俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
180 / 317
幕間 王都武術大会

15.女の正体

 俺は座り込んだ女を上から見下ろして、改めてその全身を目に映した。

 真っ先に目を引くのは煽情的な衣装を突き上げる豊満なバスト。次に、長い脚である。
    見るからに女として熟成された身体は明らかに経験豊富な女の身体なのだが、その挙動は妙に子供じみている。
 金色の髪に褐色の肌という西方の少数民族特有の容姿をしているのだが、あちらの女はみんなこんなふうなのだろうか?

「ん・・・? 西方の女・・・?」

 俺はふと頭に引っかかるものを感じて、眉を寄せて考え込む。
 いまさらというか、もっと早く気付かなければいけない重大な事柄を見逃している気がする。女の美貌や色気に惑わされて、大切なことを見逃しているのではないだろうか?

「げっ、ひょっとして・・・」

 そこまできて、ようやく俺は目の前の女の正体に思い至った。
 金髪の長い髪。褐色の肌。西方の少数民族独特の身体的特徴は、俺がよく知るある人物と酷似していた。

「あー・・・君、もしかしてバロン・スフィンクスの身内か?」

「え・・・?」

 女は驚いたように目を見開いて俺のことを見る。言葉にせずとも、その反応が質問の回答が「イエス」であることを雄弁に語っている。

(そうか・・・この娘がバロン先輩の婚約者か!)

 俺はようやく、その答えにたどり着いた。
 どうしてすぐに気がつかなかったのだろうか。『鋼牙』のキサラギからバロン先輩の妹と婚約者が王都に来ていることは聞いていたはず。年齢から妹であることはないだろうから、婚約者に違いないだろう。

(やべえな・・・色香に酔って完全に失念していた! キスしちまったぞ? 舌まで入れて味わい尽くしちまったぞ?)

 もしもこの事がバロン先輩の耳に入れば、確実に俺を殺しにかかってくるだろう。
 正当防衛だの、勘違いの事故だの、こちらの無実をいくら主張したとしても、あの誇り高くも感情的な先輩が怒りを収めてくれるとはとても思えなかった。
 勝てる勝てないの問題ではない。辺境伯家二つの後継者が殺し合いなどすることがあれば、最悪の場合、内乱にまで発展するだろう。

 俺は頭痛をこらえるようにこめかみを手で押さえながら、座り込んでいる女におずおずと提案をする。

「今回のことは・・・まあ、不幸な行き違いだったな。うん、君は俺のことを暴漢と勘違いして、俺は身を守るためとはいえ君の唇を奪ってしまった。どうだろう、今回のことは二人ともなかったことにしないか?」

「え・・・なかった、ことに?」

「ああ」

 呆然と聞き返してくる女に、俺は頷きを返した。

「お互い、このことがバレたら不味い相手がいるだろう? 虫にでも刺されたと思って忘れちまったほうが、どちらにとっても良いと思うんだが?」

「・・・・・・」

 女はしばらく呆然とこちらを見上げていたが、やがて油に火がついたように感情を爆発させた。

「ふ、ふざけないで!」

「うおっ!?」

 突然、目をつり上げて叫ぶ女に、俺は思わずたじろいだ。

「あんなことをされて忘れられる訳ないじゃない! あんなエッチな・・・い、いやらしい接吻を・・・」

「・・・おいおい、そんな格好をしてまるで生娘みたいなことを言いやがるじゃないか。まさか、本当に処女なのか?」

「あたりまえ・・・!」

 女はカアッと顔を赤くさせた。
 腰に巻いていたストールをかき抱いて胸元を隠し、恥じらうようにこちらを睨みつけた。
 その反応を見て、俺はようやく彼女が見た目とは真逆に男性経験の乏しい淑女である事に気がついた。

「なるほど・・・悪かったな。そんだけ色気をふり撒いてるから、てっきり男慣れしてるとばかり・・・」

「ば・・・」

「ば?」

 女は射殺すようにこちらを睨みつけ、黒い大きな瞳からポロポロと涙をこぼした。
 20代前半の、間違いなく年上にしか見えない女の涙に、俺は驚いて目を見開いた。
 驚きから生じた隙をついて、女は両手で俺の身体を突き飛ばす。

「ばかああああああああっ!!」

「おおっ!?」

 俺を壁際に突き飛ばして、褐色肌の女は大通りの方向へと走って行ってしまった。
 路地裏に取り残された俺は呆れかえったように硬直して、その背中を見送る。

「馬鹿って・・・子供かよ」

 つぶやかれた言葉は誰の耳にも届くことはなく、路地裏の空虚な暗闇へと消えていった。
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!