俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 花咲く乙女

南洋の紫蘭⑥

side スー

「ふー・・・疲れました」

 昼間の復興作業を終えて、私は仮宿にしている教会へと戻ってきました。
 数ヵ月前には何人かの神官が生活していた教会ですが、キャプテン・ドレークによる聖職者への弾圧を受けて、今は無人の建物になっています。
 本当はもっとよい宿を用意してくれると町の人から言われていましたが、あえてこの建物で寝泊まりすることにしています。
 少し前まで修道院で生活していたということもあり、この教会のように簡素ながらも厳かな空気の場所はとても落ち着くのです。

「それじゃあ、皆さんもゆっくり休んでくださいねー」

「キー!」

 私の呼びかけに手伝いに来てくれているお猿さん達が手を振って応えてくれました。
 広い教会の中には十数匹のお猿さんが肩を寄せ合って座っており、食事として提供されたお芋やパン、魚の干物に齧りついています。

 この町の復興のために集まってくれたお猿さんは、もともとガーネット島の内陸にある山間部に住んでいました。
 温厚で縄張りに入り込まない限りは人を襲うことのない彼らでしたが、最近になって山崩れによってエサ場のいくつかが失われてしまい、飢え死にの危機に立たされています。
 やむを得ず人里に降りて畑などを荒らそうとしていたお猿さんでしたが、偶然にも私と仲良くしている小鳥さんが彼らの窮状に気がついて私に知らせてくれました。
 私は山に行って彼らと交渉をして、食料と引き換えにこの国の復興作業を手伝ってくれるようにお願いしました。
 今ではすっかり町の人達と打ち解けており、作業の休憩時間には子供をおぶって遊んであげているくらいです。

「それじゃあ、私は二階で休みますねー。明日もよろしくお願いします」

「キーキー!」

 お猿さんに見送られて、私は階段を上って教会の二階の部屋へと足を踏み入れました。神官様がお使いになっていた部屋はキレイに片付けられており、テーブルとベッドくらいしか家具は置いてありません。

「ふー・・・・・・」

 私はベッドに横になって天井を見上げ、疲れを長い息とともに吐き出しました。

「お父様もこちらに来ればよかったのに・・・どうしてわざわざ宿をとったのでしょう?」

 現在、宰相である父がこの町に滞在しています。その目的は、街の復興がどれくらい進んでいるかを視察するためだと聞いています。
 父にもぜひ教会に泊まっていただこうと思っていたのですが、なぜか渋い顔を浮かべて首を横に振られてしまいました。

『いや、猿が・・・・・・ううむ、なんでもない・・・・・・』

「お猿さん達、みんなおとなしいのに。お父様ってば動物が苦手なのでしょうか?」

 微妙な顔をして去って行った父の顔を思い出し、私は首を傾げました。
 考えてもみれば、私がラウロス家から修道院へと送られるようになったのもネズミやカラスとお話しできることを父が知ってしまってからです。
 ひょっとしたら動物が嫌いだったために、いっそう私の力を不気味に感じたのかもしれません。

「むう、好き嫌いはしてはダメって子供の頃叱ってきたのに・・・こうなったら、父がいる宿にお猿さんを投入してみましょうか? それにしても・・・」

 私はひょいと立ち上がって窓を開けました。潮の香りをまとった海風が吹き込んできて髪を揺らしてきた。

「ご主人様、今頃なにをしているでしょうか?」

 私がご主人様――ディンギル・マクスウェルという男性と過ごしたのはわずかな間です。それでも、彼の存在は私の心に強く焼き付いており、たった一月会わなかっただけでも、胸に穴が開いたような喪失感に囚われてしまいます。

(無理もありませんよね・・・本当に、色々なことがありましたから)

 貴族令嬢として過ごした幼少期。修道女として過ごした十年間。それらを塗りつぶしてしまうほど、あの方と過ごした時間は濃密だった。
 奴隷として海賊に捕まったところを救出され、そのままベッドで一夜を過ごした。
 サファイア王国を襲ってきた海賊の軍隊を撃退して、キャプテン・ドレークからガーネット王国を取り戻した。
 ご主人様と一緒にいて、この小さな島で過ごしていた私の世界が驚くほど広がっていくのを感じた。

「早く会いたいな・・・ご主人様、サクヤちゃん・・・」

 私は服の胸元を握り締めて、夜空に向けてつぶやきました。
 締め付けられるような痛み。それはラウロス家を追われた時でさえ感じることはなかった愛慕の念でした。

(これが愛しいという感情なのですね、ご主人様・・・)

 早くご主人様に会いたい。
 そのためにも、速くこの国の復興を終わらせてランペルージ王国に向かわないと!

「そのためにも、今日は早めに休みましょうか」

 私は改めて決意を胸に抱いて、窓を閉じようとする。
 しかしーー

「え・・・?」

 突然、部屋が真っ暗になってしまいました。
 ランプの油が切れたのかと振り返ろうとした私ですが、うまく頭を動かすことができません。

(違う・・・頭になにかが・・・?)

 どうやら部屋が暗くなったのではなく、なにかを頭にかぶされているみたいです。
 それは麻で編んだ袋のようでした。袋は私の頭から足元までをすっぽり覆ってしまい、そのまま足と顔にあたる部分を袋の上から縛られてしまいます。

「んーっ⁉」

 顔を袋の上から縛られているせいでうまく声を出すことができません。何者かが私の身体を抱き上げて、どこかに連れて行こうとしています。
 自分が何者かに誘拐されかけていると気がついた時にはもう遅い。ガチャリとドアが開く音がして、私は建物の外へと連れ出されました。
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