺達から視線をそらした。
「先輩はこれから試合ですか。対戦相手は誰でしたっけ?」
「知らぬ。名も覚えられぬような中央貴族のボンボンだ」
バロン先輩はどうでも良さそうに答えて、嘆かわしそうに首を振った。
「ここは王都がだからな。武術大会に参加するのはろくに戦場に立ったこともなく、訓練や模擬試合で達人になったつもりになっている中央貴族ばかりだ。これが一般の部との合同であれば話も変わるのだが・・・」
王都武術大会は『貴族の部』と『一般の部』の二つに分けて行われる。
貴族の部は文字通りに貴族の子弟しか参加していないが、一般の部の主な参加者は傭兵や平民出身の兵士・騎士である。
名前を売って仕官や立身出世を目指す彼らのモチベーションは道楽として武術をたしなんでいる貴族よりもはるかに高く、試合は手に汗を握るような白熱したものになっている。
どうしてわざわざ貴族と平民を分けて大会を開くかというと、貴族が平民に敗れたという前例を作りたくないからだ。
貴族は平民よりも優れており、それ故に支配階級として君臨している。そのスタンスを崩さないためにも、平民が貴族の上に立つような場を認めるわけにはいかなかったのだ。
「くだらない理由ですね。身分や出自など、戦場では何の役にも立たないというのに」
「まったくだ」
実感がこもった俺の言葉に、バロン先輩も頷いた。
戦場では高貴な生まれの人間が農民出身の雑兵に討たれることなど、山のようにある。
貴族であれ、平民であれ、命の奪い合いにおいては強いか弱いかしかないのである。
「決勝でお前とあたるまでは負けはあるまい。首を洗って待っているがいい」
「そうさせてもらいますよ・・・ああ、先輩に対して不躾ではありますが、一つ忠告させてもらいましょうか」
俺はエキドナの腕を引きながらバロン先輩とすれ違い、その去り際に言葉を残した。
「俺達のような地方貴族が優勝することを、面白くないと思っている奴らは大勢います。戦いというのは戦場だけで行われるものではありませんので、どうぞご注意を」
初代国王によって建築された闘技場はすでに築100年を超えており、古めかしい建物特有のカビの匂いが鼻につく。
しばらく廊下を歩いていくと、前方に見知った男の姿を認めた。
金色の髪に黒い肌。王都や東方辺境ではあまり見かけないタイプの容姿をした青年である。
「あ」
「む?」
こちらが気付くと同時に、あちらの方も気づいたようだ。
俺の顔を見た途端に男の眉がつり上がり、すぐに表情が不機嫌そうなものへと変わっていった。
「久しぶりだな、ディンギル・マクスウェル」
「同じ学園に通っているのになかなか会わないものですね。バロン先輩」
その男の名前はバロン・スフィンクス。
俺と同じく『四方四家』の後継ぎで、西方辺境伯スフィンクス家の嫡男であった。
バロン先輩は今から試合があるのか、身体に鎧を身に纏い、腰には剣をさげていた。
「先ほどの試合は見させてもらったぞ。相変わらず荒っぽくて、まるでジャッカルのような剣だな」
「未熟で申し訳ないかぎりです」
「褒めているのだ。この調子なら、決勝で私と当たるまでは負けることはなさそうだな」
ふん、と鼻を鳴らしてバロン先輩はまっすぐに睨みつけてくる。
バロン先輩は俺とエキドナと同じく王都にある貴族学校に通っており、1年年上の先輩である。
以前、上級生との合同授業で武術の講義が行われた際、俺とバロン先輩は剣を交えたことがあった。
勝敗はわずかな差で俺の勝ち。
実力はほぼ拮抗しており、実力というよりも運での勝利に近い結果であった。
後輩に敗北したバロン先輩はあからさまに俺をライバル視するようになり、事あるごとに突っかかってきていた。
「ごきげんよう、スフィンクス先輩」
「ああ、サンダーバード嬢もご機嫌麗しく・・・ふむ?」
俺に寄り添っているエキドナが挨拶をする。
バロン先輩はエキドナのほうを見て軽く頭を下げて返してくるが、やけに親しげに腕を組んだ俺達に眉を寄せた。
「君達は・・・そういう関係だったのか?」
「まさか、違いますよ」
汚らわしい物でも見るかのようなバロン先輩の視線を笑い飛ばして、俺は空いている方の手でエキドナの頭を小突く。
「これと俺とは昔なじみの友人というだけです。これは男には誰にでも馴れ馴れしいんですよ」
「むう、女はもっと丁寧に扱いなさいよね!」
『これ』呼ばわりされた幼馴染は頬を膨らませながら、俺の腕をつねってくる。
「そうか・・・」
バロン先輩は納得していないという顔をしていたが、関わり合いになりたくないのか俺達から視線をそらした。
「先輩はこれから試合ですか。対戦相手は誰でしたっけ?」
「知らぬ。名も覚えられぬような中央貴族のボンボンだ」
バロン先輩はどうでも良さそうに答えて、嘆かわしそうに首を振った。
「ここは王都がだからな。武術大会に参加するのはろくに戦場に立ったこともなく、訓練や模擬試合で達人になったつもりになっている中央貴族ばかりだ。これが一般の部との合同であれば話も変わるのだが・・・」
王都武術大会は『貴族の部』と『一般の部』の二つに分けて行われる。
貴族の部は文字通りに貴族の子弟しか参加していないが、一般の部の主な参加者は傭兵や平民出身の兵士・騎士である。
名前を売って仕官や立身出世を目指す彼らのモチベーションは道楽として武術をたしなんでいる貴族よりもはるかに高く、試合は手に汗を握るような白熱したものになっている。
どうしてわざわざ貴族と平民を分けて大会を開くかというと、貴族が平民に敗れたという前例を作りたくないからだ。
貴族は平民よりも優れており、それ故に支配階級として君臨している。そのスタンスを崩さないためにも、平民が貴族の上に立つような場を認めるわけにはいかなかったのだ。
「くだらない理由ですね。身分や出自など、戦場では何の役にも立たないというのに」
「まったくだ」
実感がこもった俺の言葉に、バロン先輩も頷いた。
戦場では高貴な生まれの人間が農民出身の雑兵に討たれることなど、山のようにある。
貴族であれ、平民であれ、命の奪い合いにおいては強いか弱いかしかないのである。
「決勝でお前とあたるまでは負けはあるまい。首を洗って待っているがいい」
「そうさせてもらいますよ・・・ああ、先輩に対して不躾ではありますが、一つ忠告させてもらいましょうか」
俺はエキドナの腕を引きながらバロン先輩とすれ違い、その去り際に言葉を残した。
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