189 / 317
幕間 王都武術大会
24.咲きかけのつぼみ
「・・・・・・」
カイロ嬢の背中から、前髪を長く伸ばして目元を隠した少女が顔を出した。
金色の前髪のせいで顔は下半分しか見ることができないが、将来は美人になりそうな雰囲気を感じる。
「ディンギル・マクスウェルだ。よろしくな」
「・・・・・・!」
やや意気消沈しながらも、子供を怖がらせないように笑みを顔に貼り付けて言う。
すると、なぜかナーム嬢は驚いたように肩を震わせて、再びカイロ嬢の背中に隠れてしまった。
「えーと・・・」
「すまないな、この子は少し人見知りなんだ。気にしないでくれ」
「まあ、いいですけど」
ナーム嬢は背中から顔だけを出して、こちらをじっと見つめてくる。前髪で目元が見えないはずなのに、俺は自分の顔にバシバシと視線が突き刺さっているのを感じた。
ひょっとしたらどこかで会っただろうかと記憶を探ってみるが、それらしい人物には思い当たらなかった。
「それじゃあ、俺はこれで失礼します。御父上にもよろしくお伝えください」
「うむ、そちらもご当主殿によろしくな」
バロン先輩と握手を交わして、俺は3人に背中を向けた。
そのまま部屋を出ていって学生寮に戻ろうとする俺であったが、すぐさま呼び止められる。
「あのっ・・・!」
「ん?」
「な、ナーム!? 急にどうした!?」
大声で俺を呼び止めたのはまさかのナーム嬢であった。
いかにも内気そうな妹が大声を出したのがそんなに珍しかったのか、バロン先輩でさえ目を剥いて驚いている。
「あの・・・その・・・わ、わたし・・・!」
「あー・・・どうかしたかな?」
相手は子供。それも敬愛する先輩の妹である。俺は精一杯やさしげな顔を少女に近づけて、穏やかな口調で問いかける。
「はうっ・・・!」
なぜかナーム嬢が顔を真っ赤に染める。それは羞恥なのか、それとも違う感情なのか。それを判断することは初対面の俺にはできなかった。
「あらあら・・・そういうことなの」
「な、ナームはどうしたのだ!? まさかマクスウェルに何かされて・・・!」
「いいから、貴方は黙っていなさい。二人の邪魔をしない!」
俺に喰ってかかろうとするバロン先輩を、ニヤニヤと興味深そうに笑いながらカイロ嬢が止めている。
「お、お手紙を・・・書いてもいいですか。あなたに・・・」
そんな身内二人を置き去りにして、ナーム嬢は意を決したように切り出した。
その子供っぽい声音には必死そうな覚悟が込められていて、断られたら泣いてしまう空気をヒシヒシと放っている。
「手紙? もちろん、構わないけど」
「いっぱい、書きます・・・! 少しでいいから、お返事をください・・・!」
「んー・・・俺は筆不精だからマメには書けないかもしれないけど、たまにだったら返事を出せるかな?」
「はう・・・ありがとうございます!」
ナーム嬢は嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねて、すぐに自分の子供っぽい行動を恥じたらしく、カイロ嬢の背後に戻ってしまう。
その子供っぽい姿に、俺の脳裏に奇妙な既視感が浮かんでくる。
(この子・・・やっぱりどこかで・・・)
思い出せそうで、思い出せない。
痒い場所に手が届きそうなのに届かない、そんなもどかしさを感じながらも、俺は隠れるナーム嬢に手を差し出した。
「これからよろしくな。ナームちゃん?」
「あうっ・・・」
ナーム嬢は顔を隠したまま右手だけを出して、おずおずと俺の人差し指をつまんだ。
奥ゆかしくも微笑ましい姿に苦笑しながら、俺は文通相手となった少女と触れるような握手を交わした。
そして・・・それから2年後。
この文通をきっかけとして、俺は西方辺境で巻き起こる闘争と陰謀の渦に巻き込まれていくことになる。
西方国境を脅かすおぞましき『恐怖の軍勢』。
スフィンクス家を狙う、獅子身中の虫である辺境貴族。
そして・・・ナーム・スフィンクスと、正体不明の褐色美女。
その戦いの果てに何が待ち受けているのか。
それは神なからぬ人には、到底予想もできないことであった。
幕間 王都武術大会 完
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!