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幕間 花咲く乙女
南洋の紫蘭①
side とある国の宰相
私の名前はサミュエル・ラウロス。南洋諸島の東部にあるガーネット王国で宰相をしている。
私が仕えているガーネット王国は数ヵ月前、獅子王国という海賊国家によって占領され支配下に置かれていた。
獅子王国を植民地にしたのはキャプテン・ドレークを名乗る海賊である。
ドレークはガーネット王国を支配して、国王の身柄を人質に取られた私もあの男の悪事に加担させられていた。
ドレークは表立って圧政を敷くことこそなかったものの、なにが面白いのか他者を必要以上に苦しめる趣味を持っていた。自分に逆らう者を拷問にかけて殺したり、修道院を焼き払ってシスターを戯れに磔にかけたり暴虐を繰り返した。
どうしてそのようなことをするのかと尋ねてみたところ「神が自分に罰を与えに来るのか試してみたかった」などというふざけた答えが返ってきたときには、頭が沸騰しそうになってしまったものである。
獅子身中の虫となることでドレークをこの国から追い出すことに成功したものの、荒れ果てたガーネット王国の再建は至難を極めた。
有能な家臣の多くが獅子王国との戦いで、その後の圧政で命を落としていたのだ。人材不足は避けることができなかった。
(もっとも、そのおかげで私は宰相で居続けることができたのだが・・・)
本来であれば、仮初とはいえドレークの下についていた私も地位を追われてもおかしくなかった。処分を免れて宰相の地位を維持できたのは、紛れもなくこの国の人材不足が要因である。
かくして、私は再び宰相となってガーネット王国の復興に従事することになり、罪滅ぼしのために身を粉にして働くことになった。
復興を始めてから数ヵ月経つと徐々にその奮闘も実になってきて、王国の人々の顔にも徐々に明かりが差すようになってきた。
しかし、ガーネット王国がかつての繁栄を取り戻す中、私には一つ、どうしても心配なことがあった。それは私の娘――スーレイア・ラウロスのことである。
「キー!」
「キー、キー!」
私の目の前で、身の丈二メートルほどの大猿が石材を抱えて運んでいる。
私がいる場所はガーネット王国の沿岸部にある港町ヴェニラ。かつて獅子王国が攻め込んできたときには、主戦場となった町の一つである。
戦いが終わってから半年近くが経過しているが、火薬を用いた兵器によって攻撃を受けた町には、いまだ色濃い破壊の跡が残っている。
そんな町の中で、十数匹の大猿が甲斐甲斐しく復興作業を行っている。石材や木材を両手で抱えて走り回っているもの。折り重なったガレキを取り除いているもの。なんの冗談なのか、屋根の上に登って金槌で釘を打ち付けているものまでいた。
文字通りに人間の猿真似をしているような光景は、この町のあちこちで連日にわたって見られており、今や町の風物詩となりつつあった。
行き交う町の住民達も大猿を怯えることなく、笑顔で猿達の働きをねぎらい、パンや干し肉を与えていたりする始末である。
「相変わらず・・・ふざけた力だな」
私はそんな町を眺めながら、ガックリと肩を落とした。
本格的にヴェニラの町を復興するため、陣頭指揮としてヴェニラへ滞在を始めてから2週間。このジョークのような光景がすでに日常の一部となりつつあった。
本来であれば、宰相という政治のトップの地位に立つ私が現場に直接やって来ることなどあるはずがない。しかし、とある事情から私は自分からヴェニラに来ることを志願して、こうしてはるばる趣いてきた。
「はいはい、そっちの石は向こうに運んで。ガレキはとりあえず港のそばに積んでくださーい」
「キー!」
「・・・・・・」
華やかな女性の声が港町に響きわたる。声の咆哮に目を向けると、青みがかった髪を首の後ろで結んだ女が両手に持った図案に目を落としながら、大猿に指示を出していた。
その女こそが、私の娘であるスーレイア・ラウロス。
動物や魔物と会話をして、心を通じるという不可思議な力を有する魔性の娘であった。
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