俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第4章 砂漠陰謀編

2.西方の黒獅子

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『恐怖の軍勢』。
 そう呼ばれることになる悍ましき死者の群れが地上に現れたのは今から百年前である。
 彼らが生まれる事になった経緯について歴史にはほとんど記されていない。なぜなら、恐るべき死者の群れの出現によって周辺の文明はことごとく飲み込まれて滅亡して、原因の究明はもちろん、歴史的な記述を残す暇さえなかったからである。
 一つ、わかっていることがあるとすれば、彼らが出現したのが砂漠の中心を流れる大河の流域からということである。

 当時、大河流域には一つの巨大国家が存在していた。
 周辺のオアシスにあった都市国家を支配していたその国の力は砂漠に及ぶものはなく、日が沈むことのない千年王国になると誰もが思っていた。

 しかし、破滅のときは突然やって来た。地獄から湧きだしてきたような死者の軍勢によってかの国は滅亡に追いやられたのだ。

 大国を滅ぼした『恐怖の軍勢』は勢いをとどまらせることなく周辺のオアシスへと押し寄せ、都市国家をことごとく飲み込んでいった。
 スフィンクス家の祖先にあたる者達のように、砂漠から逃げ出すことができた者達もわずかにいたが、ほとんどの人間は津波のように押し寄せる死者の大群に押しつぶされ、あるいは過酷な砂漠の旅に耐えることができずに涸れ果てた。

 砂漠の民のほとんどを死に追いやった『恐怖の軍勢』であったが、それでもまだ殺したりなかったのか逃げる人々を追いかけて東へと侵攻していった。
 やがて、『ランペルージ同盟』を名乗っていた小国へとたどり着いた『恐怖の軍勢』は、バアル帝国と並ぶ脅威として『同盟』と戦うことになったのである。



「はああああああっ!」

 バロンは裂帛の気合とともにシャムシールを叩きつける。必殺とも呼べる一撃であったが、目の前の怪物は右手に握った剣で受け止めた。

「愚カナ人間メ! 大人シク裁キヲ受ケ入レヨ!」

「黙るがいい、砂漠を汚す悪しき亡者め! 砂に還るがいい!」

 乾いた身体の死者が剣を振り、バロンも反撃をする。両者の間で激しく二本の剣がぶつかり合い、要塞の城壁に火花を散らせた。

 バロンが戦っているのは『恐怖の軍勢』の中でも『ロード級』と呼ばれる存在である。
『恐怖の軍勢』のほとんどは人間としての知恵も人格も持ってはおらず、本能の赴くままに生者を追いかけて貪り喰らうことしか考えていない。
 しかし、数千体に一体ほどの割合で生前の記憶や人格の一部を残している死者がいた。その多くは生前に何らかの偉業を打ち建てた達人や英雄であり、人類にとってはこの上のない脅威であった。

 目の前のロード級は2メートル近くの長身で、古代の神官が着るような白い僧服の上に軽鎧を身に着けている。服装からして神官兵士のように見える。

「なぜそこまでして人を憎む! 生を憎む! いったいこの国の人間がお前達に何をしたというのだ!?」

「黙レ黙レ黙レエエエエエエエッ! 貴様ラハ黙ッテ死ニ絶エレバイイ! 全テノ命ガ死ニ絶エルマデ、我ラガ主ノ怒リハ収マラヌ! 我ラモ解放サレナイノダ!」

 バロンの言葉を断ち切るように神官兵士が大上段に剣を振り上げる。水分の抜け落ちた両腕がミシリと鳴って、打ち下ろすような斬撃が放たれた。

「ハアッ!」

 岩をも両断するであろう渾身の一撃。バロンはそれはシャムシールの側面で受けて、鮮やかに受け流す。
 本来、曲刀という武器は湾曲した刃による『斬撃』に特化しており、防御には向いていない武器である。
 しかし、バロンは驚異的な動体視力で正確に相手の攻撃を見切り、寸分の狂いも許されない防御によって正確に攻撃を逸らしていた。

「グヌウッ!?」

「終わりだ!」

 必殺の一撃を避けられて隙だらけとなる僧兵。バロンはその横をすり抜けて、すれ違いざまにシャムシールを振り抜いた。
 曲刀が神官兵士の腹部を背骨ごと切り裂いて、乾いた肉体を上下に両断する。

「見事ナリッ・・・!」

 神官兵士は称賛の言葉を言い捨てて、瞬く間に砂に還っていった。
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