273 / 317
幕間 花咲く乙女
帝国の赤き薔薇⑧
side ダゴン侯爵
「クソッ! あの愚かな小娘めっ!」
帝都にある自分の屋敷で酒を飲みながら、私は忌々しげにテーブルを拳で殴りつけた。
私の名前はサーグ・ダゴン。バアル帝国で古くから続く大貴族、ダゴン侯爵家の栄えある当主である。
私を苛立たせている原因は、最近になって皇帝となった女のことである。
彼女の名前はルクセリア・バアル。先帝の四番目の子であり、兄妹の中で唯一の皇女であった。
本来、バアル帝国の皇位継承は男性優位とされており、歴史上に女帝が生まれた前例はない。
にもかかわらず、他の三人の皇子がことごとく失脚するという偶然の産物によって、あの女が皇帝の椅子に座ることになってしまった。
バアル帝国はもともと男尊女卑が著しく、その例にもれず私も女という生き物を下に見ている。
男よりも劣った存在である女が皇帝として自分より上に立ち、偉そうに命令してくるなどハラワタが煮える思いであった。
「フンッ、女など子供を産む道具でしかないというのに、この私の意見を却下するとは・・・ああ、思い出しても憎たらしい! 顔と身体以外にとりえのない小娘の分際で・・・!」
ゴクゴクと勢いよくワインをあおり、グラスを叩きつけるようにしてテーブルに置く。
そもそも、私は第二皇子であるグリード・バアルに仕えていたのだ。
グリードは長子ではないという欠点はあるものの、政略に深く通じており、金と権力の使い方が非常にうまい男だった。
グリードのもとには多くの貴族や商人から賄賂が集まってきており、私もそのおこぼれを頂戴し続けていた。
(それがまさか、あんな愚かな暴走をするとは・・・!)
しかし、そんなグリードも隣国との戦いにおける敗戦、第三皇子スロウス・バアルの謀反を受けて乱心してしまい、禁断の兵器を呼び覚ましてしまった。
おかげで国土は荒廃して産業は衰え、私のもとに入ってくる金は大きく目減りした。
グリードが失脚したときには、配下であった私までもが共謀を疑われて罪に問われてしまい、恩赦をもらうために方々に協力を要請することになってしまった。
結果、貯め込んだ裏金はほとんどが底をついてしまい、ダゴン侯爵家の家名にも傷がつくことになった。
(おまけに・・・次の皇帝がよりにもよって女だと!? 女ごときが皇帝になるなど、帝国は落ちるところまで落ちたか!)
さらに酒をあおり、再びグラスをテーブルに叩きつける。とうとう陶器製のグラスが耐えられず、大きなヒビが入ってしまった。
「このっ・・・!」
私は力いっぱいグラスを壁に投げつけた。ヒビ割れていたグラスが限界を迎えて粉々に砕け散る。
「クソッ、輸入物のグラスが・・・いかん、いかんな。この私ともあろうものが・・・!」
私は大きく深呼吸をして昂ぶりを鎮める。
そうだ、怒りに任せてものに当たるなど、栄光ある貴族がすることではない。
今は落ち着いて、あの女から権力を奪い取ることを考えるのだ。
「そうだ・・・悪いことばかりではないのだ。女が皇帝となったおかげで、私が帝位につける未来も生まれたのだから」
私はクツクツと嗤いながら、その未来を頭に描く。
女帝であるルクセリア・バアルには妊婦であったが、夫がいない。
そして、この国は男性優位の思想が浸透している。
もしもうまい具合に私がルクセリア・バアルの夫となることができれば、女性である彼女を押しのけてそのまま帝位につくことができるかもしれない。
腹に宿っている子供の問題はあるものの、赤子が原因不明の死を遂げるのは珍しくもないことだ。買収した使用人に毒でも飲ませて始末してしまえばいい。
(そうなれば・・・私が皇帝だ! この私が国の頂点に立つのだ! ああ、たまらん!)
皇帝の椅子に座ることもそうだが、あの澄ました顔の女を無茶苦茶に犯してやるのを想像するだけで、下半身に血が集中してしまう。
どうせ女など、それ以外に使い道はないのだ。せいぜい可愛がってやり、私の子供を孕ませてやろうではないか!
「その前に、きちんと腹の中を消毒してやらねばな! ふんっ、まさか赤子の父親がマクスウェルだったとはますます忌々しいわ!」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!