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第5章 聖地崩落編
4.聖地と再会
東方辺境最北端の町リーブラ。
そこは東方辺境と北方辺境の境目にあり、二つの地域を結ぶ物流の中心として多くの人々が行き来していた。
北方辺境は山地が多く、冬になると領地のほとんどが雪化粧に覆われてしまう。
そのため、そこに住む人々は雪のように色素の薄い肌の人間が多く、一目見ただけでも北の人間かどうかを見分けることができた。
多くの人が行き交う町中を人通りの多いほうに向けて進んでいく。
やがて、町の中心にある二つの建物へとたどり着いた。
一方は町の領主であるヴォルテス男爵の屋敷。もう一方は星神教の神殿である。
領主の屋敷の隣に神殿があることからも、ヴォルテス男爵がいかに星神教に強く帰依しているかがわかる光景である。
星神教の神殿の前には信者らしき者達が大勢取り巻いており、中にはひざまづいて祈りを捧げている者までいた。
「へえ・・・なかなか賑やかじゃないか」
俺は信者達の間をすり抜けて、天秤の紋章が掲げられた門をくぐった。
敷地の中に入ると、白いローブ姿の女が歩み寄ってきた。
「失礼ですがどちら様でしょうか」
「俺はディンギルという者だ。ここでお祓いをしてくれると聞いてきたのだが」
俺は女を観察しながら答えた。
銀の髪を背中に流した女は首から上をヴェールで覆っており、顔の造形を見ることはできなかった。
しかし、ほっそりとした身体つきや、澄んだ鐘の音のような声はなかなかに美しく、琴線に触れるものがあった。
(美人だな、間違いない。顔の布をめくったら怒られるよな?)
「大変申し訳ございませんが、紹介のない方への面会は断らせていただいております。どうぞまたの機会に・・・」
「ああ、忘れていた。これは寄付金だ。とっておいて欲しい」
「これは・・・」
俺は有無を言わせず、女の手を取って布袋を握らせた。袋の中にはぎっしりと金貨が詰まっている。
財力という傲慢な重みに、女がヴェールの向こうで息を飲む気配がした。
「・・・上の者に確認をとって参ります。少々、お待ちくださいませ」
「おう」
女が布袋を大事そうに両手で持ち、建物の中へと消えていく。
「地獄の沙汰も金次第。世知辛いよな」
うそぶきながら門の外に目を向けると、外で祈りを捧げていた信者が恨めしい目つきでこちらを睨んできた。
「シロガネ様のお手に触れるとは・・・」
「巫女守様に馴れ馴れしい口を利くとは、無礼な若者め!」
「ハア、ハア、シロガネたん。ぺろぺろしたい・・・」
どうやら先ほどの銀髪の女はシロガネというらしい。
どうでもいいが、信者の中に変態が混じっていた。
「お待たせいたしました。先約がございますのですぐにとはいきませんが、奥でお待ちくださいませ」
「ああ、急に悪いな」
「いいえ、どうぞこちらへ・・・」
俺はシロガネの案内で建物の中へと足を踏み入れた。
銀色の髪の後ろを続く俺へと、信者の怨嗟の視線が突き刺さる。
「むう、我らだって簡単に中に入れぬというのに」
「星神様のバチがあたるぞ。無礼者め!」
「はあ・・・シロガネたん。ふみふみしてほしい・・・」
「いや、俺のことよりもあの変態を追い払えよ・・・」
「は? なにかおっしゃいましたか?」
「いや・・・」
俺は腑に落ちない気持ちに襲われながらも、シロガネの後に続いて廊下を進んでいく。
きちんと掃除された屋敷には質の良い絨毯や調度品が設置されており、貴族の邸宅となんら変わらない造りである。
(宗教ってのは儲かるんだな。ウチの領地でもなにか広めてみるかね?)
マクスウェル辺境伯領をはじめとして、東方辺境は宗教に関してはかなり緩い部分があった。
東の帝国などで信仰されている聖神を崇めている者もいれば、南方の精霊崇拝、北方の拝火信仰に入信している者もいるくらいだ。
ヴォルテス男爵が星神教を保護しているのも、あるいは宗教の経済的側面に目を付けているからかもしれない。
「ディンギル教ーーなんてな。神官は女限定で聖衣はレースのスケスケで決まりだな」
「それではこちらのお部屋で待ちください」
「ん? ああ、ご苦労」
くつくつと笑いながらしょうもない妄想を広げていると、待合室についたようである。
俺は鷹揚に頷いて待合室へと一歩踏みだし、そこで足を止めた。
「あ」
「お?」
待合室には先客がいた。
若い男が椅子に腰掛けて、退屈そうに懐中時計をいじっている。
「えーと、ディンギルさん?」
「お前・・・」
目を丸くして俺の名をつぶやいた男は、当代の剣聖であるベナミス・セイバールーンだった。
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