197 / 317
第4章 砂漠陰謀編
8.父、目覚める
そして、俺は10日の旅路の果てにマクスウェル辺境伯領へと到着した。
3ヵ月ぶりに帰還したマクスウェル家で待っていたのは当然のように熱烈な歓迎・・・ではなく、親父からの説教であった。
「お前は次期当主としての自覚がないのか? マクスウェル家を継ぐつもりがないのか? ならば今のうちにそう言ってくれ、本当に頼むから」
「いやー、家を継ぐつもりはあるし、良い当主になろうとは思ってるんだけどな」
「だったらそれを行動で示せ! 何ヵ月も無断で家を空ける後継ぎがいるか!?」
ダン、と親父はテーブルを叩き、口角泡を飛ばす勢いで怒鳴りつけた。怒気で真っ赤になった額にはくっきりと青筋が浮かんでおり、今にもテーブルを乗り越えてこちらに掴みかからんばかりである。
(あ・・・これ、やばいな。マジでキレてる)
さすがにこのままだと不味いと思った俺は、すかさず切り札の言葉を投入する。
「無断で帝国に行ったことは悪いと思ってる。だけど・・・そこから先はオフクロが原因だぜ?」
「む・・・」
オフクロ、グレイス・D・O・マクスウェルの名前を出されて、親父の表情がグニャリと歪む。妻を溺愛している親父にとって、その名前は急所といってもいいものである。
「俺が手助けしたおかげでオフクロも随分と助かったと思うけどな。敵対する海賊団を壊滅させたり、オフクロが斃さなければいけない宿敵を代わりに殺ってやったり」
「むう・・・そうか、いや・・・なるほど。確かに親孝行は大事だな」
親父の背後に燃え盛っていた怒りの炎が見る見るうちに鎮火されていく。俺はバレないように会心の笑みを浮かべて、ここぞとばかりにとどめの一撃を叩きこむ。
「ああ、忘れてた。オフクロから親父に預かり物をしてたんだった」
「なに!? さっさと寄こせ!?」
俺が荷物から包装された小包を取り出すと、親父はテーブルに身を乗り出して奪い取った。包装紙を破らないように丁寧に封を開けて、包まれていた平たい木箱を取り出した。
「おおっ・・・! これは上着か!」
箱から出てきたのは深緑色をした男性用の外套である。とある異国の民族衣装で「ミシュラー」と呼ばれるものである。
「もう秋だ。じきに外套が必要になるからな」
「うむうむ、やはりグレイスは気遣いができる素晴らしい女性だ!」
「そうか・・・いや、親父がそう思うのなら別にいいんだが」
あの狂母のどこが気遣いができるというのだろうか。
親父はホクホク顔で手に入れたばかりの上着を羽織り、まるでオシャレに目覚めたばかりの青少年のように鏡に全身を映してクルリと一回転する。
40になる男が恥ずかしげもなく鏡でポーズを決める姿にはかなり痛々しいものがあったが、悲しいことにそれは自分の父親であった。
それ以上は見ていられなくなり、俺は目頭を手で押さえて立ち上がった。
「・・・もう下がってもいいよな。長旅で疲れてるんだ」
「んー、いいぞー・・・んふふっ、ちょっと散歩にでも行こうかなー」
「・・・・・・」
俺はもう親父のほうを見ないようにして執務室の扉を開き、去り際にぽつりと尋ねる。
「そういえば、スフィンクス家への援軍の件はどうなった? 報告は行ってるよな?」
俺は南方辺境から戻ってくるに先立ち、待機していた『鋼牙』の密偵に命じて親父に手紙を届けさせていた。
鏡の前で怪しげなポーズをしていた親父はピタリと動きを止めて、扉の方へと向き直る。
「む・・・その事だったら、すでに王宮に軍を通らせてもらうよう打診している。まあ、難しいかもしれんが、軍の編成も並行してやっているから後で確認するように」
「そうさせてもらおう・・・あんまりハシャがないでくれよ、マジで」
用が済んだとばかりに鏡に向き直り、ニマニマと笑って頬を紅潮させる親父に言い残して、俺は執務室から早々と立ち去るのだった。
3ヵ月ぶりに帰還したマクスウェル家で待っていたのは当然のように熱烈な歓迎・・・ではなく、親父からの説教であった。
「お前は次期当主としての自覚がないのか? マクスウェル家を継ぐつもりがないのか? ならば今のうちにそう言ってくれ、本当に頼むから」
「いやー、家を継ぐつもりはあるし、良い当主になろうとは思ってるんだけどな」
「だったらそれを行動で示せ! 何ヵ月も無断で家を空ける後継ぎがいるか!?」
ダン、と親父はテーブルを叩き、口角泡を飛ばす勢いで怒鳴りつけた。怒気で真っ赤になった額にはくっきりと青筋が浮かんでおり、今にもテーブルを乗り越えてこちらに掴みかからんばかりである。
(あ・・・これ、やばいな。マジでキレてる)
さすがにこのままだと不味いと思った俺は、すかさず切り札の言葉を投入する。
「無断で帝国に行ったことは悪いと思ってる。だけど・・・そこから先はオフクロが原因だぜ?」
「む・・・」
オフクロ、グレイス・D・O・マクスウェルの名前を出されて、親父の表情がグニャリと歪む。妻を溺愛している親父にとって、その名前は急所といってもいいものである。
「俺が手助けしたおかげでオフクロも随分と助かったと思うけどな。敵対する海賊団を壊滅させたり、オフクロが斃さなければいけない宿敵を代わりに殺ってやったり」
「むう・・・そうか、いや・・・なるほど。確かに親孝行は大事だな」
親父の背後に燃え盛っていた怒りの炎が見る見るうちに鎮火されていく。俺はバレないように会心の笑みを浮かべて、ここぞとばかりにとどめの一撃を叩きこむ。
「ああ、忘れてた。オフクロから親父に預かり物をしてたんだった」
「なに!? さっさと寄こせ!?」
俺が荷物から包装された小包を取り出すと、親父はテーブルに身を乗り出して奪い取った。包装紙を破らないように丁寧に封を開けて、包まれていた平たい木箱を取り出した。
「おおっ・・・! これは上着か!」
箱から出てきたのは深緑色をした男性用の外套である。とある異国の民族衣装で「ミシュラー」と呼ばれるものである。
「もう秋だ。じきに外套が必要になるからな」
「うむうむ、やはりグレイスは気遣いができる素晴らしい女性だ!」
「そうか・・・いや、親父がそう思うのなら別にいいんだが」
あの狂母のどこが気遣いができるというのだろうか。
親父はホクホク顔で手に入れたばかりの上着を羽織り、まるでオシャレに目覚めたばかりの青少年のように鏡に全身を映してクルリと一回転する。
40になる男が恥ずかしげもなく鏡でポーズを決める姿にはかなり痛々しいものがあったが、悲しいことにそれは自分の父親であった。
それ以上は見ていられなくなり、俺は目頭を手で押さえて立ち上がった。
「・・・もう下がってもいいよな。長旅で疲れてるんだ」
「んー、いいぞー・・・んふふっ、ちょっと散歩にでも行こうかなー」
「・・・・・・」
俺はもう親父のほうを見ないようにして執務室の扉を開き、去り際にぽつりと尋ねる。
「そういえば、スフィンクス家への援軍の件はどうなった? 報告は行ってるよな?」
俺は南方辺境から戻ってくるに先立ち、待機していた『鋼牙』の密偵に命じて親父に手紙を届けさせていた。
鏡の前で怪しげなポーズをしていた親父はピタリと動きを止めて、扉の方へと向き直る。
「む・・・その事だったら、すでに王宮に軍を通らせてもらうよう打診している。まあ、難しいかもしれんが、軍の編成も並行してやっているから後で確認するように」
「そうさせてもらおう・・・あんまりハシャがないでくれよ、マジで」
用が済んだとばかりに鏡に向き直り、ニマニマと笑って頬を紅潮させる親父に言い残して、俺は執務室から早々と立ち去るのだった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!