俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
267 / 317
幕間 花咲く乙女

帝国の赤き薔薇②

「それでは、次の議題に移らせていだたきます。先の動乱によって荒廃した地域の復興についてです」

 女官が書類の束をめくり、固い声で次の議題を読み上げる。
 続いて提示された議題は、『偽帝』グリード・バアルの圧政によって荒廃した地域の復興についてである。

「王都周辺、西部、南部については比較的被害が軽微で順調に復興が進められています。しかし、北部と東部では依然として人々の生活は貧しく、農地の荒れようも顕著にみられます。それらの地域への追加の復興費用についてですが・・・」

「必要あるまい。追加の予算など回してやることはない。そんな余裕があるのならば、王宮の再建に回すべきだな」

 女官の言葉を断ち切って、ぽっちゃりとした体つきの男が口を挟んできた。
 貴族然とした豪華な衣装を身に着けた男の名前はサーグ・ダゴン。帝国において侯爵の爵位を与えられており、かつてグリード・バアルに仕えていた臣下の一人である。
 グリードの失脚後、なんとか恩赦を勝ち取ったダゴンは、中央の有力者の一人として女帝・ルクセリアに仕えていた。

「地方の復興といっても、被害を受けた大半は隣国の軍を呼び込んだ『逆臣』であるスロウス殿下、そして帝国に混乱をもたらした『偽帝』グリード殿下が治めていた領地。特別に費用を捻出してまで復興しなければならない土地ではありますまい」

 いけしゃあしゃあと自分の考えを開陳するダゴンに、会議室に居並ぶ面々から集まる視線は二種類。
 もっともだとばかりに頷く同意の視線と、「お前が人のことを言えるのか?」と白い目で見る非難の視線である。

 ダゴンはかつてグリード・バアルに仕えており、かの偽帝が神器の力で強引に玉座についた時にもゴマを擦って取り入っていた一人である。
 すべては偽帝の責任であるとルクセリアが恩赦を出したおかげでこの場にいることが許されているが、その蝙蝠のような変わり身は一部の者から嘲弄の対象となっていた。

「それは如何なものだろうか、ダゴン卿」

 真っ先に口を開いて苦言を呈したのは、ルクセリアの側近であるサラザール元帥である。かつては近衛騎士団長であったその男は、今では元帥として騎士団を含めた軍の頂点に立っていた。

「いかに帝国に背いたお二人の領地はいえ、今は他の者が管理を任されている立派な帝国領だ。そこに住む領民にもまた罪はない。見捨てるのは道理に外れていると思うが」

 ルクセリアに最も近しい側近であるサラザールの言葉はあまりにも重く、ダゴンに同意していた者達の顔も苦々しいものに変わっていく。
 しかし、ダゴンは不愉快そうに鼻を鳴らすと、嘲るような目を元帥に向ける。

「おやおや、忠臣であるサラザール卿とは思えない発言ですなあ。ルクセリア陛下を侮っているように聞こえますぞ?」

「・・・どういう意味だ?」

「私は別に辺境の民を見殺しにするのが正しい、などと言っているわけではありません。あくまで、物事には優先順位があると申し上げているだけですよ」

 ダゴンは会議室の奥に座るルクセリアへと目を向け、立ち上がって芝居じみたお辞儀をする。

「現在、我々が最優先に考えるべきは、偉大なる皇帝陛下の権威をより高めること。そのためには、皇族の象徴でもある宮廷の立て直しが急務であるというだけです。ただでさえ先の動乱によって人心は離れつつあるのです。王宮の再建によって皇族の力が健在であることを示し、再び国をまとめ上げるべきでしょう」

「心にもないことを・・・おおかた建築業者から金でも受け取っているのだろう? 貴様が必要もない工事を宮廷の費用で行い、私腹を肥やしているともっぱらの噂だぞ」

「ふんっ、サラザール元帥ともあろうお方が噂を真に受けるなどもってのほか。そのようなお方が軍の頂点に立っているとは、嘆かわしい限りですな!」

「愚弄するか、この蝙蝠めが!」

 憤怒の形相を隠そうともしないサラザール元帥と、忌々しそうに脂肪を蓄えた顔を歪めるダゴン侯爵。
 二人のあまりに険悪な雰囲気に、会議の参加者達は話し合いに割って入ることもできずに困惑している。

 この二人の対立は今に始まったことではない。
 サラザールはもともと、先帝であるゼブル・バアル帝の命によりルクセリアの護衛を務めており、極めて親しい関係にあった。
 対するダゴンは戦後になってルクセリアにすり寄るようになった人間の一人で、貴族のパワーバランスを調整するためにやむを得ず配下に迎えられた人物である。
    表向きは心を入れ替えた忠臣を装いながら、女帝を傀儡に仕立て上げようとしていると、もっぱらの噂である。
 同じ主君に仕えながら二人の立場は大いに異なり、ことあるごとに衝突を見せていた。

「ええっと・・・」

 会議の進行役を務めている女官がなんとか場をとりなそうと声を漏らすが、彼女は最近になって取り立てられた下級貴族である。
 軍のトップであるサラザール元帥と、大貴族であるダゴン侯爵に意見などできようはずもない。
 やや涙目になりながらそれでも制止の声を振り絞ろうとする。

「そこまでにしておきなさい」

 しかし、女官が無謀なとりなしの言葉を放つよりも先に、涼やかな声が会議室の空気を切り裂いた。テーブルについた面々の視線が一人の人間の元へと集まっていく。
 流れる滝のような金色の髪。女神が降臨してきたと見間違うほどの美貌。
 そこにいるだけで周囲を魅了してやまない声の主は、バアル帝国の現・皇帝――ルクセリア・バアルであった。
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!