俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
209 / 317
第4章 砂漠陰謀編

20.若き忍者の言うことにゃ

 数ヵ月ぶりに顔を合わせたオボロは変装のせいで汗をかいてしまった顔をパタパタと手で仰ぎ、ふー、と長く息を吐いた。

「南洋諸島から帰ってきているとは聞いていたが、すぐに西方とは忙しいのであるな! 何かに憑かれているのではないか?」

「気にしていることを言うなよ。それ、みんなに言われてんだぜ」

 俺は顔をしかめて言い返し、目の前に置かれた皿から肉をつまんで口に放り込む。塩と香辛料で味付けされた肉はスジが強くて少し硬めである。それでも奥歯で何度も噛み潰すと、徐々に口の中に肉の旨味がじんわりと広がっていく。
 ゴクリと喉を鳴らして肉を飲み込み、俺はオボロに問いかける。

「それで? 西方辺境の様子はどうなっている?」

 俺は西方辺境に旅立つにあたり、西方辺境に送り込んでいた『鋼牙』の密偵に連絡をしていた。ここでオボロが待ち構えていたということは、俺に報告することがあるということだろう。
 オボロも自分の皿に乗った肉を一口食べてから、口を開いた。

「うむ、西方辺境なのだが、どうやら二の砦まで突破されたようなのである。すでにスフィンクス辺境伯領の半分まで死者の軍勢に入り込まれており、このまま三の砦を突破されたら領都テーベまでたどり着いてしまうのである。領民は早めに避難させていたおかげで、人的被害はそれほど多くはなさそうであるが」

「絶体絶命・・・ギリギリのタイミングだったな。ナームちゃんとカイロ嬢は何をしている? もう避難したのか?」

「むむ・・・その二人だったら、今もテーベに居るようなのである」

「はあ?」

 オボロの言葉に、俺は思わず疑問の声を上げた。

「あの二人はどう考えても戦闘要員じゃないだろ。スフィンクス辺境伯は自分の一族の血を絶やす気かよ」

「それなのだが、どうやら複雑な事情があるようなのである」

 オボロは唇を引き締めて難しそうな顔をつくり、言葉を続けた。

「西方辺境はもともと二つの勢力の間で対立があって、そのせいで身動きが取れなくなっているようなのである」

 オボロの説明を要約すると、次のようになる。
 西方辺境には二つの民族が存在しており、辺境を縦に分けて西側に砂漠から移住してきた『黒』の異民族、東側にもともとこの地に住んでいた『白』の原住民族が暮らしていた。
 両者の仲は決して良いとはいえず、過去に幾度となく民族間の扮装や、暗殺、誘拐などの事件も生じていた。
 今回の『恐怖の軍勢』襲来でも東側の貴族はほとんど援軍を送っていないようであり、むしろ西側の異民族が苦しんでいるのを喜んでいる節もあるらしい。

「ご息女らを逃がすとなれば、東側に移さなければいけないのである。しかし、そうなれば・・・」

「信用できない連中に預けることになる、ってことか。なるほど、確かにそれは迂闊なことはできないよな」

 王都や北方、南方辺境に逃がすという手もなくはないのだろうが、信頼のおけない貴族が治める土地を通っての逃避行ともなれば護衛も必要になる。兵の一人も惜しい情勢下において、娘達を逃がすための兵力の余裕すらもないのだろう。

「それもあるようであるが、どうやら肝心の二人も逃げるつもりはないようなのである」

「逃げる気がない?」

「彼らは異民族なので西方辺境以外に居場所がないと思っているようである。どうせ他の地域に移り住んでも馴染めないので、生まれ育った地を死に場所に決めているのではないか?」

「おいおい、ふざけろよ!」

 俺はムカムカと胸に湧き上がる苛立ちに、皿の上の肉をつかんでまとめて口に放り込む。ゴリゴリと固い肉を噛み砕きながら感情のままに怒声を放つ。

「女が簡単に死ぬことを選んでんじゃねえよ! 戦場で死ぬのは俺達野郎の仕事だろうが!」

 別に女性を蔑視するつもりはない。グレイスやシャナのように男以上に強い女がいることも理解している。それでも、女性が無残に戦禍にさらされて散っていくのはどうしても許しがたいことである。

 ナームだってそうだ。彼女から送られてきた手紙には助けを求める言葉は一切書かれていなかった。
 助けてくれと言われれば助けるのに。逃げ出してきたのなら受け入れるのに。王宮がスフィンクス家に責任を取らせて処分しようとするのであれば、マクスウェル家の力を使って全力で護ってやるのに。どうして12歳の少女があっさりと死を受け入れなければいけないのだ。

「女が死ぬのはベッドの上だけで十分だぜ。ああ、クソ! イラついてきた!」

「わ、我に言われても困るのである! 言いたいことがあるのなら、二人に直接言えばよいのである!」

「そうしてやるさ! 一言いってやらなきゃ気が済まん!」

 俺は憤然と言い放ってゴロリとテントに横になった。
 助けてくれと言えないのなら、無理矢理にでも助けてくれよう。
 そのためにも、今は一分一秒でも長く休息をとって英気を養わなければならない。

「もう、寝るぞ! 明日中にはスフィンクス家に乗り込んでやる!」

「ほどほどにしておくのである・・・まったく、我が主は気分屋で困るのであるな」

 呆れたように愚痴を吐くオボロを無視して、俺は目を閉じた。

感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!