俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 花咲く乙女

帝国の赤き薔薇⑥

side レイン・ハルファス

 私の答えを聞いて、ルクセリア陛下は瞳を大きく見開いて驚きの表情になった。そして、すぐに興味深そうに私の顔を覗き込んできた。
 女神のごとき美貌がすぐ目の前に近づいてきて、思わず身体をのけぞらせてしまう。

「ひゃっ!」

「どうしてそう思うのですか!? どうやってその答えを導きだしたのでしょう!」

「へ、陛下っ、ちかい・・・近いです!」

「おっと・・・失礼しました」

 ルクセリア陛下は興奮してしまったのを恥じているのか、照れっぽく笑いながら口元を抑える。
 浮世離れした美しさを持つルクセリア陛下の年相応に可愛らしい姿を見て、私は自分の中での陛下に対するイメージが書き換えられていくのを感じた。

(やっぱり陛下も十代の女の子なのね・・・ちょっと誤解してたかも・・・)

 皇帝という高い身分についていても、お腹の中に赤ん坊を孕んでいても、陛下が私と年齢の変わらない女性であることに違いはなかった。
 ルクセリア陛下はコホンと咳払いをして、改めて私に問いかけてくる。

「それで・・・どうしてディンギル様がこの子の父親だと思ったのでしょうか。貴女の考えを聞かせてください」

「・・・・・・」

(ディンギル様・・・ですか)

 すでにその呼び方からしてただならぬ関係であることを匂わせているのだが・・・それはとりあえず置いておくことにした。
 私もまた一度深呼吸をして心を落ち着かせて、そこまで至った思考の経路について説明をする。

「私がどうしても気になったのは、ルクセリア陛下にお仕えしている二人の従者についてです」

「従者?」

 私は軽く湯殿を見渡した。
 広い皇族専用の広い浴室の中には大勢の侍女が控えているが、そこにはルクセリア陛下にとって最も心許せる人物の姿が欠けている。

「陛下の専属侍女であるルーナ様。そして、護衛騎士のエスティナ様。そのお二人がこの場にはいらっしゃいません」

 騎士のエスティナは別として、専属侍女であるルーナは仕える女帝の入浴に同行してその手伝いをしているはずである。
 しかし――この場に彼女の姿はない。
 それもそのはず。彼女は現在、長期休暇をとっていて宮廷にはいないのだから。

「ルーナ様だけではありません。エスティナ様も仕事を休んでおられますよね。確かその理由は・・・産休であると伺っております」

「・・・・・・」

「ルクセリア陛下にルーナ様。エスティナ様。一緒に行動をとることが多い三人の女性が同時に妊娠をされているのですから、そこになんらかの関係があるのではないかと思いまして」

「・・・そうですねえ。二人とも出産ギリギリまで休まずに働くつもりだったみたいですけど、ルーナは悪阻がひどくて、エスティナは肉体労働ですし、さすがに休んでもらっています・・・それはそうと、説明を続けてください」

「わかりました」

 私は頷いて、さらに言葉を重ねていく。

「もしも、仮に三人の女性のお相手が同じであるとしたら、その男性はどなたでしょうか。三人の美女を同時に孕ませるような殿方とは何者でしょうか」

 真っ先に私の頭に浮かんだのは、敵の兵士や山賊などの暴漢だ。
 戦乱の混乱の中で何者かの手に落ち、三人が乱暴にあったのではないか。そんな最悪の予想が頭に浮かんだ。

「でも・・・三人とも子供を堕ろすことはなく、それにルクセリア陛下はとても幸せそうに見えます。自分がその男性の子供を宿していることを誇りに思っているような・・・そんな印象を受けました」

「そうですねえ・・・その通りだと思います」

「つまり、その男性は三人の女性を一度に口説き落として心を奪い、さらに押し倒して子供を妊娠させたということになります。当時、御三方が接触をした男性の中で、それほどのプレイボーイはただ一人。ディンギル・マクスウェル様その人であると判断しました」

「なるほど・・・おおむね正解ですね」

 ルクセリア陛下は満足そうにうなずいて、「だけど」とはにかんで笑う。

「ディンギル様が口説き落としたのは三人ではありませんよ? あのお方が帝国に滞在した一週間の間に、この場にいる侍女全員が彼に抱かれていますから」

「ええっ!?」

 さすがにそこまでは予想外だった。
 私は思わず声を上げてしまい、湯殿にいる侍女を順繰りに見る。
 湯着を身に着けた侍女達はある者ははにかんで笑い、ある者は恥ずかしそうに目を逸らしている。

「全員が同じ男性に抱かれ、その秘密を共有している。だからこそ、この場にいる女達の結束は固い。秘密の流出なんてありえません。そのはずなんですが・・・」

 ルクセリア陛下は真剣な顔つきになった。
 右手を軽く胸元に添えて大きな乳房を隠し、湯船から立ち上がる。

「この秘密に感づいている人間が、貴女のほかに少なくとも一人はいるようです。それは誰だかわかりますか?」

「へ・・・・・・あっ!」

 私は先ほどの会議室で繰り広げられた口論を思い出して、思わず立ち上がった。
 一糸まとわぬ裸体を――同年代と比較してかなり貧相な体つきをこの場にいる全員の目にさらされてしまうが、構わず棒立ちになってしまう。

『もしも仮に御子の父親が帝国にとって受け入れがたい人間・・・たとえば敵国の武将や貴族であったとしたら、帝国の基盤を揺るがすスキャンダルになりますぞ!』

「ダゴン侯爵・・・サーグ・ダゴンが秘密を知っている・・・?」

 私は茫然とつぶやいた。
 陛下に叛意を抱いている大貴族が、麗しの女帝にとって急所となる秘密に勘づいている。はたして、それはこの国の行き先にどれほどの影響を与えるのだろうか?

(ただでさえ不安定な時世なのです。最悪の場合、内乱だって・・・)

 そこまで考えたところで、ぐらりと視界が揺れた。
 景色が回っているような錯覚を感じながら、私の身体が後方へと倒れる。

「ちょ、ハルファスさん!?」

 周りの侍女が慌てて駆け寄ってきて、私の身体を支えてくれる。
 頭が熱くてなにも考えられない。まるで大酒を飲んだようにクルクルと世界が回っていた。

「ふああ・・・やつがひみつを・・・はわ・・・」

「ええと、陛下。のぼせているみたいです。外に運び出したほうがよろしいのでは?」

「そうして頂戴・・・うーん、お風呂場で頭を使わせすぎたかしら?」

 陛下と侍女の会話をもうろうとする意識で聞きながら、私は浴室の外へと引きずられていくのであった。

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