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第4章 砂漠陰謀編
29.釣りと狩り
それから数日後。俺は冒険者の寄せ集め部隊を率いて三の砦へと到着した。
砦の四方は死者の大群によって包囲されており、アリが潜り込む隙間もないような有様である。おおよその見立てになるが、あと半日も到着が遅くなれば砦は落ちてしまっただろう。かなりギリギリのタイミングである。
「前進! そのまま進め!」
『おお!』
「臆すんじゃねえぞ! ビビッて逃げ出すやつがいたら、そいつから先に切り刻んでやるからな!」
『おおっ!!』
怒声を上げて指示を出すと、背後から冒険者の頼もしい声が返ってくる。
ここにいる冒険者の数はおよそ三百。わずか数日の訓練であったが、その数日で泥沼のように濁っていた彼らの目は見違えるように輝きを取り戻していた。
冒険者達の瞳に浮かんでいるのは指揮官である俺への恐怖と信頼。そして、領都テーベとそこにいる二人の姫を守らんという強い意志である。
数日の訓練で植えつけられた「恐怖」と「情」と「欲」という3つの動機が彼らの心を突き動かし、明らかに自分達よりも数が多い『恐怖の軍勢』への突撃を可能とさせていた。
『オオオオオオオオオ!』
背後から急襲する俺達に気がつき、一部の死者がこちらに向きを変えて動き出した。
目算では砦を取り囲んでいる『恐怖の軍勢』は二千から三千ほど。ほとんどは砦の中の兵士に夢中で、こちらに気づいていないようである。こちらに迫ってくる死者はおよそ二百ほどだった。
「あれが噂のミイラどもか! ははっ、なかなかにおっかない顔をしてやがるじゃねえか!」
俺は牙を剥いて笑い、右手を振り上げて後方へと声を飛ばす。
「全員、反転! 反転だ!」
『おおっ!』
死者の軍勢とぶつかる寸前、俺達は弧を描くように部隊を反転させて後方へと逆戻りをした。
『オオオオ! オオオオオオッ!』
『恐怖の軍勢』が怒号を張り上げながら俺達の背中を追いかけてくる。
飛び込んでくるはずだった獲物を逃がしたのがよほど気に入らなかったのか、乾ききったミイラ達は上下の歯をガチガチとぶつけて威嚇をしている。
「釣れたのは二百ってとこか。結構、実に結構!」
俺は牙を剥いて笑いながら、再び指示を飛ばした。
「反転! 突っ込むぞ!」
『おおっ!』
俺達は再び弧を描いて部隊を反転させ、今度は背後を追いかけてきた死者の群れへと突撃した。
『うおおおおおおおおっ!!』
先頭に立って切り込むのは、もちろん俺である。
誰よりも素早く敵の中に飛び込んだ俺は、右手で素早く黒鋼の剣を抜き放った。
「【無敵鉄鋼】! 地獄に帰りやがれ!」
『オオオオオ・・・』
抜き手も見せぬ斬撃によって数体の死者が砂に還る。
魔法の力を無効化する【無敵鉄鋼】の力は死者の軍勢にとっても有効のようで、ミイラ達は黒鋼の刃がかすっただけでバラバラに砕け散っていく。
「俺に続け! ミイラどもに後れを取るな!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「軍曹殿に続けええええええ!」
俺が先頭になって突き崩した死者の軍勢へと、冒険者が剣や槍を叩きつけていく。
どうやら『恐怖の軍勢』は一体一体はそれほど強くもないらしく、俺の突撃で体勢を崩した状態ならば危なげなく倒すことができていた。
俺達を追いかけてきていた二百の死者の群れはことごとく砂に還り、風に乗ってサラサラと消えていった。
「よし! もう一度、釣りに行くぞ! 俺に続け!」
『おおおおっ!』
俺達は再び砦に向かって直進する。
砦に近づいていくと、こちらに気がついた死者の一部が再び俺達に向けて迫ってきた。
「よーし、反転だ!」
そして、俺も再び同じ指示を飛ばした。
釣りだした死者を率いてそのまま砦から離れていく。そして、ある程度距離を取ったところで背後の死者を潰して、再び砦に釣りに行く。
俺が三の砦を救うために考案した作戦。それは砦に張りついている『恐怖の軍勢』を少しずつ引き剥がして、各個撃破していくというものである。
『恐怖の軍勢』の最も厄介なところは、彼らが恐怖という感情を持たず、全滅するまで延々と戦い続けるところである。
元来、軍同士との戦いにおいてどちらかが死に絶えるまで戦い続けることなどほとんどない。
部隊の3割も失えば指揮系統はマヒしてしまい、5割になればもはやまともな戦闘は不可能になって降伏か撤退しかありえなくなる。
たとえ指揮官が敗北を認めずに抗戦を命じたとしても、兵士は命令を無視して逃げ出していき、まともに戦うどころではなくなってしまうはずだ。
しかし、そんな兵法における常識は『恐怖の軍勢』には通用しない。
彼らには理性というものがなく、恐怖という感情すらも持ってはいない。
たとえいくら軍勢を失うことになろうと、最後の一兵が死に絶えるまで戦い続けるだろう。
(だからこそ、そこに付け入る隙がある。連中の強みが理性を持たないことならば、弱点もまた理性を持たないことだ)
『恐怖の軍勢』は理性を持たず、敵を恐れないがゆえに罠や策略について全くと言っていいほどに耐性がなかった。
現に、俺達が同じ罠を繰り返しているにも拘らず、彼らは学習もせずにその罠へと飛び込んでくる。
『生きとし生けるものを狩る』という彼らの本能のままに俺達の背中を追いかけてきて本隊から切り離され、寡兵となったところで潰されてしまう。
「さて・・・もう少し削ぎ落とさせてもらうぜ。戦は数じゃないってことを教えてやるよ!」
俺達は何度かその作業を繰り返して、砦を囲んでいる『恐怖の軍勢』の2割ほどを削り取ったのであった。
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