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第4章 砂漠陰謀編
9.暗雲立つ返答
王宮に送った使者が戻ってくるまでの間、俺は辺境伯軍の編成や必要物資の購入に追われることになった。
今回の遠征はスフィンクス家からの要請によって行われるものであるため、当然ながら武器や兵糧はスフィンクス家が負担することになる。
だからといって敵軍に攻め込まれて壊滅の危機にある領地に全てを依存するわけにはいかない。ただでさえ戦場となるのはほとんど土地勘のない場所なのだ。憶病に思えるくらいに万全の準備を整えておくに越したことはない。
兵糧が尽きて友軍の領地から略奪を働く・・・そんな最悪の展開になってしまったら目も当てられない。
幸いなことにマクスウェル家はバアル帝国という敵国を長年抱えていたせいで、つねに兵站の備蓄には余念がない。兵士は金銭で雇っている職業軍人が中心なため、農繁期を間近に控えたこの時期でも出兵は難しくはなかった。
今回の遠征先は西方辺境。ほぼランペルージ王国を横断する距離を移動しなければならない。遠征部隊は騎兵を中心とした少数精鋭となる予定である。指揮は俺が任されることになっており、親父は領主としてマクスウェル家に残ることになっている。
俺は友人のラッド・イフリータやサーム・シルフィスを中心に遠征部隊を編成して、万全の準備の下に戦の準備を進めていった。
そして・・・全ての準備が整ってからしばらくして、ようやく王宮に送った使者が東方辺境へと戻ってきた。
使者から手渡された文書。王家の国璽が押された上質の羊皮紙に目を通して、牙を剥いて舌打ちをする。
「・・・王家の直轄領に軍を進めることはまかりならん、か」
そこに書かれていたのは、全ての準備を台無しにするような無残な言葉であった。
「つまり・・・遠征はとりやめになったのですか?」
「そういうことになるな。忌々しいことに」
王家からの文書を無造作に机に放り投げて、俺はどっかりと椅子に座った。あからさまに不機嫌な様子の俺を見て、専属メイドのエリザが困った表情を浮かべている。
エリザは紅茶を淹れる準備を始めるが、俺は手を振って必要ないことを告げ、無作法に両足を机に乗せた。
何度も足を組み替えてガタガタと机の天板を揺らすと、さすがに見ていられなくなったのかエリザがたしなめるように声をかけてくる。
「いい加減に機嫌を直してくださいな。坊ちゃま」
「別に怒ってない。これも予想の範疇だからな」
「だったら、どうしてそんなに怒っているんですか?」
エリザの問いに俺はフンッと鼻を鳴らした。
王家からしてみれば、サリヴァンの婚約破棄騒動で険悪な関係にあるマクスウェル辺境伯家軍が王国中央を横切るなど、とてもではないが放置できることではないだろう。
それは予想通り。
予想通りに、間抜けすぎる。
「だけど・・・ちょっとばかり、事態を甘く見てないかね? 王都の連中は」
王宮に送った使者が戻ってきたのは、軍の通行の許可を求めて2週間以上も経った後だった。外敵が国内に潜入しているというのに、ずいぶんと悠長な対応である。
どれだけの数の『恐怖の軍勢』が西方辺境に侵入したのかはわからないが、このままスフィンクス家が壊滅してしまえば真っ先にあおりを食らうのは王家と中央貴族である。
彼らは今が亡国の危機であることを理解していなかった。
(まあ・・・この辺りは俺に原因がなくはないんだが・・・)
こういった有事が発生した際、王宮内で真っ先に声を上げて危険を煽っているのは『武断派』と呼ばれる中央貴族である。
『富国強兵』を掲げる彼らは軍拡を声高に主張している。スフィンクス家が国境線を抜かれた現状は武断派にとって火に油を注ぐようなもので、彼らの主張を通す絶好の機会である
しかし、武断派はここ数年勢力を縮めており、王宮内では影のように息を潜めていた。
その原因となったのは、他でもないこの俺である。
(セイバールーンをとっちめてから、武断派はえらく発言権を弱めたからな。後継者のベナミス・セイバールーンにいたっては『昼行灯』なんて呼ばれて侮られているみたいだし・・・)
「それで・・・坊ちゃまはこれからどうするおつもりですか?」
物思いにふける俺をエリザの声が呼び戻す。
子供の頃から一緒だった年上のメイドは、俺の背中に回りいたわるように肩を撫でてくる。
「そうだな・・・」
俺は顎に手を当てて少しだけ考えてから口を開いた。
今回の遠征はスフィンクス家からの要請によって行われるものであるため、当然ながら武器や兵糧はスフィンクス家が負担することになる。
だからといって敵軍に攻め込まれて壊滅の危機にある領地に全てを依存するわけにはいかない。ただでさえ戦場となるのはほとんど土地勘のない場所なのだ。憶病に思えるくらいに万全の準備を整えておくに越したことはない。
兵糧が尽きて友軍の領地から略奪を働く・・・そんな最悪の展開になってしまったら目も当てられない。
幸いなことにマクスウェル家はバアル帝国という敵国を長年抱えていたせいで、つねに兵站の備蓄には余念がない。兵士は金銭で雇っている職業軍人が中心なため、農繁期を間近に控えたこの時期でも出兵は難しくはなかった。
今回の遠征先は西方辺境。ほぼランペルージ王国を横断する距離を移動しなければならない。遠征部隊は騎兵を中心とした少数精鋭となる予定である。指揮は俺が任されることになっており、親父は領主としてマクスウェル家に残ることになっている。
俺は友人のラッド・イフリータやサーム・シルフィスを中心に遠征部隊を編成して、万全の準備の下に戦の準備を進めていった。
そして・・・全ての準備が整ってからしばらくして、ようやく王宮に送った使者が東方辺境へと戻ってきた。
使者から手渡された文書。王家の国璽が押された上質の羊皮紙に目を通して、牙を剥いて舌打ちをする。
「・・・王家の直轄領に軍を進めることはまかりならん、か」
そこに書かれていたのは、全ての準備を台無しにするような無残な言葉であった。
「つまり・・・遠征はとりやめになったのですか?」
「そういうことになるな。忌々しいことに」
王家からの文書を無造作に机に放り投げて、俺はどっかりと椅子に座った。あからさまに不機嫌な様子の俺を見て、専属メイドのエリザが困った表情を浮かべている。
エリザは紅茶を淹れる準備を始めるが、俺は手を振って必要ないことを告げ、無作法に両足を机に乗せた。
何度も足を組み替えてガタガタと机の天板を揺らすと、さすがに見ていられなくなったのかエリザがたしなめるように声をかけてくる。
「いい加減に機嫌を直してくださいな。坊ちゃま」
「別に怒ってない。これも予想の範疇だからな」
「だったら、どうしてそんなに怒っているんですか?」
エリザの問いに俺はフンッと鼻を鳴らした。
王家からしてみれば、サリヴァンの婚約破棄騒動で険悪な関係にあるマクスウェル辺境伯家軍が王国中央を横切るなど、とてもではないが放置できることではないだろう。
それは予想通り。
予想通りに、間抜けすぎる。
「だけど・・・ちょっとばかり、事態を甘く見てないかね? 王都の連中は」
王宮に送った使者が戻ってきたのは、軍の通行の許可を求めて2週間以上も経った後だった。外敵が国内に潜入しているというのに、ずいぶんと悠長な対応である。
どれだけの数の『恐怖の軍勢』が西方辺境に侵入したのかはわからないが、このままスフィンクス家が壊滅してしまえば真っ先にあおりを食らうのは王家と中央貴族である。
彼らは今が亡国の危機であることを理解していなかった。
(まあ・・・この辺りは俺に原因がなくはないんだが・・・)
こういった有事が発生した際、王宮内で真っ先に声を上げて危険を煽っているのは『武断派』と呼ばれる中央貴族である。
『富国強兵』を掲げる彼らは軍拡を声高に主張している。スフィンクス家が国境線を抜かれた現状は武断派にとって火に油を注ぐようなもので、彼らの主張を通す絶好の機会である
しかし、武断派はここ数年勢力を縮めており、王宮内では影のように息を潜めていた。
その原因となったのは、他でもないこの俺である。
(セイバールーンをとっちめてから、武断派はえらく発言権を弱めたからな。後継者のベナミス・セイバールーンにいたっては『昼行灯』なんて呼ばれて侮られているみたいだし・・・)
「それで・・・坊ちゃまはこれからどうするおつもりですか?」
物思いにふける俺をエリザの声が呼び戻す。
子供の頃から一緒だった年上のメイドは、俺の背中に回りいたわるように肩を撫でてくる。
「そうだな・・・」
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