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第4章 砂漠陰謀編
21.西の都
翌朝、俺は通行税を支払って関所の門をくぐり、そこでオボロと別れた。
「それじゃあ、俺はこのままテーベに行ってスフィンクス辺境伯に会ってこよう。そちらも引き続き情報収集を頼む」
「承知したのである」
「『恐怖の軍勢』のこともそうだが、スフィンクス家と対立関係にある貴族のことも調べておいてくれ」
「むむっ? 何かあるのであるか?」
「ああ、たぶんな」
オボロの問いに俺は頷いた。
「どうも今回の一件は単純な外敵侵入で済まない気がする。陰謀というか、裏で動き回ってる連中の気配を感じる。死者共と一緒にネズミもまとめて始末したい」
「なるほど、任せておくのである。陰謀は我らの得意分野なのである!」
力強く頷いて、老人の姿に変装をしたオボロは関所のすぐそばにある町へと消えていった。俺は町に入ることなく、そのままテーベへと馬の轡を向けた。
「さて・・・今日も頼りにしてるぜ」
「ヒヒンッ!」
背中を撫でながら激励の言葉をかけると、黒毛の愛馬が頼もしく嘶いた。もう強行軍も3日目だというのに、不満を漏らすことなくまっすぐ西方へと駆けていく。
西に進むにつれて景色からは徐々に樹木が減っていき、丈の低い草原ばかりが目立つようになる。
天頂から降り注ぐ太陽も勢いを増していき、額から汗がにじんできた。
途中で一晩の野営をとり、翌日の昼には領都テーベに到着することができた。
「おおっ、こいつは見事だ・・・!」
見上げる都の姿に、俺は感嘆の溜息をついた。
その都は大きな湖の畔に山のようにそびえたっていた。
湖を背にした小高い丘に茶褐色の建物が隙間なく敷き詰められていて、下から見上げた姿は町というよりも山城のようである。
建物には穴のような窓が開けられており、穴の奥に住民の姿が見え隠れしていた。建物の間にはあちこちにロープが張られていて、生活感のある洗濯物がぶら下がっている。
レンガとは材質の違う砂のような色合いの壁にはところどころに意匠が彫られており、その黒ずんだ彫刻がこの都が大昔から存在することを言葉にすることなく物語っていた。
そのエキゾチックな街並みにしばし目を奪われ、ようやく俺は城門へと足を向けた。
都の東側にある門をくぐると、申し訳程度の検問が設置されていた。西から敵勢が押し寄せている情勢のためか町に入る人がほとんどいない。ロクに待たされることなく見張りの兵士の前に立たされた。
「珍しいな。こんな時期に旅人か? ここを訪れた目的はなんだ?」
「傭兵だよ。大きな戦いがあると聞いて、雇ってもらいに来た」
「ほう、それは助かるな! 入っていいぞ!」
兵士はサラサラと書類にペンを走らせ、すぐに俺を通してくれた。
どうやら傭兵や冒険者はすぐに町に入れるようにスフィンクス家からお達しがあったようだ。手間が省けるのは、俺としても助かるところである。
初めて訪れるテーベの都は町の所々に古い銅像や彫刻が立っている。それは剣を構えた英雄の姿であったり、牙を剥く獅子の姿であったり。幻想上の怪物の銅像まで立っている。
通りにはいくつか露店が並んでいたが、そこには不自然なほどに人の姿がなかった。果物を売っている店の店主に銀貨を握らせて事情を尋ねると、困り果てたような溜息が返ってきた。
「もうこの町の人の半分が東側に避難してしまったからねえ。すっかり活気がなくなっちまったよ」
「そういうアンタは逃げなくていいのかい? ここもじきに危ないんだろ?」
「俺はこの町の生まれだからな。いまさら行くとこなんてねえよ。いや、カカアとガキは知人に預けて逃がしてもらったから、あとは男の意地みたいなもんよ」
「意地、か。確かに簡単に捨てられるもんじゃねえよな。故郷ってのは」
「違いねえ」
店主は黒い肌の顔を手で掻きながら、果物を入れた麻袋を差し出してきた。
「傭兵さんも死なないように気をつけなよ。こっちの生まれじゃないんだろ。俺達に死ぬまで付き合うこたあねえよ」
「心遣い、感謝しよう。死ぬつもりはないから安心してくれ」
赤と黄色の珍しい色のフルーツを受け取り、俺は踵を返して石造りの道を歩き出した。
戦乱の影響は都に色濃い影を落としている。それでも前を向いて生きている人の姿に、俺は心の中で称賛の言葉を送った。
「それじゃあ、俺はこのままテーベに行ってスフィンクス辺境伯に会ってこよう。そちらも引き続き情報収集を頼む」
「承知したのである」
「『恐怖の軍勢』のこともそうだが、スフィンクス家と対立関係にある貴族のことも調べておいてくれ」
「むむっ? 何かあるのであるか?」
「ああ、たぶんな」
オボロの問いに俺は頷いた。
「どうも今回の一件は単純な外敵侵入で済まない気がする。陰謀というか、裏で動き回ってる連中の気配を感じる。死者共と一緒にネズミもまとめて始末したい」
「なるほど、任せておくのである。陰謀は我らの得意分野なのである!」
力強く頷いて、老人の姿に変装をしたオボロは関所のすぐそばにある町へと消えていった。俺は町に入ることなく、そのままテーベへと馬の轡を向けた。
「さて・・・今日も頼りにしてるぜ」
「ヒヒンッ!」
背中を撫でながら激励の言葉をかけると、黒毛の愛馬が頼もしく嘶いた。もう強行軍も3日目だというのに、不満を漏らすことなくまっすぐ西方へと駆けていく。
西に進むにつれて景色からは徐々に樹木が減っていき、丈の低い草原ばかりが目立つようになる。
天頂から降り注ぐ太陽も勢いを増していき、額から汗がにじんできた。
途中で一晩の野営をとり、翌日の昼には領都テーベに到着することができた。
「おおっ、こいつは見事だ・・・!」
見上げる都の姿に、俺は感嘆の溜息をついた。
その都は大きな湖の畔に山のようにそびえたっていた。
湖を背にした小高い丘に茶褐色の建物が隙間なく敷き詰められていて、下から見上げた姿は町というよりも山城のようである。
建物には穴のような窓が開けられており、穴の奥に住民の姿が見え隠れしていた。建物の間にはあちこちにロープが張られていて、生活感のある洗濯物がぶら下がっている。
レンガとは材質の違う砂のような色合いの壁にはところどころに意匠が彫られており、その黒ずんだ彫刻がこの都が大昔から存在することを言葉にすることなく物語っていた。
そのエキゾチックな街並みにしばし目を奪われ、ようやく俺は城門へと足を向けた。
都の東側にある門をくぐると、申し訳程度の検問が設置されていた。西から敵勢が押し寄せている情勢のためか町に入る人がほとんどいない。ロクに待たされることなく見張りの兵士の前に立たされた。
「珍しいな。こんな時期に旅人か? ここを訪れた目的はなんだ?」
「傭兵だよ。大きな戦いがあると聞いて、雇ってもらいに来た」
「ほう、それは助かるな! 入っていいぞ!」
兵士はサラサラと書類にペンを走らせ、すぐに俺を通してくれた。
どうやら傭兵や冒険者はすぐに町に入れるようにスフィンクス家からお達しがあったようだ。手間が省けるのは、俺としても助かるところである。
初めて訪れるテーベの都は町の所々に古い銅像や彫刻が立っている。それは剣を構えた英雄の姿であったり、牙を剥く獅子の姿であったり。幻想上の怪物の銅像まで立っている。
通りにはいくつか露店が並んでいたが、そこには不自然なほどに人の姿がなかった。果物を売っている店の店主に銀貨を握らせて事情を尋ねると、困り果てたような溜息が返ってきた。
「もうこの町の人の半分が東側に避難してしまったからねえ。すっかり活気がなくなっちまったよ」
「そういうアンタは逃げなくていいのかい? ここもじきに危ないんだろ?」
「俺はこの町の生まれだからな。いまさら行くとこなんてねえよ。いや、カカアとガキは知人に預けて逃がしてもらったから、あとは男の意地みたいなもんよ」
「意地、か。確かに簡単に捨てられるもんじゃねえよな。故郷ってのは」
「違いねえ」
店主は黒い肌の顔を手で掻きながら、果物を入れた麻袋を差し出してきた。
「傭兵さんも死なないように気をつけなよ。こっちの生まれじゃないんだろ。俺達に死ぬまで付き合うこたあねえよ」
「心遣い、感謝しよう。死ぬつもりはないから安心してくれ」
赤と黄色の珍しい色のフルーツを受け取り、俺は踵を返して石造りの道を歩き出した。
戦乱の影響は都に色濃い影を落としている。それでも前を向いて生きている人の姿に、俺は心の中で称賛の言葉を送った。
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