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第4章 砂漠陰謀編
18.興奮冷めやらぬ夜半
暗い考えに支配されてすっかり食欲を失くしてしまった俺は、残った料理をベナミスに押し付けて席を立った。
テーブルに置かれた果実水のボトルを手に持ち、ゴクゴクと喉を鳴らして一気にあおる。
「ぷはっ! さて、そろそろ宿に戻らせてもらうか」
「あれ? もう帰るんですか。もっとディンギルさんと話したかったなあ」
「お互い、生きていればまたじっくり話す機会もあるだろう。その時は敵でなければいいんだけどな」
「あははは、物騒なこと言わないでくださいよー。本当に斬り合いすることになったらどうするんですか?」
「はっ、その時は全力でやらせてもらうさ。さて、ここのメシ代は・・・」
「ああ、構いませんよ。ここは僕に奢らせてください」
財布を取り出そうとする俺をベナミスが止める。
相変わらずの暢気な笑みを浮かべながら、ヒラヒラと手を振ってくる。
「食事に誘ったのは僕の方ですからね。ここは僕がもつのが礼儀というものでしょう」
「んー、でもなあ・・・」
「いいんですよ、ディンギルさん。貴方には貸しを作っておいたほうが、後から役に立つような気がしますから」
あくまでも自分が支払うことを譲らないベナミス。
落ち目になっているとはいえ、ベナミスはセイバールーン侯爵家の当主である。こんなレストランの食事代など何てことはないだろう。
ここはベナミスの顔を立てて、奢られてやることにした。
「そうかよ、ごちそうさん」
「ええ・・・西への旅は危険でしょうから、くれぐれも気をつけてください。せっかくできた友人を失うのは、僕も悲しいですから」
「ああ、勿論だ。そっちもせいぜい気をつけろよ? いつ中央に奴らがなだれ込むかなんて、誰にもわからないんだから」
「お心遣い感謝しますよ、それでは」
「ああ」
ベナミスと別れた俺は宿に戻り、濡らした布で軽く身体をふいてから布団にもぐりこんだ。
ランプの明かりを消してからも先ほどのベナミスとの会話が尾を引いており、なかなか寝つくことができなかった。
(中央貴族の筆頭であるロサイス公が西方辺境の滅亡を望んでいる。ひょっとしたら、要塞が突破されたのもあの御仁が糸を引いているのか? だとしたら、バロン先輩がやられたのにも納得がいくんだが・・・)
今回の一件はたんに外敵が侵入したというだけではなく、とんでもない陰謀が裏にあるのかもしれない。
これから俺は西方辺境に飛び込み、前方に『恐怖の軍勢』、後方に姿の見えない陰謀の主を敵として戦わなければいけない。
「まったく・・・一難去ってまた一難、ってやつか。いい加減にして欲しいぜ」
暗い天井を見上げて、俺は深々と溜息をついた。
今からでもマクスウェル家に帰ってしまおうか。そんな考えが頭によぎらないでもなかったが、瞼の裏にちらつく幼い少女の幻影が後ろ向きな考えを否定する。
(この陰謀の中心に近い場所に、ナームちゃんが取り込まれている。放って逃げるなんざ男のすることじゃないよな)
俺は唇を吊り上げて牙を剥き、ゆっくりと瞳を閉じる。
横になりながら考え事をしていたせいか、いつの間にか夜明けに近い時刻になっている。少しでも睡眠をとらなければ明日の行程に差し障るだろう。
じっと瞳を閉じていると、やがてさざ波のような眠気が押し寄せてきた。俺は逆らうことなく、その波に意識を任せる。
「望むところじゃないか。どいつもこいつも、残らず食い尽くしてやる。俺の女、いや、妹ポジションの子に手を出したことを後悔させてやる・・・」
俺はうわ言のようにつぶやきながら、眠りの海へと意識を沈めていくのであった。
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