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第4章 砂漠陰謀編
14.膝枕と救いの手
あれから繰り返し王国中央に援軍を通す許可を求めたが、王都からの返答は一緒だった。軍を通すな、その一点張りである。
「何もしなくていい退屈な日々、か。意外と鬱陶しいもんだな」
俺はマクスウェル辺境伯邸にある自室のソファで横になりながら、ぼんやりとつぶやいた。
ここ数ヵ月はずっと忙しい日々が続いていたため、「戦わなくていい」などと急に言われてかえって拍子抜けしてしまった。
落ち着かない、時間と体力を持てあます日々が続いている。
「そんなに時間を持て余しているのでしたら、本当に神殿に行ってお祓いをしてきたらどうですか? 少しはモヤモヤも張れるんじゃないでしょうか?」
そんなふうに言ってきたのは、俺が愛用している枕である。
俺の専属メイドであり年上の愛人であるエリザがソファに座って膝枕をしてくれている。ムチッとした太ももの感触は心地の良いものであったが、俺の気持ちは不思議と晴れない。
焦りとも苛立ちともつかない感情が胸を渦巻き、チリチリと内側から火で炙られているような錯覚がする。
「・・・心配なんですね。あの文通相手の女の子のことが」
「む・・・」
俺はゴロリと寝返りを打って天井に頭を向ける。エリザの顔を見ようとするが、目の前に大きな二つの山が立ちふさがってその表情を窺うことはできなかった。仕方がなしに迫力満点の山を穴が開くほど観察する。
「ナームちゃんか・・・顔を合わせたことは片手の指の数にも満たないはずなんだが・・・妙に気になるというか、放っておけない気持ちにさせるんだよな。あの子は」
「まるで妹を思いやる兄のようですね。坊ちゃんが性欲抜きで女性を見るなんて珍しい」
「・・・お前は自分の主をウサギとでも勘違いしてないか? 俺だって年中発情しちゃいない」
「あら? その割には私の胸に夢中のようですけど?」
「・・・・・・」
俺は答えずに、また寝返りをうった。今度はエリザのお腹の側に顔を向けて、メイド服の布ごしにへその辺りに唇を寄せる。
「ひんっ・・・そんなところに息をかけられたら、くすぐったいんですけど?」
「・・・『鋼牙』からの報告によると、西方辺境は貴族達の足並みがそろっていないらしくて、徐々に東に防衛ラインを押し込まれているようだ」
「ふえ?」
お腹に顔を埋めながら話す俺の声に、エリザが首を傾げる気配がする。むずかるように身体を震わせる彼女に構わずに話を続ける。
「サンダーバード家から派遣された傭兵団もよく働いてはいるようだが、兵力が足りない。このままいくと領都テーベまでゴリ押しで踏み込まれるかもしれん」
「そうなったら西方辺境は・・・ナーム様も無事では済まないのでは?」
「先の見える当主であれば、取り返しのつかない事態になる前に他の町に避難させるはずだ・・・もっとも、守るべき領地を捨てた貴族に未来があるのかは保証できないけどな」
いくら弱腰のランペルージ王家といえども、自分の領地を捨てて逃げだした貴族に対して何の処分もしないとは思えない。
『恐怖の軍勢』が王国内部に踏み込んでしまったことも含めて、重大な処分が下るはずである。
「名誉ある戦いに命をささげるか、それとも毒の盃をあおることになるか、ナームちゃんが生き残れる未来は存在しない」
「・・・お可哀そうに。まだ12歳なのでしょう? どうにかならないのですか?」
「やっぱり、どうにかしてやりたいよな・・・ぷー!」
「ひゃうんっ!? ちょ、坊ちゃま!?」
俺は服ごしにエリザの臍へ息を吹きかけた。予想外の刺激にメイドの肩が跳ね上がり、豊かな胸部が上下に揺れる。
俺はそのまま勢いをつけてソファから起き上がった。窓辺に置かれている机まで歩いていき、一番上の引き出しを引く。
引き出しの中には複数の便箋がしまわれている。紅や藍で色づけされ、押し花まで貼り付けられたそれを手に取った。
「関係ないじゃないかと言われればそれまでだが・・・あの子をこのまま見捨てちまったら確実に後悔しちまう気がする。命にも等しい何かを失う気がする」
「坊ちゃま・・・それでは・・・」
「ああ」
俺は力強く頷き、まるでカードをかざすように人差し指と中指で便箋を挟んでかざす。
「ナームちゃんを救いに行く。男を知らないまま死ぬのは不幸だからな。あの子を清い身体のまま死なせやしない」
「・・・最後の言葉がなければ、とても男らしくて格好いいんですけどね」
呆れたように言いながらも、エリザは手間のかかる子供を見るような目で俺に微笑んだ。
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