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第4章 砂漠陰謀編
68.剣聖の憂鬱
side ベナミス・セイバールーン
「あーあ、本当におっそろしい人だなあ」
僕の名前はベナミス・セイバールーン。
セイバールーン侯爵家の現・当主であり、王家剣術指南役、通称『剣聖』と呼ばれている剣士である。
ディンギル・マクスウェルとの戦闘を経て、僕の身体は致命傷の傷を負っていた。
あの男が放った最後の一撃はあまりにも強力で、身代わりの力を持つ御守りを使用してもなお完全にダメージを消し去ることはできなかった。
死の一歩手前というほどの傷を負うことになってしまった僕は、【霊薬魔具】を飲んで傷を癒しながら、逃げ込んだ森の中へと腰を落ち着けていた。
「これだから運命に名前が載っていない人は嫌なんだ。先が読めなくっていけない」
僕は重い右手を挙げて左手の下に添える。すると左目の瞳が金色に染められ、虹彩に時計の針のような文様が刻まれた。
これこそが僕の切り札。帝国が所有していた【雷帝神槌】と並ぶ神器の格を持った一品。未来視、過去視の能力を持った魔具【時空隠者】である。
僕はこの魔眼の力をもって様々な魔具を収集し、そして、とある『破滅の未来』を回避することを目的として行動していた。
「やれやれ、ディンギルさんのせいで失敗しちゃったよ・・・どうしてあの人の未来は視ることができないのかな」
未来予知をすることができる【時空隠者】であったが、なぜか映し出された未来にディンギル・マクスウェルという人物は存在しなかった。
彼が運命の神に存在を認められていないのか、それとも存在自体が神々にとってのイレギュラーなのか。
ディンギルさんが関わると、僕が予知した未来は狂いっぱなしだった。
「さて・・・気が重い報告といこうかな」
僕はズボンのポケットから新たな魔具を取り出した。
虹色にペイントされた卵型の宝珠へと唇を寄せて、恋人にささやくような声音で呼びかける。
「こちらベナミス。我らが愛しいお姫様、聞こえますかー?」
『・・・どうかしたのかしら? セイバールーン卿』
少しだけ時間をおいて、宝珠から声が返ってきた。
この魔具の名前は【遠近声鳥】。
二つで対になる魔具であり、お互いを持つ者同士で離れた場所から会話することができる力を持っている。
『定時連絡の時間には遅すぎるのだけど・・・夜更かしは肌に悪いのよ?』
「それは申し訳ないね。お姫様」
【遠近声鳥】から聞こえてくる不機嫌そうな声に苦笑を返して、僕は本題を切り出した。
「西方辺境を起点にした貴女の計画だけれど、どうやら失敗に終わったみたいですよ。『恐怖の軍勢』は撃退されて、ナーヒブ・マッサーブも死んでしまった」
『・・・なんですって?』
タダでさえ不機嫌そうな声が、さらに数段階低いものへと変わった。
直接、会わなくとも彼女がどれほど怒りに顔を歪めているのかが想像できるような声色である。
『ギザ要塞は計画通りに落とされたのよね? どうして、いまさら失敗してしまったのかしら?』
「んー・・・マクスウェル家の嫡男さんが援軍に来てしまいまして。彼の活躍で『恐怖の軍勢』が撃退されたみたいですよ?」
『またあの男・・・!』
さも他人事のように告げると、魔具の向こうからバリンとなにかが割れるような音がした。怒りに任せてグラスとかを叩き割ってしまったのかもしれない。
『どうして私の人生の邪魔ばかり・・・あの男さえいなかったら・・・』
「・・・・・・」
魔具越しにぶつぶつと怨嗟の言葉が聞こえてくる。
僕はあえて耳をふさぐことなくお姫様の愚痴に付き合い、冷静さを取り戻してきたタイミングでフォローを入れる。
「まあ、それでも時間は稼げたんじゃないですか? これでしばらくはスフィンクス家は復興に従事することになるでしょうし」
『・・・そうだといいのだけれど。やはりマクスウェル家との決戦は避けられないようね』
「・・・できれば、ディンギルさんとは戦いたくないですね。殺されちゃいますから」
『そうね・・・バロン・スフィンクスのように戦わずに謀殺できればそれに越したことはないのだけれど・・・』
宝珠の向こうから考え込むような空気が伝わってくる。
しばしの沈黙の後、ようやくお姫様が支持を伝えてくる。
『いいわ。このまま西方辺境からは手を引きます。貴方も引き上げなさい』
「了解。このまま王都に帰りますよ」
『追って指示を出します。それまでに傷を治しておくように』
「ありゃ、ケガをしてたの気づいてましたか?」
『当然です。声を聞けば貴方の体調ぐらいわかりますよ』
言って、ブツリと向こうから通話を切られた。僕は声を閉ざした宝珠をしばらく眺めて、ふっと息をついた。
「頑張るなあ、我らのお姫様も」
手の中で宝珠を転がしながら、上空に目を向ける。空には雲一つなく月が煌煌と輝いている。
それはまるで、すべての陰謀を振り払って生き残った西方辺境とスフィンクス家を象徴しているかのように見えた。
「でも・・・そんなことは無駄なんだけどねえ」
僕は輝く月に向けて、ポツリとつぶやいた。
「どうせ最後にはみんな破滅しちゃうんだから。ディンギルさんやお姫様がなにをしたって意味がないのに」
未来を見晴るかす金色の眼差しで夜空を見上げて、僕はうんざりと首を振った。
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