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幕間 王都武術大会
7.太陽の少女、月の少女
それから2日後。
黒い獅子の紋章を付けた馬車が街道を走り抜けて、王都の門をくぐった。
馬車の周囲には馬に乗った騎士達が護衛をしており、物々しい空気で王都の人々を威圧している。
しかし、そんな馬車の中では少女の華やいだ声が上がっていた。
「これが都なのね。やっぱり国の中心は賑やかねえ!」
「そうですね・・・義姉さん」
箱型の馬車の中には二人の少女の姿があった。
褐色の肌に金色の髪という容姿をした彼女達は、この国の西方辺境に住む異民族の出身であった。
一人はバロン・スフィンクスの婚約者であるミスト・カイロ。
今年18歳になる彼女は年々大人びてきている顔にいっぱいの快活な笑顔を浮かべて、馬車の窓から見える王都の町並みを眺めている。
砂漠地帯の多い西方と違って、王都は豊かな水であふれている。
広場の噴水などは彼女達の故郷ではまずお目にかかれないもので、生まれて初めての光景にミストは瞳を輝かせていた。
一方、対照的に暗い表情で馬車に座っているのは、バロン・スフィンクスの妹であるナーム・スフィンクスであった。
ナームは横一直線に切った長い前髪をカーテンのように垂らし、黒い瞳を隠している。
おずおずとした様子で窓から顔をのぞかせて、通りすがりの男性と目が合うと慌てて顔を引っ込めた。
怯えに身体をすくませるナームの様子に、ミストは呆れかえって唇を尖らせた。
「もう、何をそんなに怖がっているのよ。『砂漠の黒獅子』であるスフィンクス家の娘ともあろう者がそんな調子でいると、王都の貴族に馬鹿にされてしまうわよ!」
「だって・・・お義姉さま・・・」
ナームが反論しようと口を開くが、すぐに口を閉ざしてしまった。
長い前髪に覆われた瞳は馬車の対面に座っているミストにも、はっきりと見ることは出来なかった。
しかし、黒い瞳が涙に潤んでいることは、長い付き合いから容易に想像ができる。
「ナーム、あなたが人と会うのを怖がっているのは知っているわ。その理由もね」
「・・・・・・」
「だけど、いつまでも屋敷に閉じこもっているわけにもいかないでしょう? たまには外に出ないと、身体にカビが生えちゃうわよ?」
「だって・・・」
「だって、何かしら?」
「うう・・・」
義姉の厳しい言葉に、ナームはまたしても黙り込んでしまった。
ナーム・スフィンクスという少女が人を怖がり、屋敷に閉じこもりがちになってしまったのは、3年前に暴漢に誘拐されたときからである。
兄のバロンや父親のおかげで手遅れになる前に救出されたものの、その事件によってナームは心に深い傷を負ってしまい、今も親しい一部の者以外とはまともに会話することもできなかった。
「ねえ、ナーム。明日は一緒に王都を散策に行きましょう? バロンのことも誘って、こちらの料理とか食べに行きましょうよ」
「・・・・・・いいです、私は。お兄様と二人で行ってきてください」
「ナーム!」
「・・・・・・」
ナームはうつむいて、それきり喋らなくなってしまった。
貝のように頑なな義妹の態度に困ったように頬に手を当てて、ミストは細い溜息をついた。
困り果ててしまった義姉の顔を前髪ごしにちらりと見て、ナームは消え入るような声でつぶやいた。
「・・・・・・私は・・・です、から・・・いいの」
「え? 何か言ったかしら?」
ナームがぽつりとつぶやいた言葉を聞き逃してしまい、ミストが聞き返す。
しかし、ナームはぶんぶんと首を振って言葉を飲む。
「・・・・・・なんでも、ありません」
「そう・・・」
女性二人で使うには広すぎる馬車の中、小さく縮こまったナームの姿に、ミストは痛ましげな視線を送る。
(誰か、あなたの心をこじ開けてくれる方が現れればいいのに。バロンのように強く、優しく、けれど常識にとらわれることがないような方が。力づくであなたの事を解き放ってくれれば・・・)
きっとナームを救ってくれる王子様は、絵本に出てくるようなカッコいい貴公子ではない。
砂漠の古い伝説に登場する英雄のような、力づくで彼女の心のカラを破ってくれるような破天荒な人物だ。
ミストがそんなことを考えているうちに、スフィンクス家の馬車が止まった。
「ミスト! ナーム!」
馬車の扉が外側から開け放たれ、バロン・スフィンクスが満面の笑顔で二人を出迎えた。
黒い獅子の紋章を付けた馬車が街道を走り抜けて、王都の門をくぐった。
馬車の周囲には馬に乗った騎士達が護衛をしており、物々しい空気で王都の人々を威圧している。
しかし、そんな馬車の中では少女の華やいだ声が上がっていた。
「これが都なのね。やっぱり国の中心は賑やかねえ!」
「そうですね・・・義姉さん」
箱型の馬車の中には二人の少女の姿があった。
褐色の肌に金色の髪という容姿をした彼女達は、この国の西方辺境に住む異民族の出身であった。
一人はバロン・スフィンクスの婚約者であるミスト・カイロ。
今年18歳になる彼女は年々大人びてきている顔にいっぱいの快活な笑顔を浮かべて、馬車の窓から見える王都の町並みを眺めている。
砂漠地帯の多い西方と違って、王都は豊かな水であふれている。
広場の噴水などは彼女達の故郷ではまずお目にかかれないもので、生まれて初めての光景にミストは瞳を輝かせていた。
一方、対照的に暗い表情で馬車に座っているのは、バロン・スフィンクスの妹であるナーム・スフィンクスであった。
ナームは横一直線に切った長い前髪をカーテンのように垂らし、黒い瞳を隠している。
おずおずとした様子で窓から顔をのぞかせて、通りすがりの男性と目が合うと慌てて顔を引っ込めた。
怯えに身体をすくませるナームの様子に、ミストは呆れかえって唇を尖らせた。
「もう、何をそんなに怖がっているのよ。『砂漠の黒獅子』であるスフィンクス家の娘ともあろう者がそんな調子でいると、王都の貴族に馬鹿にされてしまうわよ!」
「だって・・・お義姉さま・・・」
ナームが反論しようと口を開くが、すぐに口を閉ざしてしまった。
長い前髪に覆われた瞳は馬車の対面に座っているミストにも、はっきりと見ることは出来なかった。
しかし、黒い瞳が涙に潤んでいることは、長い付き合いから容易に想像ができる。
「ナーム、あなたが人と会うのを怖がっているのは知っているわ。その理由もね」
「・・・・・・」
「だけど、いつまでも屋敷に閉じこもっているわけにもいかないでしょう? たまには外に出ないと、身体にカビが生えちゃうわよ?」
「だって・・・」
「だって、何かしら?」
「うう・・・」
義姉の厳しい言葉に、ナームはまたしても黙り込んでしまった。
ナーム・スフィンクスという少女が人を怖がり、屋敷に閉じこもりがちになってしまったのは、3年前に暴漢に誘拐されたときからである。
兄のバロンや父親のおかげで手遅れになる前に救出されたものの、その事件によってナームは心に深い傷を負ってしまい、今も親しい一部の者以外とはまともに会話することもできなかった。
「ねえ、ナーム。明日は一緒に王都を散策に行きましょう? バロンのことも誘って、こちらの料理とか食べに行きましょうよ」
「・・・・・・いいです、私は。お兄様と二人で行ってきてください」
「ナーム!」
「・・・・・・」
ナームはうつむいて、それきり喋らなくなってしまった。
貝のように頑なな義妹の態度に困ったように頬に手を当てて、ミストは細い溜息をついた。
困り果ててしまった義姉の顔を前髪ごしにちらりと見て、ナームは消え入るような声でつぶやいた。
「・・・・・・私は・・・です、から・・・いいの」
「え? 何か言ったかしら?」
ナームがぽつりとつぶやいた言葉を聞き逃してしまい、ミストが聞き返す。
しかし、ナームはぶんぶんと首を振って言葉を飲む。
「・・・・・・なんでも、ありません」
「そう・・・」
女性二人で使うには広すぎる馬車の中、小さく縮こまったナームの姿に、ミストは痛ましげな視線を送る。
(誰か、あなたの心をこじ開けてくれる方が現れればいいのに。バロンのように強く、優しく、けれど常識にとらわれることがないような方が。力づくであなたの事を解き放ってくれれば・・・)
きっとナームを救ってくれる王子様は、絵本に出てくるようなカッコいい貴公子ではない。
砂漠の古い伝説に登場する英雄のような、力づくで彼女の心のカラを破ってくれるような破天荒な人物だ。
ミストがそんなことを考えているうちに、スフィンクス家の馬車が止まった。
「ミスト! ナーム!」
馬車の扉が外側から開け放たれ、バロン・スフィンクスが満面の笑顔で二人を出迎えた。
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