俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第4章 砂漠陰謀編

53.神託の女王


 ジャスワント王国の中心。国全体を一望できる場所に私とアムストラホテプが仕えている神殿は立っていた。
 数えられないほど無数の石を積み上げて建てられた三角の建築物は、はるか昔からこの国を見守っている。
 神が造ったと伝承される神殿の前には人だかりができていた。その多くは神官や兵士だが、神兵の消滅という異常事態に押し寄せてきた一般人もいるようだった。
 人だかりの中から、見知った顔が私を見つけて近寄ってきた。

「ティナ、遅い!」

「ご、ごめんね! 寝坊しちゃって・・・」

「いいから急いで! 大神官様が大事な話があるって!」

 予定よりもだいぶ遅刻して神殿にたどり着いた私は、同じ神官見習いの友人につかまって神殿の奥へと引きずられていった。
 少し離れた場所でアムストラホテプが上官らしき兵士と話しているのを横目に見つつ、私は友人の後を続いていく。
 そのまま連れていかれたのは『祈りの間』と呼んでいる部屋。そこには私以外の神官見習いはもちろん、普段は神殿の奥にこもって人前に出ることもない上級神官までそろっていた。

「どうしてこんなに・・・なにかあったの?」

 私の頭の奥で先ほど神兵が砂になって崩れた光景が思い返される。ふつふつと嫌な予感がわいてきて、落ち着かない気分になってしまった。

「私も詳しくは知らないけど・・・大神官様からお話があるみたいよ」

 友人がそう口にしたところで、『祈りの間』の奥に設置された金属の扉が厳かに開かれた。
 大きな扉の向こう側から現れたのは、白い髪を背中にくくった老婆の姿である。

「大神官様・・・」

 現れた老婆の姿に、私は思わず息を飲んだ。
 神殿の頂点に立ち、女王様のもっとも傍に仕えることを許された彼女は、特別な祭典以外では私達の前に現れることはまずない人物であった。
 そんな大物の登場に、神官服を着た背中に暑さとは別種の汗がにじんでくる。

「皆、よくぞ集まってくれた」

 落ち着いた、地の底から響いてくるような低い声で大神官様が口を開いた。周囲の神官達が両手を胸の前で組み、頭を下げて膝をつく。
 私も慌てて床に膝を落とし、深々とお辞儀をした。

「今日は定例の祈りの日であったが、予定を変更して皆に大事な話をさせてもらう・・・先ほど、我らが女王陛下が身罷られた」

「え・・・?」

 大神官様の口から放たれた言葉に、私は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
 無礼になると慌てて口に手をあててふさぐが、他の神官達からもいっせいにざわめきの声が上がったおかげで、誰からも見咎められることはなかった。
 小さなざわめきはたちまち大きな喧騒へと変わり、『祈りの間』は混乱と疑問の坩堝となった。
 それも無理はないだろう。
 この国にとって女王様とは、たんなる国家元首という意味ではないのだ。
 女王様は神と通じ、その力を下賜されたお方。神兵を召喚してこのジャスワント王国を守護してくださっている守り神だ。
 そのお方の死は、この国の破滅を意味している。女王の死を聞いた周辺のオアシス国家はこぞってこの国を攻めてきて、広大な大河を奪い取ろうとするだろう。

「そ、それじゃあ我々はどうすればよいのですか!? なにとぞ、なにとぞ我らに道を示してくださいっ!」

 神官の一人が耐えきれないとばかりに声を張り上げた。
 普段であれば大神官様への無礼として取り押さえられるような行為であったが、今は誰一人としてそれを責める者はいない。
 彼の言葉は、ここにいる全員の内心を代弁したものなのだから当然である。

「安心せよ、すでに救いの光は見えている」

 神官の悲痛な叫びを受けた大神官様が、ヴェールの向こうでしわくちゃの顔をほころばせた。
 ここにいる全員を安心させるような余裕たっぷりの表情に、神官達の喧騒が静まっていく。

「女王陛下は冥府へと旅立たれた。しかし、すでに次の女王の名は神より告げられている。これより、我らは新たな女王へと仕え、そのお力によってこの国を守っていく」

 この国の女王は他の国がそうであるように世襲ではなく、神託によって決められている。
 神の力を授かり、神兵を呼び出すことができるようになったお方が女王となるのだ。

「これより、この場を借りて新たなる女王の名を告げる! 神託によって選定された新たな女王の名は・・・」

「・・・・・・」

 部屋全体が静まり返り、誰もが呼吸すらも堪えて大神官様の言葉に聞き入っている。私もまた固唾を飲んでその言葉の続きを待った。

「見習い神官、ネフェルティナである!」

「え・・・」

 大神官様の宣言を受けて、部屋中の視線が私に集まった。
 数十、数百の視線を受けて、私は現実を受け止めきれずにペタリと床に座り込んだ。

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