俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第4章 砂漠陰謀編

35.密偵(妹)の叱責

 身内びいきをするつもりはないが、俺の配下である『鋼牙』はかなり優秀な諜報機関だ。その実力はランペルージ王国どころか、大陸全土でも一、二を争うほどであろう。
 正体不明の隠密集団として、おとぎ話にすらなっている彼らの尾行を撒くことができる者がいるとは意外であった。

「尾行した部下の話では、その男・・・いや、性別はわからないのであるが、その人物は黒いフードを深々と被っていて顔は見ることができず、路地裏に入り込んだところで忽然と姿を消してしまったようなのである」

「姿を消した・・・?」

「まるで闇に溶けてしまったようだった・・・というのが、尾行した者の言い分なのである」

 俺は腕を組み、ソファの背もたれに体重を預けて考え込んだ。

(姿を消した・・・『鋼牙』の連中にも気取られないほどのスピードで走り去っていったのか、それとも魔具を使って消え失せたのか。転移能力を持つ道具か、もしくは姿そのものを消してしまうものか?)

「要するに・・・マッサーブ子爵がなんらかの陰謀を企ててたという確たる証拠はないわけだ」

「面目ないのである」

「いや、構わん。このまま簡単には終わらないとは覚悟していたからな」

 そこで、カチャリと音を立ててテーブルにティーカップが並べられた。俺の前に一つ、オボロの前に一つ。俺の前にはミルクを注がれて白く染まった紅茶が淹れられている。

「考え事をするときには甘い物が良いですよ。ミルクティーをどうぞ」

「悪いな、サクヤ」

 紅茶を俺達の前においてくれたのは、数日前に合流した俺の専属メイド。オボロの妹であり、『鋼牙』に所属する黒髪の少女・サクヤであった。
 俺は甘い香りがするミルクティーを一口飲んで、ふう、と溜息をついた。

「うむ、美味い。なかなか上達したじゃないか」

「はい、エリザさんに教えてもらいました」

 出会ったばかりの頃は毒の調合くらいしかできなかった暗殺者の彼女も、今ではこうして俺好みの紅茶を淹れられるまでにメイドとして成長した。
 俺は感慨深げに頷きながら紅茶を楽しみ、リラックスして頬を緩めた。

「むむっ・・・我のものにはミルクが入っていないのである! サクヤ、我のにも入れるのである!」

 自分の前に置かれたティーカップを睨みつけ、オボロが不満そうに唇を尖らせた。

「仕方がありませんね。どうぞ」

「うむ、有難いのである!」

 サクヤが小さなポットから白い液体を注ぐと、オボロは嬉しそうに鼻を膨らませてティーカップを手に取った。
 ほのかに湯気を上げる液体を嬉々として口に含み、ブバッと吐きだした。

「グブアアアアアアアアッ!?」

「うわっ、汚ねえっ!」

 俺は慌てて身体を伏せてオボロの噴き出した液体を避ける。液体を吐き出したオボロはソファから床に崩れ落ちて、ピクピクと小刻みに痙攣している。

「ど、毒なのである・・・! 若殿・・・!」

「あなたのものにしか入っていないので大丈夫ですよ。兄上」

「さ、サクヤ・・・!?」

 床に倒れる兄を冷たく見下ろし、サクヤが地獄から響いてくるような底冷えのする声で言った。

「ディンギル様のご命令を失敗しておいて、なにをいけしゃあしゃあと紅茶を飲んでいやがるんですか。失敗をしたというのなら、指の一本でも落としてきて責任を取りなさい」

「尾行を失敗したのは我ではないのであるっ・・・!」

「部下の責任はあなたの責任でしょうが。小賢しいことを言っていると潰して使えなくしますよ?」

「なにを潰すのであるかっ!?」

 サクヤが靴のつま先で兄の額をグリグリと踏みにじる。毒を飲まされたオボロは痺れた体を痙攣させて、されるがままに家庭内暴力ドメスティックバイオレンスを受け入れている。

「いやあ、美味い紅茶だ」

 俺はそんな微笑ましい兄妹喧嘩を見ないふりして、のんびりとつぶやきながら紅茶を口に含んだ。
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