232 / 317
第4章 砂漠陰謀編
43.乾いた肉体、腐った信念
「ハアッ!」
「ふっ! ぬるいわ!」
裂帛の気合いとともに剣を振る。
抜き身も見せぬ神速の斬撃であったが、バロンは容易くその一撃を受け止める。
剣を弾かれ、俺は一歩後退した。しかし、攻め手を休めるつもりはない。姿勢を低くして、腰を回転させながら横凪ぎに斬撃を見舞う。
腰を背骨ごと両断するであろう攻撃であったが、バロンはそれを曲刀の腹で受け流した。
「視えているぞ! ディンギル・マクスウェル!」
「そうかよ・・・ハアアアアアアッ!!」
バロンに反撃の隙は与えない。右、左、上、下。休むことなく無数の斬撃を放った。
ある時は全開で殺気をぶつけ、ある時は殺意を隠して影のように斬りつける。幾重ものフェイントを織り込み、ひたすらにミイラとなったバロンを攻め立てる。
「ふ、くくっ、ハハハハハッ!」
しかし、俺の斬撃をバロンは神業じみた剣捌きで受け続ける。
口元に愉悦の笑みを浮かべ、余裕綽々といった様子である。
「ふはっ、アハハハハハハハ!」
全ての攻撃を見切られている俺もまた、いつしか大声で笑っていた。
薄暗い部屋の中、二人の男が笑いながら剣をぶつけ合う。
数分か、あるいはほんの数秒だったのかもしれない。
やがて俺達は、お互いの間合いの外で剣を構えて睨み合っていた。
「腕は衰えていないようだな・・・さすがは我が好敵手よ!」
「そちらも相も変わらず堅い剣。石頭は一度死んだくらいじゃ治らなかったみたいですね。バロン先輩」
賞賛に皮肉で応えて、俺は剣先を下げて床に向ける。
目の前の相手は斬り捨てるべき敵である。それでも、斬る前に聞いておくことがある。
「いったい、なんでまたそんな有様になっているんですか? ずいぶんと大胆なイメチェンじゃあないですか」
俺の問いかけに、バロンは乾ききった顔面を嘲りに歪ませる。
「くくくっ、醜くなったと思っているのだろうな、女王陛下より与えられたこの肉体を」
「・・・女王陛下?」
「冥府に落ちた私を拾い上げ、この素晴らしい身体を与えてくださったお方だ!」
バロンの言葉に、俺は目を細めた。
その言葉を信じるのであれば、『恐怖の軍勢』を生み出している存在がいるということになる。
(先輩をこんな姿にしたのも、その『女王』とやらなのか・・・?)
思考をめぐらしながら、俺はさらなる情報を引き出すべく言葉を続ける。
「へえ、その愉快な脳ミソも女王とやらからいただいたんですか? えらくご執心ですね、女王陛下とやらに」
「私はともかく、女王を侮辱するのは許さない! あのお方はこの不平等な世界を変えてくださる人。生きとし生ける全ての者に公平な死をもたらす、偉大なる統治者だ!」
「・・・公平ということは、先輩の妹や婚約者も殺すということですよね? その意味がわかっておっしゃっているのですか?」
「当然だ!」
間髪入れず、バロンは断言した。
「ナームやミストも死者の群に入れてくださるというのなら、こんなに素晴らしいことはない! 永遠に終わることない、寿命という括りすらも超えた千年王国! 悠久に続く楽園に招かれるのだぞ! なんと誉れ高き光栄よ!」
「もういい・・・もう喋るな」
俺は吐き捨てるように言って、床に向けていた切っ先をふたたびバロンに向ける。
鋭い視線で睨みつけ、目の前の男を討ち滅ぼすべき敵として定める。
「剣筋はバロン先輩のまま・・・だけど、頭の中はすっかり乾ききって干物になってしまったみたいですね。今の貴方を見ていると、ちょっとばかりイラついてくる」
「・・・そうか、貴様ならば私の理想を、女王陛下の創る世界の素晴らしさを理解できると思ったのだがな。私の買いかぶりだったようだ」
バロンもまた曲刀を構えて、残念そうに首を振った。
「女王陛下から与えられたこの肉体・・・しょせんは生者でしかない貴様に破れるものではないぞ!」
バロンが床を蹴り、俺に飛びかかってくる。
怪鳥のごとく宙を舞う男の攻撃を、俺は真っ向から迎え撃った。
「ふっ! ぬるいわ!」
裂帛の気合いとともに剣を振る。
抜き身も見せぬ神速の斬撃であったが、バロンは容易くその一撃を受け止める。
剣を弾かれ、俺は一歩後退した。しかし、攻め手を休めるつもりはない。姿勢を低くして、腰を回転させながら横凪ぎに斬撃を見舞う。
腰を背骨ごと両断するであろう攻撃であったが、バロンはそれを曲刀の腹で受け流した。
「視えているぞ! ディンギル・マクスウェル!」
「そうかよ・・・ハアアアアアアッ!!」
バロンに反撃の隙は与えない。右、左、上、下。休むことなく無数の斬撃を放った。
ある時は全開で殺気をぶつけ、ある時は殺意を隠して影のように斬りつける。幾重ものフェイントを織り込み、ひたすらにミイラとなったバロンを攻め立てる。
「ふ、くくっ、ハハハハハッ!」
しかし、俺の斬撃をバロンは神業じみた剣捌きで受け続ける。
口元に愉悦の笑みを浮かべ、余裕綽々といった様子である。
「ふはっ、アハハハハハハハ!」
全ての攻撃を見切られている俺もまた、いつしか大声で笑っていた。
薄暗い部屋の中、二人の男が笑いながら剣をぶつけ合う。
数分か、あるいはほんの数秒だったのかもしれない。
やがて俺達は、お互いの間合いの外で剣を構えて睨み合っていた。
「腕は衰えていないようだな・・・さすがは我が好敵手よ!」
「そちらも相も変わらず堅い剣。石頭は一度死んだくらいじゃ治らなかったみたいですね。バロン先輩」
賞賛に皮肉で応えて、俺は剣先を下げて床に向ける。
目の前の相手は斬り捨てるべき敵である。それでも、斬る前に聞いておくことがある。
「いったい、なんでまたそんな有様になっているんですか? ずいぶんと大胆なイメチェンじゃあないですか」
俺の問いかけに、バロンは乾ききった顔面を嘲りに歪ませる。
「くくくっ、醜くなったと思っているのだろうな、女王陛下より与えられたこの肉体を」
「・・・女王陛下?」
「冥府に落ちた私を拾い上げ、この素晴らしい身体を与えてくださったお方だ!」
バロンの言葉に、俺は目を細めた。
その言葉を信じるのであれば、『恐怖の軍勢』を生み出している存在がいるということになる。
(先輩をこんな姿にしたのも、その『女王』とやらなのか・・・?)
思考をめぐらしながら、俺はさらなる情報を引き出すべく言葉を続ける。
「へえ、その愉快な脳ミソも女王とやらからいただいたんですか? えらくご執心ですね、女王陛下とやらに」
「私はともかく、女王を侮辱するのは許さない! あのお方はこの不平等な世界を変えてくださる人。生きとし生ける全ての者に公平な死をもたらす、偉大なる統治者だ!」
「・・・公平ということは、先輩の妹や婚約者も殺すということですよね? その意味がわかっておっしゃっているのですか?」
「当然だ!」
間髪入れず、バロンは断言した。
「ナームやミストも死者の群に入れてくださるというのなら、こんなに素晴らしいことはない! 永遠に終わることない、寿命という括りすらも超えた千年王国! 悠久に続く楽園に招かれるのだぞ! なんと誉れ高き光栄よ!」
「もういい・・・もう喋るな」
俺は吐き捨てるように言って、床に向けていた切っ先をふたたびバロンに向ける。
鋭い視線で睨みつけ、目の前の男を討ち滅ぼすべき敵として定める。
「剣筋はバロン先輩のまま・・・だけど、頭の中はすっかり乾ききって干物になってしまったみたいですね。今の貴方を見ていると、ちょっとばかりイラついてくる」
「・・・そうか、貴様ならば私の理想を、女王陛下の創る世界の素晴らしさを理解できると思ったのだがな。私の買いかぶりだったようだ」
バロンもまた曲刀を構えて、残念そうに首を振った。
「女王陛下から与えられたこの肉体・・・しょせんは生者でしかない貴様に破れるものではないぞ!」
バロンが床を蹴り、俺に飛びかかってくる。
怪鳥のごとく宙を舞う男の攻撃を、俺は真っ向から迎え撃った。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!